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金龍とカナメ姉妹

 『着いたよー』


 妹が玄関の前まで来ていることを確認したカグヤはやむなく出迎えに向かった。

 アルムはカグヤの妹見たさにウズウズしている。


 カグヤが玄関を開けるとそこにはメガネをかけた制服姿の女の子が立っていた。

 彼女こそカナメ・ハルヒで間違いはなかった。


 「お待たせ。今日お客さん来てるから」

 「へぇー珍しいね。お邪魔しまーす」


 カグヤが前置きをするとハルヒは気楽に靴を脱いで家に上がりこんだ。

 ハルヒが慣れた足取りでリビングに向かうと早速アルムと顔を合わせることとなった。


 「こんにちはー」

 「こんにちは!ボクはアルム!」


 ハルヒが小さく会釈を交えて挨拶をするとアルムは先に自己紹介をした。

 ハルヒの髪や瞳の色、体格から彼女がカグヤの妹であることはアルムにも一目で理解できた。


 「あー、紹介するわ。この人?はついさっき知り合ったばっかりで、正体はさっきあーしを助けてくれた金色のドラゴンで、千年眠ってたキメラ」


 カグヤは大雑把にアルムのことを紹介した。

 姉の口から飛び出す出鱈目な情報の暴力にハルヒは耳を疑わずにはいられなかった。


 「お姉ちゃん。いくらオタク趣味があるからってそれは流石にちょっと……」

 「あーしも信じられないけどそう紹介するしかなくて」


 やはりハルヒもアルムのことを胡散臭く感じていた。

 アルムはどうにか信じてもらえないか考え、とあることを思いついた。


 「ねえねえ、今からやること見たら信じてくれる?」

 

 アルムが声をかけるとカグヤとハルヒはアルムに注目した。

 次の瞬間、アルムの頭に人間にはまずありえない形状の二本の角が出現し、腰から長い尻尾が伸びた。

 その角と尻尾はついさっき街に現れたドラゴンのそれと全く同じ形状をしていた。

 

 「どう?これで信じてくれるかな」


 アルムは得意げにカグヤとハルヒに尋ねる。

 これには二人もアルムの言動に納得せざるを得なかった。


 その後もアルムは角と尻尾を出したままハルヒに対してカグヤに行ったものと全く同じ説明をした。。

 アルムの尻尾が彼女の感情に呼応してフリフリと上下左右に揺れる。

 その様はまるで小動物のそれであった。


 「……というわけでございまして」

 「うーん、まったくわからないけどとりあえず悪い人じゃないんだ」

 

 カグヤから改めて補足を受けたハルヒはアルムの存在の出鱈目ぶりに対する理解はできなかったものの、彼女が姉に対して無害な存在であることを理解して一応の納得を示した。

 ハルヒから一定の理解を得られたことにアルムは安堵の表情を浮かべた。

 

 「お腹減ったー……ハルヒ何か作ってー」


 安息を得たことで空腹を感じたカグヤはハルヒに夕食を要求した。

 時刻は午後十九時を回っていた。


 カグヤは一人暮らしの身でありながら自炊が不得手である。

 それどころか洗濯や掃除といった生活スキルにもかなり乏しく、月に数回訪れるハルヒにその都度世話を焼かれているという有様であった。

 そしてハルヒもそんな姉を甲斐甲斐しく世話するのである。


 「カグヤはハルヒのお姉ちゃんなんだよね?」

 「ん。そだよー」

 「お姉ちゃんなのに妹に面倒見られてるなんて変わってるねー」

 「時代は変わったんだよ、千年前のキメラさん」


 台所にむかったハルヒを見たアルムは困惑しながらカグヤに尋ねた。

 するとカグヤはクッションを枕にしてくつろぎながらアルムに時代の変化を説いた。

 傍から見れば妹に家事を丸投げしてだらけているようにしかみえず、姉としての威厳が微塵も感じられない。


 「ハルヒは何も思わないの?」

 「別に何とも思わないよ。むしろちょっとダメなところがあるぐらいが人間ちょうどいいから」


 アルムは今度はハルヒに疑問をぶつけるがハルヒはそれを一蹴する。

 彼女にとって姉の欠点は許容の範疇であり、別居している姉の元を尋ねるための口実程度にしか思っていなかった。

 かつて自分が生きていた時代からは想像もつかない現代人の価値観の変化にアルムは困惑するばかりであった。


 「実の姉のことダメとか言うなしー」

 

 カグヤはだらけながらハルヒとアルムのやり取りに口を挟んだ。

 カグヤにとってこの欠点は自覚済みであるため、今更怒ることでもない。


 「ただ待ってても暇だしさ、逆にアルムからあーしらに聞いてみたいこととかある?」


 カグヤはスマホを弄りながら暇つぶしがてらアルムに質問を集った。

 するとアルムはカグヤの傍に回り込んで興味津々にスマホの画面をのぞき込む。


 「カグヤが今触ってるそれって何?」

 「これはスマホと言ってねー。遠くにいる人と話したり、メッセージのやり取りしたりー、本読んだりゲームで遊んだりいろいろできるの」

 「そんなにいろんなことができるの?こんなに薄い板一枚で?」

 「できる。あと薄い板言うな」


 カグヤからスマホに関する説明を受けたアルムは唖然とした。

 自分が眠っていた千年の間に人類が規格外の進歩を遂げていたことに驚きを隠せない。


 「それってハルヒも持ってるの?」

 「もちろん。ちなみにこれ現代人の標準装備ね」

 「えーっ!?今ってすごいなー!」


 カグヤが追加で説明するとアルムは感心した。

 それと同時に自分にとって未知の技術の結晶たる存在が庶民にも普及しているほどに暮らしの水準が上がっていることにショックを受ける。


 「それってボクにも使える?」

 「たぶん使えるとは思うけど。あ、バッテリーやば」


 カグヤのスマホにバッテリー残量の減少を警告するポップが表示された。

 それを見たカグヤはポップを閉じるとスマホを充電器に接続する。


 「なにこれ」

 「充電器。スマホは中に電池っていうのが入ってて、そこに電気溜めるための道具」 

 「そうなんだ。ちなみにボクも電気溜められるんだよ」

 「マジか。どうやんの」

 

 充電器を知ったアルムがそれに張り合うように主張した。

 カグヤに実演を求められ、アルムは尻尾の先に生えている金属質の棘をコンセントへと突き刺した。

 コンセントを見るのは初めてだが電気にまつわる能力を持つ彼女にはそこに電気が通っているのを簡単に感知することができた。


 「こうすれば電気を溜められるんだー。おおおおお……」


 尻尾の先端をコンセントに突き刺したアルムはカグヤに充電の様子を実演してみせた。


 「あー。癖になりそうかも」


 充電をする彼女の身体はブルブルと震え、漏れ出る声から危険な雰囲気を漂わせる。

 その様子を見たカグヤとハルヒは不安を駆り立てられた。


 「あーしら人間にはわからないけどさ。電気って味とかあるの?」

 「あるよー。この電気は美味しくも不味くもないけど癖になる味ってところかな」

 「へー。ちなみに一番美味しかったのは?」

 「雨の日に落ちる雷が一番美味しいね。あれに勝るご馳走なんてないよ」


 カグヤが興味半分に尋ねるとアルムは過去の記憶を遡って答えた。

 アルムには電気に対する味覚が備わっており、その違いも表現できる。

 

 「ところでアルムさんはこれからどうするの?住む場所とか食べるものとか」

 「うーん、考えてないなー。住む場所は別にどこでもいいし、この時代なら電気食べるだけでなんとかなりそうだし」

 「何も知らなそうだから先に一つ警告しとくけど、勝手に人の家から電気食べたら盗電っていって泥棒になるからね」

 「そうなの!?それはよくないなぁ」


 ハルヒにふと尋ねられたアルムは大雑把にそう答えるとカグヤから釘を刺された。

 元々キメラであるアルムにとって住環境は問題ではなく、食料も人間と同じものに加えて電気を充電することでも満たすことができる。

 しかしあてにしていた食料が即座に潰されたことが問題であった。


 「じゃあさ、他のキメラが全部いなくなるまでうちにいなよ。食べ物のことはあーしがなんとかするからさ」


 カグヤはアルムに同棲を提案した。

 未知の生物たるキメラであるアルムがいることによって生じる生活の負担は未知数であるがキメラの力を身をもって知った以上、その脅威から守ってくれる存在としてはこの上ない。

 それと同時にアルムには戸籍がないため人間と同じ営みをすることはできず、現代のことを何も知らない彼女が無自覚に何をしでかすのかまるでわからないためそれを抑止するための目付け役になるという目的もあった。


 「お姉ちゃん大丈夫なの?」

 「細かいことはまたいろいろ考えるわ。いったん今のところはうちで寝泊まりするってことで」


 ハルヒの懸念を一蹴したカグヤの一存により、アルムはカグヤの家を現代の拠点とすることになったのであった。

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