人外ライバーアルム
パピヨンキメラが暗躍したパンケーキ事件から数日。
町にキメラ出現の気配はなく、暫しの平穏な時間が流れていた。
その間、アルムはカグヤから与えられたスマホの使い方を覚えて急速に現代の知識を身につけていた。
一方その頃、カグヤは動画配信サイトの自分のアカウントの情報を閲覧して驚愕していた。
「最大同接七百人……?」
カグヤは己の目を疑っていた。
とある配信の同時視聴数が七百人を超えていたのである。
元々カグヤのチャンネル登録者数はせいぜい二十人程度であり、同接数も十人行けばいい方だったため三桁は未知の領域であった。
さらに登録者数も一気に五十人近く増加している。
突然チャンネルが跳ねて動揺しているカグヤの姿を見たアルムが様子を覗きにやってくる。
「何見てるの?」
「配信の視聴数。なんか見たことない数字になっててヤバい」
アルムの顔を見たカグヤの脳裏にとある発想が過った。
カグヤは一計を案じ、アルムの肩にそっと手を置く。
「アルム、あーしと一緒に配信やろう」
「いいよー!何やるの?」
カグヤが誘いをかけるとアルムはノリノリでそれに応じた。
視聴数が跳ねたのはアルムが映り込んだ配信である。
画面にアルムが映ればまた視聴数が伸びる可能性があり、その先の収益化も狙える見込みもあった。
アルムは配信を『ネットを通じて知らない人間と触れ合う行為』程度にしか考えていないため、カグヤの下心には気づいていなかった。
こうしてカグヤによるアルムのプロデュースが始まった。
「配信中は角と尻尾は見せてもいいよ。そういうキャラクターってことにすればウケるから」
「えー?でもこの前カグヤとハルヒ以外には見せちゃダメって」
「いいの。どうせみんな本物だなんて信じないから」
カグヤは配信におけるアルムの設定を考えるとそれを本人に伝えた。
とはいえ『現代に目覚めたばかりの無知な人外』というあまりにも濃すぎるキャラクターがすでにできあがっていたため、それをそのまま活かすことにした。
『うちのチャンネルの新メンバー紹介するよ!』
その日の夜、カグヤはそう題して配信を始めた。
今回の配信は実質的なアルムのデビュー配信であった。
「今回からこのチャンネルに新メンバーが加わりまーす。はい、自己紹介どうぞー」
「やっほーみんな!ボクアルムっていうんだー」
アルムは画面越しにユーザーに声をかけた。
するとみるみるうちに同接数が伸び始め、開始数分で百人に迫ろうとしていた。
「アルムは誰かとお話しするのが大好きだからさ、みんなもコメントでアルムに質問してあげてね」
カグヤが司会を進行して配信を進める。
すると数件のコメントがアルムに対して寄せられた。
『好きな食べ物は?』
「この前カグヤから貰った黒い粒々が入ったお菓子。この前調べてみたらチョコチップクッキーっていうんだって」
『どれぐらい生きてるの?』
「うーん……昔ボクが活動してたのは生まれてから十年ぐらいだったけどー、また目覚めるまでにかかった時間は千年ぐらい?だから千年ぐらい生きてることになるのかなー」
コメントからの質問にアルムは嬉々として答えた。
ただ淡々と事実を述べているがゆえに人物像に一切のブレがなく、その言動からはすでに本物の人外の片鱗が見えている。
そのキャラクターがリスナーから大ウケする一方でアルムがうっかり口を滑らせて自分の正体をバラしてしまわないかとカグヤは肝を冷やした。
「ねえねえ、この配信っていうのはいろんなことやっていいんでしょ?みんなはボクに何してほしい?」
今度はアルムが逆にリスナーたちにリクエストを求めた。
彼女はこれ以前にも他の配信を現代の勉強と称していくらか視聴していたため、内容にバリエーションがあることを理解していたのである。
『何かすごい技見せて』
「すごい技かぁ……あ、そうだ!ボク電気出せるよ!」
「それはやめて。機材がイカれて配信できなくなるから」
アルムが放電を披露しようとするとカグヤが慌ててアルムの肩に手を置きマジトーンで制止をかけた。
結局未遂に終わったものの、その反応から実際にできるであろうと察したコメント欄の空気感が変わる。
「とゆーわけで、これからアルムも配信に出まーす。しばらくはあーしと一緒にやってくけど、いずれはアルム単独での配信もしていけたらいいなーって思ってるからチャンネル登録と応援よろしくー」
カグヤはアルムと肩を組んで画面に映るとリスナーたちにアピールした。
アルムも他の配信者の配信を見て覚えた言い回しをカグヤも使っていることに気づき、知っているものを目の前で見られたことに歓喜する。
配信を終えたカグヤはすかさずアーカイブを確認しだした。
アルムは配信らしい企画をしていないことに首を傾げる。
「あれでよかったの?」
「うん。バッチリ」
カグヤは親指を立てた。
同接数はやはり百人を超えており、期待通りであった。
これを見たカグヤは『アルムが再生数を稼げる逸材』であることを確信する。
「今夜もう一回配信やろう。今度はゲームやろっか」
「ゲーム?ボクでもできるかな」
「できるできる。あとで遊び方教えたげるー」
カグヤは次の配信の企画を説明するとゲーム機を引っ張り出した。
ソフトは過去に自分も配信でプレイしたゲームである。
自分がプレイすればただの焼き直しだがアルムに初見プレイさせれば話は別である。
こうしてアルムはカグヤに導かれる形で現代でライバーとしての一歩を踏み出したのであった。




