謎だらけのイレギュラー
アルジェの訪問後、カグヤは複雑な思いを抱えていた。
自分が間接的にキメラの誕生に関わっていたこと、おそらくこれから敵対することになるであろうキメラに顔を知られたこと、そのキメラがアルムを模倣しているということ。
様々な要素が不安になってカグヤにのしかかる。
日没が迫りつつある頃になってアルムが帰ってきた。
普段カグヤがいればついているはずの明かりがついていないことに違和感を覚えて首を傾げる。
「寝てるのかな?」
アルムは呑気に口走りながらリビングに向かう。
するとリビングの奥から覗く寝室でぼんやりしているカグヤの姿があった。
「ただいまカグヤー」
「おかえり。楽しかった?」
アルムに声をかけられたカグヤはいつも通りに応答した。
しかしその声はどこか疲れているように感じられた。
「何かあったの?」
「今朝変な子がうちに来てさ」
カグヤは今朝起きた出来事をアルムに伝えた。
しかし説明を受けた上でアルムには状況がよく理解できなかった。
いくつかの事項がキメラの常識を逸していたのである。
「そのアルジェって子は本当にキメラなの?もしキメラならボクが気配を感じ取れるはずなんだけど」
「わかんないよ。それにアルムのその能力も感じ取れる範囲に限界あるでしょ」
アルムの理解を阻害する要素の一つ目はアルム自身が存在を感知できなかったことであった。
もしアルジェの正体がキメラであるならば姿を見ずともアルムが感知することができたはずである。
だが今回は途中で反応がなくなったでもなく、本当になにも感じなかったのである。
「カグヤのことをマスターだって言うのもよくわからないなぁ」
「あーしもよくわかんない。あーしの配信からデータを取って生まれたからデータの提供者であるあーしも実質マスターだみたいなこと言ってたけど……」
カグヤから話を聞いたアルムはかつて自身がカグヤと交わしたやり取りを思い出した。
『もしキメラを作ったマスターが二人いたとしたら』
過去には存在しなかったイレギュラーが現代で発生したことになる。
「ボクは顔を見てないからわかんないけど、そのアルジェって子はどんな子だったの?」
「喋りはするけどずっと淡々としてて、どこ見てんのかわかんないような目をしてて、あとは……」
「あとは?」
「ドチャクソタイプな子だった」
カグヤはアルジェの顔を思い出すと鼻の下を伸ばして恍惚とした表情を浮かべた。
気が重そうだった表情が一転して趣味を語るオタクの顔になる。
カグヤはアルムと出会う以前に配信で自身の好みのタイプを語ったことがあった。
『あーしの好きなキャラ?銀髪赤目でー、背がちっちゃくてー、おっぱいが大きい子かなー』
以前語った好みのタイプに完璧に合致していたのである。
アルムはカグヤの今まで見たことのない表情を見てドン引きした。
「キメラかもしれないその子をそんな目で見てたの……?」
「しょうがないじゃん。好みの顔してたんだから」
カグヤは開き直ったように言い切った。
「そのアルジェって子、ボクも見てみたいなあ」
「アルムにも用があるみたいなこと言ってたし、そう遠くないうちに会えるかもね」
アルムとカグヤはアルジェの再訪の可能性を予感するのであった。




