お願いアルジェ
「美味しかった」
「そう?よかったー」
初めての温かい食事を経験したアルジェはこれまで経験したことのない感情を覚えていた。
手料理を好評されてハルヒも満悦であった。
朝食を振る舞ってもらったところでアルジェは後ろから視線を向けられているのを感じた。
後ろを振り向くとそこには難しい表情をしながらこちらをじっと覗いているアルムの姿があった。
「アルム、そこで何をしている?」
「見守ってるんだよ。キミがハルヒに手を出したりしないかってね」
「私は戦いに来たのではない。杞憂」
アルジェは表情ひとつ変えずに答えるとついでのようにアルムを煽り立てた。
悪意なく放たれる煽りにアルムは神経を逆撫でされる。
「まあまあ、アルムには手を出さないように言ってあるから。ねえアルジェ、アルジェは今まで何かを楽しいと思ったことある?」
「アルムを甚振っている時は楽しかった」
カグヤからの問いにアルジェは忌憚なく答えた。
ハルヒがドン引きする一方でカグヤは頭を抱えつつも質問を続行する。
「他には?」
「ない」
アルジェは娯楽を知らなかった。
彼女の口からそれを聞き出したカグヤはこの後の行動を決定する。
「よし。話し合いはここで終わり。一緒に遊びに行こう」
「ええっ!?」
「本気で言ってるの?」
カグヤの決定にハルヒとアルムは驚愕した。
アルムの敵であるアルジェを連れて遊びに行くと言うのだから当然の反応であった。
「アルジェは戦う気ないんでしょ?」
「うん。今はその時じゃない」
「じゃあ決まり。アルムにも息抜きの時間が必要かなって思ってた頃だしちょうどいいや。今から支度するよー」
アルジェに先頭の意思がないことを確認すると強行して外出の準備を始めた。
その強引ぶりにハルヒとアルムは何も言葉が出てこない。
「待って」
支度を済ませて玄関を開けようとしたカグヤにアルムが制止をかけた。
「どうした?」
「キメラの気配がするんだ」
「キメラならそこにアルジェがいるじゃん」
「そうじゃなくて。もう一体いるんだよ」
アルムはキメラの気配を感じ取っていた。
そしてそれが自分たちの近くにいることまでは把握していた。
「ボクが先行するよ」
アルムはカグヤを一歩奥にに引かせるとカグヤに代わって玄関を開けた。
するとそれを見計らったかのように玄関先を狙って真上から矢のようなものが飛んでくる。
アルムが上を見るとそこには黒い鳥型のキメラの姿があった。
アルムはすぐさま戦いに向かおうとするがそれを阻むかのように下腹部に痛みが走った。
アルジェとの戦闘で負った傷がまだ癒えていなかったのである。
「ダメだよアルム。まだ戦える状態じゃない」
「でもボクが行かないと」
「アルジェ、私たちを守って」
ダメージを押して戦闘に出ようとするアルムを遮ってカグヤはアルジェを頼った。
アルムが万全で戦えない今、頼れる存在はアルジェのみであった。
「わかった」
アルジェはカグヤの言葉をマスターからの命令と解釈して動き出した。
玄関から飛び出し、鳥型のキメラ=クロウキメラの存在を観測すると躊躇なく銀龍の姿に変身した。
『マスターの外敵は排除する』
アルジェはノイズ混じりの音声と共にクロウキメラ目掛けて飛翔した。
クロウキメラはこちらに向かってくるキメラの姿を見て動揺を見せた。
「貴様は私とマスターを共にするキメラではないのか!?」
『確かにシロガネ・レンは私のマスター。でもカナメ・カグヤも私のマスター。マスターを害するものは誰であっても容赦はしない』
アルジェはクロウキメラに冷徹に言い放つと背後に組み付き、そのまま頭を下にするように旋回するとそのまま力任せに急降下した。
クロウキメラの身体はアルジェに引きずられる形で地上に叩き落とされる。
「貴様マスターを裏切るのか!?」
『裏切りではない。マスターの命令に従い、お前を排除する』
アルジェは叩き落としたクロウキメラが起き上がったところにすかさず冷気を纏ったブレスを浴びせかけた。
クロウキメラは応戦して矢を放つがブレスにパワー負けしてかき消され、ブレスの直撃を受けることとなった。
ブレスを受けたクロウキメラの身体はたちまち体温を失い、動きを停止して胴体から四肢の末端まで凍りつく。
アルジェはクロウキメラが生命活動を停止したのを検知すると低空飛行と旋回から遠心力を乗せて尻尾を一振りし、その一撃で氷塊と化したクロウキメラの身体を粉々に粉砕した。
クロウキメラを葬ったアルジェは死体の確認すらせず、再び人間の姿になってカグヤの元に合流した。
今際の際の断末魔すら出させない冷酷無情ともいえるその戦いぶりにカグヤ、ハルヒ、アルムの三人は思わず息を呑んだ。
「敵は排除した」
「ありがと。あーしらを守ってくれて」
アルジェから報告を受けたカグヤは労いの言葉をかけるとアルジェの頭をそっと撫でた。
アルムとは敵対関係にあれど自分の命令に従って守ってくれたことには変わりはなかった。
カグヤから労われたアルジェは満更でもないように少し目を細めた。
その時、カグヤはアルジェが生物的な感情を持っていることを確信し、彼女を攻略する糸口を見つけたのであった。




