鉄壁のキメラ
カグヤたちはアルムが金龍の姿で自由に行動できる場所を探して外へと繰り出した。
まず初めに一行が訪れたのは近所にある河川敷であった。
「ここはどう?広いしたくさん動けそう」
「確かに広いけど見晴らしよすぎて誰かに見られるのが心配だなー」
ハルヒが提案するとカグヤは難しい反応を見せた。
確かに河川敷は広いためアルムが本来の姿に戻っても運動ができる。
しかし人の通りも少なからずあるため他人に見られるのが不安要素であった。
アルムが人間の姿になれることを知っているのはカグヤとハルヒだけであるため、それがバレるのは避けたかった。
「この姿なら心配いらないよ」
「あのねアルム。普通の人間は電気を出せないし、目に見えないほどの速さで動けないの。そんなことしたらその姿でも不自然に見られると思うんだけど」
「あ、そうだった」
「人外仕草……」
カグヤから指摘を受けたアルムはハッとしたような表情を浮かべた。
アルムは時折自分が人間にはできない動きをしていることを忘れることがあった。
それを初めて目の当たりにしたハルヒはアルムが人外の存在であることを改めて思い知ることとなった。
「さー、どんな技にしようかなー」
アルムがくるくると回りながら考えていると急に表情が切り替わった。
彼女の変化を見たカグヤはある事態を察し、一方でハルヒは理解ができずにきょとんとした表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「キメラが現れた。そうだよねアルム」
「うん。すぐ近くだし、ボク行ってくる!」
カグヤが確認するように尋ねるとアルムは首を縦に振った。
彼女はキメラの出現を察知したのである。
アルムは人目も憚らず金龍の姿に変身するとキメラの気配のする方へと飛び出していった。
空に稲妻上の軌跡が走り、カグヤとハルヒはそれを辿ってアルムの行方を追った。
カグヤとハルヒが駆けつけると、そこではアルムと一体のキメラがにらみ合いをしていた。
キメラはアルムには一回りほど劣るものの大型でマッシブな体格をしており、両腕には篭手状の甲殻が付いている。
何より目を引くのは上半身を覆う甲羅であり、その姿はさながら人の姿をした大亀のようであった。
カグヤはスマホのカメラを録画モードで起動し、ハルヒと一緒に二体のキメラを固唾を飲んで見守る。
「グルルルルル……!」
アルムは唸り声を上げながら大亀のキメラ=トータスキメラへと突撃をしかけた。
空中に飛びあがり、勢いをつけて両足で蹴りを浴びせかかる。
トータスキメラはそれを避けようともせず、逆に両腕を広げて胸を張るとそれを真正面から受け止める構えに入った。
アルムの蹴りはトータスキメラの胸部の中心に命中し、その身体は数メートルは吹っ飛ばされる。
しかしトータスキメラは背中から着地すると何事もなかったかのように起き上がってみせた。
「かった……」
「なんて防御力……」
カグヤとハルヒはトータスキメラの防御力に絶句した。
これまでのキメラなら致命傷ないし大ダメージは免れなかったアルムの一撃を喰らっても悠々と立っていることが信じられなかった。
アルムはトータスキメラと組み合った。
だがトータスキメラのパワーはアルムと拮抗しており、両者ともにピクリとも動かない。
アルムは膠着した状況を打開すべく放電を繰り出した。
彼女を中心として周囲に電気が迸り、放電したのがカグヤとハルヒの目にも見て取れた。。
しかしトータスキメラは感電したような様子もなく、相手の身体に電気が流れているような感覚もない。
まるで手ごたえを感じない初めての事態にアルムは一瞬動揺を見せた。
トータスキメラは一瞬の隙をついてアルムの腕を振り払うと腕の一振りでアルムを殴り飛ばした。
始めて自分と互角のパワーで殴られたアルムの身体は大きくよろけ、姿勢を崩して片膝をつく。
「押されてる!?」
(あのキメラ。もしかして……)
ハルヒはアルムが押される姿を見て不安視するがカグヤは何も言わずにじっと注視した。
アルムが戦闘中にできない敵キメラへの考察を実行するためである。
アルムの攻撃にびくともしないトータスキメラの様子を見たカグヤの中で一つの仮説が浮かび上がった。
トータスキメラはゆっくりと歩み寄っては腕を振り回してアルムを殴打する。
アルムも反撃を仕掛けるがトータスキメラには効き目が薄く、多少よろけはするがすぐに反撃を仕掛けてきた。
アルムが追い詰められかけたその時、トータスキメラは肩と腰から蒸気を吹きだし始めた。
トータスキメラの動きが途端に悪くなり、なぜかアルムに背を向けて退散し始めた。
アルムの追撃で放った電撃を背中に受けてもものともせず、トータスキメラは地中へと姿を消していった。
ハルヒは状況が呑み込めずに首を傾げた。
そしてついさっきまで交戦していたアルムもトータスキメラが突然自分に背を向けた意図が理解できず呆然とするばかりであった。
アルムとトータスキメラの最初の戦いはトータスキメラが完封に近い形で押していたものの、トータスキメラがなぜか途中で撤退するという形に終わった。
決着こそつかなかったものの、そのまま行けばアルムが負けていた可能性が大いに高い結果となった。
トータスキメラの気配が消えたことでひとまずその場が治まり、アルムは空へと飛び去って行った。
空から雷鳴が轟き、カグヤとハルヒの後ろからアルムが合流してきた。
「なんなんだアイツ……ボクの攻撃がまるで効かなかった……」
アルムはトータスキメラとの交戦経験を語った。
ハルヒは狼狽えるが一方でカグヤは冷静であった。
初めて出現したキメラの暴走に自分が巻き込まれて以来アルムとキメラとの戦いを何度か間近で見てきたのもあって変に肝が据わっていた。
「ねえアルム。あのキメラを殴ったとき、どんな感触だった?」
カグヤはアルムに尋ねた。
自分の中で浮かんだ仮説が真であるかどうかを確かめたかったのである。
「思ってたよりは柔らかかったよ。でも、こっちを押し返してくるような感じもしたかも」
アルムは右手を開閉しながらカグヤに率直に伝えた。
決して硬いとは言えないがかといって柔らかくもない、いわば弾力のある感触であった。
「あー、それってもしかして……」
カグヤの中で仮説が真実味を帯びた。
そしてそれが彼女の中のオタク知識と結びつき、一つの答えを導き出す。
「お姉ちゃん、なにかわかったの?」
「後で話すから。今日のところはいったん家に戻ろ」
カグヤはハルヒへの答えを後回しにし、その場をまとめて一度家へと帰るのであった。




