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落着したら

 パピヨンキメラを倒したアルムは町の人たちを観察してそれらしい仕草を覚えるとお金の使い方と買い物の仕方を学習した。

 ふらりとコンビニに立ち寄るそこで使われている数字を読み取り、棚に陳列されていた菓子パンを見てカグヤの家に類似品があったことを思い出すとそれを手に取った。


 「あっ、これカグヤの家にあったやつだ」


 菓子パンを手に取ったアルムが次に目にしたのはチョコチップクッキーであった。

 初めてカグヤの家に上がったときにもてなしで出されたものと非常によく似ている。

 アルムはクッキーがお小遣いで買える範疇であることを確認すると迷わずそれを手に取った。

 そして他の利用客の見よう見まねでレジに向かい、たどたどしいながらも自力で会計を済ませた。

 ぎこちない動きではあったがアルムの日本人離れした容姿から日本慣れしていない外国人と認識され、スタッフや利用客からも不審がられることはなかった。

 

 「ふふーん。これでボクもお買い物っていうのができるようになったぞ」


 店を出たアルムは学びを得たことに喜びを見出しながらカグヤの家へと戻ってきた。

 鍵を開けて家の中に入ると購入した菓子パンを食し、足りない分は尻尾の先をコンセントに突き刺して充電することで満たす。

 

 飢えを満たしたアルムは今日あったことを報告しようとカグヤの帰宅を一人待った。 

 その最中、暇つぶしがてら家の中を探索しているとカグヤが愛蔵しているマンガを発見した。

 

 「絵が描かれた本……?」


 マンガを開いたアルムは首を傾げた。

 彼女が生まれた時代にマンガという概念は存在していなかったため、絵が主体となっている本は非常に斬新に見えた。

 いつの間にかアルムは夢中でマンガを読み耽っていた。


 「ただいま」


 夕刻、バイトを終えたカグヤが帰ってきた。

 その手には夕食用の惣菜を詰め込んだビニール袋が提げられている。


 「おかえりカグヤ!」

 「ねえアルム、昼間の雷ってアルムでしょ」

 

 カグヤはビニール袋をテーブルの上に置くとアルムに尋ねた。

 バイト中シロガネ館の外に出ていなかったものの、音ですぐに気づいたのである。


 「そうだよ。キメラもばっちり倒してきた!」


 アルムはピースサインをしながらカグヤにアピールした。

 するとカグヤはさらに確認したいことがあると言わんばかりにグイっと顔を近づけた。


 「ハルヒは助かるの?」

 「なんとかなるよ。命を脅かすような毒じゃないし、時間が経てばその内元に戻るって」

 

 アルムはパピヨンキメラから引き出した情報をそのままカグヤに伝えた。

 パピヨンキメラ由来の成分は中毒性こそあるが無害であり、時間経過で徐々に普通の感覚に戻ることが示唆されていた。


 「そっか、じゃあ元に戻れるんだ。よかった……」

 

 答えを得たカグヤは静かに呟くと顔を隠すように俯いた。

 次の瞬間には肩を震わせ、涙がポタポタと零れだした。


 「よかった。このままハルヒが元に戻らなかったらどうしようって思ってたから……」


 カグヤは安堵の涙を流した。

 ハルヒが回復できるとわかったことで自責の念から解放され、緊張の糸がプツリと切れてしまったのである。

 

 「ありがとアルム……」

 「どういたしまして」


 アルムは泣き崩れるカグヤをそっと抱き寄せて宥めた。

 

 ひとしきり泣いて心が晴れたカグヤは気を取り直してアルムにお礼をすることにした。

 

 「アルムにもスマホ持たせたげる」

 「えーっ!?本当にいいの!?」

 「いいっていいって。アルムにはあーしだけじゃなくてハルヒも助けてもらったわけだからこれでもまだ足りないと思ってるぐらいだし」

 

 カグヤはアルムにスマホを持たせることにした。

 アルムをより早く現代に適応させるためであり、また確実な連絡手段を得るためでもあった。

 もちろん端末代と使用料はカグヤの自腹であるが自信を含め二人も内輪を助けられたことへの感謝としては安すぎるぐらいであった。


 「やったやったー!」


 アルムは床の上を跳ねまわって大はしゃぎした。

 その様はさながら幼子のようであった。


 「はい、というわけでこれがアルムのスマホです」


 翌日の夕方、カグヤはバイト上がりにアルムを連れて携帯ショップへ赴くと諸々の手続きを済ませてスマホを一台購入してそれをアルムに貸し与えた。

 端末は二世代ほど前の型落ち機ではあるがアルムに与えるには十二分のスペックを持っていた。

 戸籍のないアルムに代わって契約はカグヤの名義である。


 カグヤはスマホの操作方法や機能を夜通しでアルムに仕込んだ。

 アルムは持ち前の学習能力でそれを吸収し、その日のうちに一人である程度の習熟を見せた。


 「なにか連絡したいことがあったらこのアプリ使って。メッセージ送るか通話するかができるから」

 

 カグヤは連絡用のアプリをアルムのスマホに入れるとそこに自分の連絡先を登録した。

 ついでと言わんばかりにカグヤを経由してハルヒの連絡先も登録される。

 

 「あ、先に言っとくけど充電するときは絶対に充電器使ってよ」

 「なんで?」

 「スマホはがアルムの電気に耐えられないから。スマホはデリケートなの」


 カグヤはスマホを使用する上での注意事項をアルムに警告した。

 するとアルムはなら試してみようと言わんばかりに充電器のプラグを親指と人差し指で外から挟み込むようにつまむと端子をスマホに接続した。

 指先から微弱に放電してみると充電器を経由してスマホにバッテリーが充電される。


 「これならいいってこと?」

 「無駄に器用だな」


 アルムの人外技にカグヤは絶句した。

 とりあえず運用上の問題はなく正常に動作しているため、特に言及することもなかった。


 こうしてアルムは文明の利器に触れて現代への適応を進めるのであった。

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