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しょんぼりアルム

 アルムとカメレオンキメラとの激闘から数分後。

 アルムは人目を忍ぶようにこっそりとカグヤの家に戻ってきた。 

 その肌には擦り傷や切られたような傷が無数についており、戦いの凄絶さを物語る。


 「おかえり。さっきは惜しかったね」

 「……うん」


 カグヤが気楽に迎え入れるとアルムは明らかに落ち込んだ様子の返事を返した。

 カメレオンキメラを仕留めきれなかったことをかなり気に病んでいるようであった。

 普段明るく振舞っているアルムがあまりに気落ちしてるのを見かねたカグヤはどうにかして励まそうと考えた。


 「そんなに落ち込まないでよ。あのキメラだって結構ダメージ受けてるし、きっとしばらくは出て来られないって」

 「そうかな」

 「そうだって。傷の手当したげるからこっち来なよ」


 カグヤは優しい言葉をかけながらアルムを招き寄せた。

 アルムはクッションの上に腰を下ろすと角と尻尾を出し、尻尾の先をコンセントに接続して充電を始めた。


 「めっちゃ痛そー」

 「これぐらいどうってことはないよ。くぅ……!」


 アルムは気丈に振舞うがカグヤが消毒液をにじませたガーゼを当てると痛みに耐えるように歯を食いしばった。

 カグヤはアルムの傷口から赤い血が滲んでいるのを見て彼女は人間ではなくとも同じ生物であるということを認識させられる。


 「今まで取り逃がしたことなかったの?」

 「なかったよ。これまでボクが戦ってきたキメラは全部一回で仕留めてきたんだ。こんなことは初めてだ」

 「ふーん。なるほどねぇ……」


 アルムの自供を聞いたカグヤは少しばかり納得したように相槌を打った。

 アルムは現代で目覚める前からキメラは必ず一回で仕留めきっていたが今回初めてそれができずに逃走を許した。

 自分のキメラとしての力に誇りを持っている彼女にとってその事実は非常に衝撃的なものであった。


 「一回しくじっちゃったぐらいでそんなに落ち込む必要ないって。あーしら人間なんて数え切れないぐらいしくじるんだから」

 「でもボクは人間じゃないよ」

 「同じような見た目して、同じ言葉使って、人間たちと混じって生きてるんだからアルムだって人間みたいなもんでしょ。少なくともあーしはそう思ってる」


 カグヤは持論を展開してアルムを励ました。

 人間とキメラ、決して同種とは言えない存在ではあるが同じ言葉を使って意思の疎通ができ、人間と同じ営みができるのであれば社会においては人間と対等な存在であるというのが彼女の考えである。

 アルムからすれば荒唐無稽な理論ではあったが少なくともカグヤは本気でそう思っていること、自分を元気づけようとしているのは理解することができた。

 アルムの表情に少しばかりの明るさが戻った。


 「ねえカグヤ。さっきはどうやってあのキメラを居場所を見抜いたの?」

 「はっきりわかったわけじゃないよ。狙いをつけられないときは広範囲をいっきに攻撃!っていうのが対戦ゲーの常なのを思い出してさ」

 

 カグヤはカメレオンキメラを居場所を暴き出すに至る発想を語った。

 彼女も正確に居場所を把握できたわけではない。

 だがアルムの気配を感じる能力が本物であることは確かであるため、それを信じて放電を広範囲に仕掛けさせたのである。


 「じゃああの場にキメラがいなかったらどうするつもりだったの?」

 「しくじっちゃったーって反省して、後で何か別の方法を考え直してたかな。ははは」


 カグヤはアルムの質問に対してあっさりと答えを出してそれを自ら笑い飛ばした。

 アルムはカグヤのへこたれずに前を見て自分にできる限りの力を尽くそうとする姿勢に人間としての強さを見た。


 「とりあえず今は傷を治して、次に戦う時に備えないとね」


 カグヤはアルムの傷の手当てを済ませると薬箱を棚の奥に片付けた。

 アルムは充電で得た電力で治癒能力を活性化させ、身体の傷を徐々に塞ぎ始めて回復に向かい始めていた。


 一方その日の夜、カメレオンキメラは某所の部屋にて再び男とコンタクトを取っていた。

 男はカメレオンキメラの手負い姿を見て驚いたような表情を見せた。


 「どうした。隠密行動に長けるお前がそのようになるなど」

 「奇策を打たれた。ついでに金龍との交戦を経てどうにか逃げてきたところである」


 カメレオンキメラは手負いになった経緯を伝えた。

 そしてアルムの背後に現代におけるパートナーとなる人間が存在していたことを報告する。


 「あの女は金龍の力を引き出させている。そのままでいさせるのは危険だ」


 カメレオンキメラはカグヤを危険分子と捉えていた。

 自分の居場所を暴かれたのも、金龍との戦闘の状況を覆えされたのもカグヤの奇策あってのものだったからである。


 「だが悪い報告ばかりではない。これを見てほしい」


 カメレオンキメラは男にあるものを手渡した。

 それは戦闘中にアルムの身体から剥げ落ちた金色の鱗であった。

 逃走の間際、どさくさに紛れてその一片を回収してきたのである。

 鱗は持ち主の身体を離れてなお輝きを保ち続けていた。


 「これは……金龍の鱗か?」

 「左様。調べれば力の解明の一端になるかと」

 

 その報告は男にとっては嬉しい収穫であった。

 調査の対象である金龍の身体の一部を採取できたのは今後の分析において非常に有用な材料となるからである。


 「負った傷が深い。今宵は回復に専念する故、これにて失礼する」


 カメレオンキメラは一言前置きを入れると姿を消してどこかへと消えていった。

 だが負った傷の影響か、男の目にはカメレオンキメラの姿が時折うっすらと透けて見えていた。


 (あの女……排除せねば)


 カメレオンキメラはカグヤの排除を独自に目標に定めるのであった。

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