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キメラのマスター

 アルムとカメレオンキメラが交戦した日の夜。

 アルムはダメージの回復に努めていた。

 カグヤの手当とコンセントから得た電力による治癒能力の活性化によって身体の傷はほぼすべて塞がって元の状態に近づいていた。


 「すっご。流石キメラの生命力」

 「ふふーん!まあボクなら当然さ」


 カグヤがアルムの回復能力に感心するとアルムは得意げに胸を張った。

 彼女に漲る体力を表現するかのように角と尻尾の先からビリビリと電気が走る。

 対するカグヤはアルムを生み出した千年前の錬金術師の技術に驚かされるばかりであった。


 「ねえアルム。前にキメラにはマスターがいるって言ってたじゃん」

 「うん。そしてボクたちキメラはマスターから与えられた使命に則って行動してる」


 カグヤはふとした疑問をアルムにぶつけた。

 キメラには生みの親であるマスターが存在し、彼らから使命を与えられて初めて行動が可能となる。

 

 「じゃあさ、アルムのマスターって誰なの?」

 「ボクのマスターはオルフェウスだよ」

 「あーごめん。聞き方変えるわ。キメラがマスターを変えることってあるの?」

 

 アルムのマスターであるオルフェウスは千年以上前の人物、すでに故人である。

 キメラが何らかの理由でマスターを変更することがあるのか、カグヤはそれを知りたかった。


 「考えたこともなかったなぁ。キメラがマスターを変えるなんてありえないもん」


 アルムはこれまで考えたこともなかった事象についてキメラとしての見解を示した。

 キメラが付き従うマスターは原則として一人である。

 それは彼女に限らずすべてのキメラが共通で持っている認識であった。


 「じゃあさ、もしキメラがマスターを変えることがあるとしたらどんな時だと思う?」

 「うーん……」


 カグヤは疑問を提起した。

 アルムはそれに対して一緒になって考える。


 「例えばキメラを作ったマスターが二人いたとしたら?共同製作みたいな感じで」

 「そうだなぁ、もしそうだとしてもどちらか片方のマスターに従うんじゃないかな」

 「すでにいるマスターが他の人間をマスターにするように命令したとしたらどうだろう」

 「それなら従うかもね。最もキメラを作ったマスターがそんなことをするとは思えないけど」


 カグヤが提示する仮説に対してアルムは自分なりの答えを示した。

 キメラが付き従うマスターは原則として一人、主従権を譲渡すればそれに従う可能性はある。

 ただ一人の人間をマスターとし、彼らから与えられる使命に従い行動する。 

 その法則性は一貫していた。


 「もしかしてカグヤはボクのマスターになりたいの?」

 「まっさかー。でも現代にもパートナーみたいな人間がいた方がいいかなーって思って」

 「ボクのマスターは後にも先にもオルフェウスだけ、それは変わらないよ。死んじゃった人間から言葉を引き出すなんてこともできないしね」


 アルムは自らのマスターはあくまでオルフェウスであると断言した。

 すでに故人である彼から主従権の譲渡を意図する言葉が引き出されることもなく、キメラが自分の意志でマスターを変更することは決してない。

 それは不変の事実であった。


 「でもカグヤがいてくれたら頼もしいな。カグヤはマスターじゃなくてボクのパートナーってことでどう?」

 

 アルムはカグヤは自分のマスターにはなれないとしたうえでパートナーであることを提案した。

 現代においてそれに協力してくれるカグヤの存在は心強いものである。

 マスターはオルフェウスであるということを前提としてパートナーという別の関係を構築することで擬似的なマスターにするという都合の良い解釈をしたのであった。


 「パートナーねぇ……それも悪くないかな」

 「じゃあよろしく頼むよ。ボクのパートナーさん」


 カグヤがパートナーという立場に肯定的な意見を示すとアルムを右手を差し出した。

 その意図をなんとなく汲み取ったカグヤは右手を伸ばして手を握る。


 「それどこで覚えたの?」

 「前に動画で見たんだー。えへへ」


 アルムはスマホを使用して人間の様々な行動を学習していた。

 握手を試みたのもそれが友好の証であるということを覚えていたからであった。


 「よーし!カグヤ、次にあのキメラが出てきたらボクはどう戦えばいいかな」

 「そうだなー。あの鞭の攻撃が厄介だから……」


 テンションの上がったアルムはカグヤに次の戦闘に向けた指示を仰いだ。

 カグヤはオタクのノリを見せながら戦い方を考察するのであった。

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