アルムと初めてのスパチャ
トータスキメラを倒した翌日の夜。
カグヤとアルムはハルヒが帰ったのを確認すると二人で配信を開始した。
内容はスパチャ解禁記念と称した雑談配信である。
「みんなのおかげでこのチャンネルが収益化できるようになりましたー。ありがとー」
カグヤがチャンネルの主としてリスナーにお礼を述べた。
するとリスナーたちから次々と祝福のコメントが寄せられた。
「カグヤに教えてもらったんだけど、配信をするとお金が入るようになるんでしょ?」
アルムが画面越しにリスナーに尋ねかけた。
彼女は配信を通じて人間たちと交流するのが大好きであった。
人外という設定に一切のブレが生じない上に不自然さを感じさせない動きもリスナーたちからは概ね好意的に見られている。
そんな中、アルムはコメント欄に色付きのコメントがあるのを発見した。
カグヤと一緒に配信する中でも配信画面の見方にも慣れてきたがそんなものは初めてであった。
今まで見たことのないものに興味を寄せ、首を傾げる。
「ねえカグヤ、この色がついているコメントって何?」
「あー、この色付きのコメントはスパチャって言ってね。ここに数字が載ってるでしょ?これがこの人がこれだけお金をくれましたっていうのを表示してるの」
「へー。じゃあリスナーの皆が贈ってくれたんだ」
カグヤが大雑把に説明するとアルムはその意味を理解した。
カグヤはゆるりとした雰囲気を装っているが初めてのスパチャに胸を高鳴らせる。
「スパチャを贈ってもらったらお礼を言わないとね。ありがとー」
「うん。スパチャをくれた人ありがとー!」
カグヤが催促をかけ、率先するようにお礼をするとアルムはニコニコしながらお礼をした。
アルムは日常の中でカグヤが金銭面で渋い思いをしている場面を度々見ていたため、そのお金がリスナーから提供されることへの感謝の気持ちはよく理解していた。
『おやつ代』
『チョコチップクッキーいっぱい食べて』
『これでいいもの食べに行って食レポやって』
アルムがスパチャに反応したのをきっかけに大量のスパチャが飛び始めた。
同接数もみるみるうちに伸び、コメント欄は無数の色付きコメントが飛び交う。
『カグヤいい思いしろよ』
アルムがスパチャの一つ一つに感謝のコメントを返す中、カグヤは自分に向けたスパチャがあることに気づいた。
自身のチャンネルが一気に跳ねた主だった要因はアルムの存在であるため、リスナーの大半はアルムを目当てにしている。
だがそれ以前からカグヤを応援している古参リスナーの少数ながら存在しており、カグヤを目当てとする新規リスナーもいた。
「うん。みんなありがと」
カグヤは配信に集まったリスナーの温かさに感動を覚えた。
自分の元に集まってくれたことに感謝し、彼らの期待を裏切ってはならないと感じさせた。
「これからの活動の予定を伝えるねー」
カグヤは即興で配信活動の予定を組み上げるとそれをリスナーに告知した。
数日はこれまでの配信のアーカイブの切り抜き動画を投稿し、それからアルムのソロ配信とカグヤのソロ配信、そして二人での配信を不定期で行っていくことを発表した。
配信活動とバイトとの掛け持ちをしている関係で企画を作成する時間的余裕がなかったため、不定期配信とすることで内容のクオリティを担保するという苦肉の策であった。
「ねえカグヤ、ボクの力をちょっとだけ見せてもいい?」
「えっ」
アルムは思い付きでカグヤに尋ねた。
カグヤは浮かれかけから一変、真顔に戻ってアルムの方を見る。
アルムはやる気満々であり、せっかくの記念の場でもあるため一回限りならいいかと思考が傾いた。
「よーし、じゃあちょっとだけ見せちゃおー」
アルムはカグヤの返答を待つことなく立ち上がるとデスクから少し距離を置いた。
自身の能力で機材にダメージを与えることがないようにという彼女なりの配慮を見せた。
「ちょい待ち、感電対策するから」
カグヤはいったん離席すると台所から輪ゴムを数個取り出してそれを手首に付けると配信部屋に戻ってきた。
アルムなら問題はないと思っているが念のためである。
「ボクねー、電気だせるんだよー。ほら」
アルムは得意げに語ると電気を発生させた。
角が青白く発光し、角と尻尾の先がパチパチと音を立てる。
初めて見せた人外の技の一端とそれを見て平然としているカグヤの肝の据わり方にリスナーは戦慄した。
「アルム最近は自力でスマホ充電できるようになったんだよねー」
「そうなんだよーすごいでしょ!」
アルムはカグヤにネタを振られるとスマホに充電器の端子を接続してその手にプラグを握りしめた。
するとスマホのバッテリーが充電状態になったことを示すマークが表示された。
技を無邪気にアピールするアルムに対してリスナーも人外仕草を感じずにはいられない。
「もういいっしょ。これからも楽しく配信できたらなーって思ってるからみんなもよろしくねー」
「よろしくー!」
カグヤはアルムの芸をやめさせると軽い挨拶で配信を締めくくった。
アルムは画面をのぞき込むと両手を振ってリスナーたちに追加でアピールし、三十分程度の配信が終了した。
配信が切れたことを確認したカグヤは今回飛んできたスパチャの金額を確認し始めた。
スマホで計算機を弾き、その金額合計を見て唖然とする。
「ヤバ……四万円以上入ってる……」
カグヤはスパチャの合計額に震えた。
今回獲得したスパチャは約四万円、カグヤの一月のバイト代の四分の一に迫る金額であった。
一月の給料の四分の一近くをたったの三十分程度で稼いでしまったのである。
「それってすごいの?」
「個人でこれは相当ヤバい。ありがとうございますアルム様」
カグヤはアルムの前で膝をつくと頭を垂れて土下座をし、感謝を示した。
要求してもいないのにいきなり平伏されてアルムは困惑する。
この日、カグヤの中で配信者に専業するという選択肢が見えたのであった。




