アルムとおとぎ話
「あー疲れた……肉体労働しんど……」
チャンネルのスパチャが解禁された後日、カグヤはぼやきながらアパートに帰ってきた。
バイト先であるシロガネ館の改装工事が終わり、営業こそまだ再開していないもののバイトは再開したのである。
今日の業務は棚の配置変更と在庫の陳列であった。
純粋な体力仕事に加えて久々のバイトということもあってカグヤはなかなか肉体的に堪えていた。
「ただいまー」
カグヤが帰宅すると配信部屋からアルムの楽しそうな話し声が聞こえてきた。
どうやら彼女は配信をしているようであった。
(『最近おとぎ話が面白い!ボクにおとぎ話を教えて!』なんじゃそりゃ)
カグヤはスマホで配信サイトのマイページを開くと配信の内容を確認した。
アルムは一人でいるときにおとぎ話を耳にしたらしく、それを知りたがっているようであった。
人外らしいといえばらしい内容にカグヤはクスリと笑い、せっかくならとそのまま配信に飛び入りすることにした。
「ただいまー。何してんのー」
「あっ、おかえりカグヤ。今リスナーのみんなにいろんなおとぎ話を教えてもらってるんだー」
「おーおー。みんなアルムに何教えたの?」
『あ、かぐや姫』
「誰がかぐや姫じゃ。小学生の頃に散々それでいじられたわ」
リスナーのボケにカグヤはキレ気味に突っ込んだ。
アルムはカグヤとリスナーのやり取りの意味がよくわからず頭に疑問符を浮かべる。
「かぐや姫?カグヤってお姫様なの?」
「んなわけないじゃん。かぐや姫っていうおとぎ話があるの」
「へー、教えて教えて」
カグヤがネタを説明するとアルムは新しいおとぎ話のタイトルに食いついた。
「正確にはかぐや姫じゃなくて竹取物語。竹取をしてるおじいさんがある日光る竹を見つけて、それを切ってみると中なら女の子の赤ちゃんが出てくるの」
「まっさかー。竹から人間が生まれるわけないよー」
「真面目に言ってるならアンタ芸人の才能あるよ」
カグヤが竹取物語のあらすじを紹介するとアルムが内容にツッコミを入れ、カグヤがさらにツッコミを返す。
アルムは世界各地で伝説に語られる金龍そのものだが本人にはまるでその自覚がないのである。
『今日のベストオブおまいう大賞』
『パンチが効きすぎ』
コメント欄もアルムの発言を茶化して盛り上がっていた。
「で、それからどうなるの?」
「おじいさんはおばあさんと一緒にその赤ちゃんを育てるの。すると赤ちゃんはすくすく育ってまぁ美人になるわけですわ。で、なよ竹のかぐや姫って名前がつけられるの」
カグヤはアルムに乗せられて語りを進める。
すると彼女に熱が入って語り口が徐々にオタクっぽくなり始めた。
「それからそれから?」
「かぐや姫の美人ぶりが評判になって、それを聞きつけた男たちが結婚を申し込んでくる。でもかぐや姫はいろんな無理難題を押し付けてことごとくそれを断り続けるの」
「無理難題ってどんな?」
「いろいろあるけど、例えるなら人間に素手でアルムに勝てっていうぐらいの無理」
「なるほど。確かにそれは無理だなぁ」
(うーんこの)
『うーんこの』
カグヤがたとえ話をするとアルムは当然のように言ってのけた。
アルムは人間よりも強靭な肉体と様々な特殊能力を兼ね備えているキメラであり、それを自覚しているがゆえに生身の人間では相手にすらならないというのは不変の事実であるの認識していた。
ナチュラルに飛び出す人外仕草にカグヤとリスナーは同じことを考える。
「で、最後はどうなるの?」
「かぐや姫は月の人間であることがわかって、月からお迎えが来る。で、かぐや姫は月に帰りましたとさ」
「……終わり?」
「終わり。実際はもうちょっと続きがあるっぽいけど有名なのはここまで」
「えー!?めでたしめでたしじゃないじゃん!」
アルムはかぐや姫の結末を知って驚いた。
さっきまでリスナーに教えてもらっていたおとぎ話はすべてがハッピーエンド、ないし後を引かない終わり方をしていたため殊更衝撃的であった。
「まあおとぎ話なんてこんなもんだよ」
「ふーん。そうなのかー」
アルムは首を傾げつつもおとぎ話を学習した。
その様子はまるで幼児に対する情操教育であった。
『いつのまにかカグヤによる読み聞かせ配信になってた』
『ここってキッズチャンネルだっけ?』
「うちがキッズチャンネルなわけないだろ。あーしが薄い本の読み聞かせでもしたろか?」
カグヤはリスナーたちに圧をかけるとアルムのリクエストに応えて様々なおとぎ話を教えた。
それからも二人によるおとぎ話を巡るやり取りは続き、まるで親子のような微笑ましい光景にまたリスナーたちから大量のスパチャが飛ぶのであった。




