キメラを作る男
新たなキメラ出現の気配もなく、少しばかりの平穏なときが流れていた頃。
時を同じくしてとあることに苦悩する一人の男がいた。
「金龍にどう対処すればいい……」
苦悩する男、それはキメラのマスターであった。
彼は今、金龍=アルムの存在に悩まされていた。
アルムは超常的な感覚でキメラの活動を察知し、その行動を尽く潰し続けている。
並大抵のキメラであれば肉弾戦一つで圧勝し、雷にも匹敵する威力を持つ電撃という飛び道具を併せ持つ。
さらに純粋なパワーで打ち合おうとしても持ち前の飛行能力による圧倒的な機動性には歯が立たない。
個としてあまりにも強大な力に加え、その背後には戦いをサポートする人間の存在があるため策を講じても初見でやりきれなければいずれは対策されてしまう。
無策では相手にすらならず、その策も有効にならない以上アルムと真っ向から対決するしかないがそれを実現するために要求される要素があまりにも多かった。
「そもそもドラゴンのキメラとはなんだ……?」
男を悩ませる要素は他にもある。
それはアルムがドラゴンのキメラであるということであった。
キメラは生物の特徴や能力を付与する形で作るため、元となる生物がいなければそもそも作り得ないはずなのだが空想上の産物であるドラゴンのキメラであるアルムの存在はその概念を無視している。
キメラを生成する錬金術をもってしてもまったくもって不可解であった。
男は手元に古ぼけた書物を取り出すとそれを読み漁った。
古書マニアを通じて男はそれを入手した代物であり、男はそれを復元することでキメラの製造方法を知ったのである。
他国の言語で錬金の書と題されたその書物には過去に喪失したはずの本来の錬金術のことが記されていた。
(錬金の書よ。金龍はどのようにして生まれたのだ……)
錬金の書には金龍のこともわずかに記載されてはいたがマスターの名とその外見、能力の一部が外聞のように残されているのみでそれ以外のことは何もわからなかった。
それもそのはず、本来の錬金術の存在はアルムのマスターことオルフェウスによって徹底的に抹消されていたため関連する情報のほぼすべてが歴史の闇に消えてしまっていたためである。
今男が手にしている錬金の書はオルフェウス没後の後世に書き起こされた唯一の記録媒体であった。
アルムへの対抗策が見いだせないまま途方に暮れる男が本を錬金の書を隠すように置き、それと入れ替えるようにスマホを覗くとそこに興味深い情報が入り込んだ。
『人間離れした技の数々で話題沸騰、今ホットな配信者カグヤチャンネル特集!』
それはある配信者を特集したネットニュースであった。
ページのサムネイルに映る女性と少女の姿に男は目を惹かれる。
(これは……カナメさん?)
男はまず女性の方に注目した。
その顔には非常に見覚えがあり、本名すらも認知している人物であった。
顔見知りの人物が配信活動をしていたことに受けながらも男はカグヤの隣に映る金髪の少女に注目した。
サイトに引用掲載されている切り抜き動画にはボロアパートの一室で繰り広げられるアルムと呼ばれる少女の天然じみた発言や配信で見せた人外じみた行動が面白おかしくまとめられている。
だが何よりも目を引いたのはアルムに生えた角と尻尾であった。
その形状は幾度となく自分の作ったキメラを撃破してきた金龍のそれとそっくり同じだったのである。
男は食い入るように動画を視聴した。
(ではこのアルムという少女の正体があの金龍で、カナメさんがそのサポートをしているということですか……?)
男は動画とニュース記事の文章を読んだうえで自らの推理をまとめると改めて困惑した。
もしそうだとすれば金龍は非常に身近な場所にいるということになり、やはりキメラを使役した活動において金龍との接触は必然である。
自らの推理に基づき、男はアルムを倒さなければならない存在と結論付けて打倒する方向に舵を切ることにした。
そしてそのために必要なものに一定の答えを見出す。
「そうだ。空想の存在に実在の存在で対抗しようとすることが間違いだったんだ」
男はそう言うと新たなキメラの作成に着手した。
今回目指すのは実在の生物ではなくアルムと同じ『空想の存在』のキメラの作成である。
男はイレギュラーを自らの手で引き起こそうとしていた。
古の錬金術の粋を集めた最高傑作である金龍アルム。
それを超えようと千年以上の時を経た現代で男は執念を燃やす。
町のどこかで不穏な動きを見せ始めたのであった。




