退屈しない日々
キメラ出現の気配もないとある日のこと。
カグヤのスマホにバイト先から一件の連絡が入った。
「は?来週から改装のために一時閉館?それに伴うアルバイトスタッフのシフト変更ォ!?」
カグヤの元に届いたのはシロガネ館の一時閉館を告げるものであった。
それは即ちカグヤのバイトが一時的になくなることを意味していた。
カグヤは唐突な報せに大声を出し、それを聞きつけたアルムが傍に寄ってくる。
「なお、給料は本来出勤予定であった日数×時給八時間分を保証する……」
「どうしたのー?」
「急にバイト休みになった。一週間ぐらい」
「えー!じゃあいっぱい配信できるね!」
カグヤの休日が増えたのを知ったアルムは目を輝かせた。
休日が増えればその分配信に費やす時間が増えるということである。
配信を通じてカグヤ以外の現代人と交流しているアルムにとっては絶好の機会であった。
「まあそういうことになるねー。ハルヒにも連絡しとくわ」
カグヤは雑に受け答えするとハルヒに一報を送った。
ハルヒはパンケーキ事件から一週間程度を経て自然回復しており、体調もすっかり元通りになっていた。
姉がフリーになったという一報を受けたハルヒからすぐに返信が来る。
「じゃあ今週末また行くね!」
返信を見たカグヤはクスリと口角を上げた。
その日の夜、アルムが寝静まったのを確認したカグヤは配信を立ち上げた。
内容は一人での雑談である。
これまでのアルム効果もあり、配信開始と同時に十数人程度のリスナーがやってくる。
「先に言っとくけど今回はアルムは出ないよ。もう寝てるし」
カグヤは前置きをすると同接数を確認しながら雑談を始めた。
「最近アルムのおかげでこのチャンネルの登録者跳ねたじゃん。みんなはアルムのことどう思ってんの?」
『デカい子供だと思ってる』
「ははっ、デカい子供ねぇ。確かにそうかも」
コメントに反応したカグヤはアルムと過ごす日々のことを語りだした。
「あの子さ。マジで現代の文明を何も知らないんだよ。スマホ持ったのもついこの前だし、この前なんかお風呂の追い焚きにビックリしてたんだよ笑っちゃうよね」
『惚気?』
「んなわけないじゃん。ただでさえ限界バイト暮らしだから早いところこのチャンネル収益化させてあーしに楽させてくれーって感じ。でもまあ退屈はしないよ」
カグヤはアルムがいる日常を振り返る。
アルムの分の生活費もカグヤが負担しているため収支がカツカツになっているが無知由来で何をしでかすかわからないアルムがそばにいると毎日がスリルの連続であった。
『収益化したら三百円送るわ。アルムちゃんのおやつ代』
「あーしにも送れし」
カグヤがリスナーのコメントとやり取りをしていると寝室から物音が聞こえてきた。
ペタペタと足跡が近づき、寝ぼけて目が半開きになったアルムが配信部屋を覗きにやってくる。
「何ー?配信してるのー?」
「まあねー」
アルムは寝ぼけたままフラフラと近づいてくるとカグヤの膝の上に寄りかかった。
「眠いなら寝室行きなー」
「うーん……」
カグヤが寝室に戻るのを促すとアルムは生返事をして瞼を下ろそうとした。
『俺たちは何を見せられているんだ』
『いつからここはカップルチャンネルになったんだ?』
予定外のアルムの登場とその行動にコメントは大盛り上がりであった。
その後、配信はカグヤがアルムを寝室に戻そうと格闘する様が映し出され過去最高の視聴数を記録したのであった。




