空模様が変わる時
アルムとバーンドレイクキメラの戦闘は熾烈を極めていた。
爆炎と落雷が絶えず降り注ぎ、そこにもはや人の入る余地などなかった。
バーンドレイクキメラが炎を繰り出すとアルムは素早く飛行して高い足場へと身を移し、それを追いかけてバーンドレイクキメラが地上を駆けて破壊する。
肉弾戦も飛び道具もお互いに手ごたえこそあるものの有効打にはなり得ず、じりじりと膠着した状態が続いていた。
戦いが続く中、空模様が変わりつつあった。
暗い色の雲が空一帯を流れ、日光を遮って地上に影を作って冷たい空気を作り出す。
(これは……)
空気が変わったのを肌で感じ取ったカグヤはその先に何が起こるのかを察知した。
その刹那、空から冷たい水の雫が一粒、また一粒と落ちてくる。
予感を確信に変えたカグヤが近くの軒先に身を移すと雨が勢いよく降り始めた。
それは予報になかった通り雨であった。
雨に打たれたことで戦場に噴き上がる炎が勢いを弱め、消化されて黒い煙を上げる。
バーンドレイクキメラの火炎が弱体化した今がアルムには好機であった。
アルムは原形を残していた建物の屋上に飛び移ると翼を広げて角を青白く発光させた。
次の瞬間空から稲光が走り、吸い寄せられるようにアルムへと落ちてくる。
アルムは落雷の発生を予感して自らの元に落ちてくるように誘導をかけたのである。
雷を喰らったことでアルムは消耗した力を一気に回復させた。
雷のエネルギーで治癒能力を活性化させたことで火傷も癒え、体力も万全に戻って力を漲らせる。
アルムは咆哮と同時に全身から電気を放出した。
全身に電気を纏い、屋上から飛来してバーンドレイクキメラに再び挑みかかる。
雨が味方して炎が弱まったことでバーンドレイクの攻撃はアルムに届かなくなり、身体が濡れたことで電気がより強力に作用する。
戦場に降り注ぐ雨が悉くアルムに対して有利な状況を作り上げていた。
『ここで終わりにする!』
アルムはバーンドレイクキメラを突き飛ばすと角を光らせた。
彼女を起点として足元に青白い電気が駆け巡り、周囲の地面が青白く染まる。
駆け巡る電気を踏んだバーンドレイクキメラは感電して全身の筋肉の自由を喪失し、火花を散らして棒立ちしたまま痙攣を繰り返す。
アルムは姿勢を低くして力を溜め込んだ。
空から発生する雷がアルムの元へと集まり、彼女にさらなる力を与える。
余剰なエネルギーが電気に変換され、アルムの身体から外へと放出された。
チャージを完了したアルムは炸裂音を発生させて飛び出した。
彼女の軌跡に紫電が発生し、周囲の灰燼を派手に巻き上げて吹き飛ばす。
アルムの一撃はバーンドレイクキメラの身体をいとも容易く貫いてみせた。
黒い外殻が砕け散り、胴体の中心に円形の風穴を空けた。
バーンドレイクキメラの目から輝きが消え、口角から漏れていた炎と黒煙が止まるとそのまま後ろへと倒れ込んだ。
雨に打たれて冷たくなったその身体は二度と動くことはなかった。
雨が炎を鎮め、戦場となった町には焼け落ちた建物の残骸とそこに立ち尽くす金龍アルムの姿があった。
雷を伴って強く降り注いでいた雨はバーンドレイクキメラが討たれると役目を果たしたと言わんばかりに徐々に弱まっていく。
止まる理由のなくなったアルムは空へと飛び去っていった。
彼女が去っていった空には雷鳴が轟き、その後に雲の隙間から眩い日光が射し込んで虹がかかった。
「うわヤッバ!」
戦いが終わり、雨が上がったところでカグヤは自分がバイトを無断で抜け出した身であることを思い出した。
周囲を見回すがレンの姿がどこにもない。
どうやらあちらは知らぬ間にいなくなったようであった。
スマホにはバイト先のスタッフからのメッセージが無数に届いている。
カグヤはメッセージに目を通しながら雨上がりの日光に照り返される道を走り、シロガネ館へと戻るのであった。




