カッコいいへの憧れ
カメレオンキメラ撃破から数日が経過した。
キメラ出現の気配はなく、カグヤたちは平穏な時間を過ごしていた。
そんなある日の週末、カグヤの元に朝からハルヒが尋ねてきた。
カグヤに長めのオフ期間ができたと聞いてやって来たのである。
「いらっしゃーい。元気になってよかったよー」
「まあおかげさまでねー。ところでアルムさんはどうしてるの?」
「あー、アルムならあそこに」
ハルヒがアルムの動向を尋ねるとカグヤが配信部屋の方に視線を移した。
そこにはパソコンの前でヘッドホンを装着し、夢中になって動画を視聴するアルムの姿があった。
「最近特撮にハマったみたいでさ。あーしのサブスク使ってずっとあんな感じ」
「超現代に適応してる……」
ハルヒはアルムの学習能力の高さに驚かされた。
アルムは目覚めてから数週間のうちに現代の文化や文明の利器に触れ、それらを学習することで一人でもいろいろなことができるようになっていた。
そんな彼女の中で今ブームになっているのが特撮ヒーロー番組をサブスクで視聴することであった。
「くぅー!カッコいいなぁ!」
テンションの上がったアルムの声が聞こえてくる。
動画は今まさにヒーローが必殺技を繰り出そうとしているシーンが流れているところであった。
CGによる派手な演出が組み合わさった迫力のアクションにアルムは大喜びであった。
「ねえカグヤ!ボクもカッコいい必殺技が欲しい!」
アルムは徐に立ち上がると目を輝かせながらカグヤに頼み込んできた。
そんなアルムを見たカグヤは反応に困ってしまった。
というのも、これまでのアルムの戦いを見ている彼女からすればアルムが繰り出す攻撃の数々はそのどれもが必殺技のようにしか見えず、今更そんなものが必要だとは思えなかったのである。
「アンタはそういうものなくても十分すぎるぐらい強いと思うんだけど」
「ヤダー!ボクもカッコいい技でキメたいの!」
カグヤがありのままの意見を述べるとアルムは駄々をこねた。
カグヤが返答に困っているとハルヒがカグヤの肩に手を置いた。
「何?」
「これはゲームでいうところの必殺技取得イベントだよ」
ハルヒが耳打ちするとカグヤのオタク心に火が付いた。
姉の趣味の影響もあり、ハルヒも少なからずそういった趣旨には理解があった。
「よし、アルムの必殺技を考えてみよう」
「やったー!」
カグヤが一転して前向きな姿勢を見せるとアルムは両手を挙げて喜んだ。
その様子をハルヒは微笑ましく見守っている。
「というわけで、まずアルムはどんな必殺技を使いたいの?格闘とか飛び道具とかいろいろあるけど」
「そうだなー。やっぱり格闘がいいね」
カグヤがリクエストを募るとアルムは要望を出した。
直近で視聴していたものの影響もあって格闘系の技を使いたがっているようであった。
「アルムは電気を使えるから雷属性ってところだなー」
「雷属性といえばスピードを活かして一瞬で大ダメージを与えるみたいなイメージあるよね」
カグヤが話を持ち出すとハルヒがそれに便乗した。
アルムは電気を操る力を持っているため、必殺技にそれを活かさない手はない。
「そのイメージに近いのは居合だなー」
「イアイ?」
「日本にある剣術の一つでね。剣を抜くと同時に一瞬で相手を斬るの。こんな風に」
カグヤはスマホで検索をかけてアルムに動画を見せた。
そこには刀による居合抜きを繰り出す男が映っており、アルムは思わず目を奪われる。
動画の剣技はアルムですら一度は見逃すほどの速度を誇っていた。
「すごい!こんなに早い技を使える人間がいるなんて知らなかった!」
「ここまでとは言わないけどアルムならこれに近いことはできると思う」
「じゃあやってみる!」
アルムは居合に興味を抱くとそれを模倣した技を編み出すことを決意した。
しかしそこから先にはとある問題があった。
「今思ったけどさ、どうやって必殺技の練習するの」
「あっ、確かに」
カグヤがふと問題点を指摘するとアルムは我に返ってハッとした。
必殺技取得に至るまでの問題点、それは試行錯誤するための空間がないということであった。
「この部屋じゃできないの?」
「できないね。金龍になったアルムの身体ってデカいから」
ハルヒが疑問を呈すとカグヤが理由を提示した。
金龍となったアルムは三メートルを超える巨体である。
そもそも狭いカグヤの部屋ではまともに動くことすら困難であった。
「アルム、ハルヒに金龍の姿を見せてあげてよ」
「いいけど大丈夫なの?」
「いい。今回限りあーしが許可する」
「わかった。ちょっと離れてて」
カグヤは家中のカーテンを閉め切るとアルムに変身を促した。
アルムは外からの視線がないことを確認するとハルヒに距離を取るように前置きし、本来の姿への変身を見せた。
翠色の瞳、首から四肢の先までをびっしりと覆う金色の鱗、手足の先から伸びた鋭く光る爪、丸太のように太い一本の尻尾。
そしてなにより直立するだけで天井を超えるほどの巨体がハルヒを圧倒した。
「すっご……」
「これがアルムの本当の姿。これで家の中を動くのは無理ってよくわかるっしょ」
「うん……これは確かに……」
『もう戻っていい?窮屈でたまらないよ』
ハルヒが理由に納得したところでアルムはテレパシーでカグヤに訴えかけた。
厳めしい姿になっても気さくな性格はそのままである。
カグヤが首を縦に振るとアルムは角と尻尾だけを残して人間代の姿へと戻った。
「事情はわかったから、今度はアルムさんが動ける場所を見つけないとだねー」
「そうだねー。じゃあそれを探しに出かけるかー」
カグヤはハルヒと一緒にアルムが存分に動ける場所を近場で探すべく外出をすることにしたのであった。




