現代に生きる伝説
アルムとバーンドレイクキメラの戦闘が発生したその日の夜、メディアの話題は金龍で持ち切りとなっていた。
町一体を焦土にした激しい戦闘が注目されないはずがなく、その跡地には様々なメディアが取材に来ている。
ビル街のビューイングには配信されていた戦闘の様子が引用で映し出され、コメンテーターが考察を述べていた。
『この金色のドラゴンのような未確認生物は以前にもこの映像が撮影された近辺での目撃例があり、その時にも異形の怪物と戦っていたとの情報が寄せられていますがいったい何者なのでしょう』
『一説にはあの”金龍伝説”の金龍ではないかとも囁かれていますが、真相は不明です。今後の解明が待たれますね』
SNSでも金龍の存在が大々的に明るみになり、様々な憶測が飛び交う。
『バリバリに放電してるし本当に生物なのか?』
『ファンタジーすぎて理解が追い付かん』
金龍が世間の話題をかっさらう中、アルムはカグヤと一緒にアパートでいつものような時間を過ごしていた。
アルムは雷に打たれたことで体力がほぼ全快しており、ダメージが残っている様子もない。
「いやー、すごかったなー」
「今回は雨が降らなかったらボクも危なかったかも」
アルムはバーンドレイクキメラとの戦闘を振り返った。
今回は取り逃すことなく一度で仕留められたものの能力差は互角に迫ろうとしており、雨が味方しなければ炎に焼かれていた可能性も十分にあった。
「でもあんなキメラは千年前にはいなかったんだよなー。ボク以外にドラゴンのキメラが出てくるなんて」
アルムは今回の敵を思い返して首を傾げた。
キメラは他の生物を象った錬金生命体だが空想の存在を象ることなどまずありえない。
アルムは自身がマスターであるオルフェウスの超絶技巧によって誕生したイレギュラーであることを自覚しているがゆえに今回の事象が不思議に思えてならなかった。
カグヤはスマホの画面を覗くとそれをアルムに見せつけた。
そこには昼間の戦闘の様子を映した配信を切りぬいたキャプチャ画像やそれに関する憶測の投稿が無数に羅列されていた。
「見てよコレ、アルムがいっぱい映ってる」
「えーどれどれ?うわ本当だー!」
アルムはカグヤのスマホの画面を確認すると自分のスマホで確認し直した。
やはりそこには自分の正体である金龍に関するSNS利用者の投稿で溢れかえっていた。
今回の一件でこれまで町の人間の一部が知る都市伝説的なものとして扱われていた金龍の存在が町の外の人間にも一気に明るみに出たのである。
「有名になっちゃったねー」
「ボクって元々伝説で世界中に知られてるんじゃないの?」
カグヤの煽りにアルムは大真面目に尋ね返した。
金龍伝説は何百年も昔から世界各地で語られており、その正体はともかくとして知名度そのものはかなり高い方である。
アルムも現代に目覚めて間もないうちに自分が伝説となっていることを知ったため、今更というのが本音あった。
「そう言われれば仰る通りで」
「かつての金龍伝説の続きがここから始まる……なんてね」
「ふふっ。何それおもろ」
アルムはわざとらしく不敵に笑いながら悪乗りした。
カグヤや配信を視聴しに来るリスナーたちを見て覚えたオタク仕草である。
すっかり現代のオタク文化に染まったアルムの姿を見たカグヤは思わず笑った。
「そろそろ配信の時間」
「そうだった。今日は何やるんだっけ?」
スマホの時計を見たカグヤは配信の準備を始めた。
今回の配信内容はアクションゲームの協力プレイである。
カグヤとアルムは機材を立ち上げ、ヘッドセットを装着してゲーム機のコントローラを握る。
「はいどーもー。今日はゲームを協力プレイで遊んでくよー」
カグヤが進行を務めながら配信が始まる。
昼間の騒動を忘れたかのようにリスナーたちが集まり、配信は盛り上がりを見せる。
『そういえばアルムちゃんの角と尻尾ってあの金龍のと似てない?』
配信中、リスナーの一人がとあるコメントを書き込んだ。
その内容はアルムの角と尻尾が今話題になっている金龍のそれとそっくりだというものであった。
コメントによって他のリスナーたちも一人また一人とそれに気付いていく。
『アルムちゃんと金龍って何か関係あるの?』
ゲームが休憩ポイントに入ったタイミングでリスナーがコメントで金龍のことで盛り上がっていることに気づいたカグヤは話題に乗って話を展開した。
「アルムがあの金龍に似てるって?まっさかー、ただの偶然だよ偶然。ねー」
「え?ああ、うん、そうだね」
カグヤに話題を振られたアルムは歯切れの悪い返事を返した。
その反応は白々しさと胡散臭さに満ち溢れており、逆にリスナーたちは疑いを向ける。
『マジで金龍なの?』
「そんなわけないでしょ。アルムはどう見ても金龍よりも小さいじゃん。うちはボロアパートだからあんな巨体入らないって」
「そうだよー。こんなところ天井抜けちゃうよ」
「人の家をこんなところ言うな」
カグヤはそれっぽい理屈をこねて疑いをあしらった。
ある程度カグヤの生活事情を知っている古参リスナーたちはそれに納得するような反応を見せる。
「まあでも仮にアルムが金龍だったとしてさ、伝説の金龍と一緒に配信してるあーしすごくない?」
カグヤは金龍を出汁にしてトークを展開していった。
アルムもそれに便乗し、リスナーたちとやり取りを交わす。
その日かつて空想とされた金龍の存在が現実で認知され、伝説は現代に蘇ったのであった。




