復活キメラ
週末、カグヤの家にハルヒが訪れた。
アルムの調子が上がらない現状を把握し、回復のための施策を考え始めた。
「うーん……回復力に頼るなら滋養強壮効果のあるものを食べるのがいいと思うけど」
「滋養強壮のあるものって? 例えば?」
「そうだなー……玉子とかニンニクとかいろいろあるよ」
ハルヒはアルムに栄養のことを教えた。
カグヤには持ちえない知識である。
「あーしいいもの知ってるよ。 豚骨ラーメンニンニク煮卵トッピング」
「お姉ちゃん、それは流石に雑すぎ」
口を挟んできたカグヤにハルヒがツッコミを入れた。
カグヤがいるオタク界隈では定番の食べ物だがハルヒからすれば劇物にも等しいものであった。
だがそれを聞いてとある妙案を思いつく。
「そうだ、レバニラ作ろう」
ハルヒは今日つくる料理にレバニラを選んだ。
スタミナ料理の定番であり、ハルヒが自分の手で作れる料理でもあった。
「おっ、いいねー。 じゃあ材料買いに行くかー」
カグヤがハルヒの発言に同調して買い出しを提案したその時であった。
アルムが何かに反応するかのようにピクリと顔を上げた。
「……キメラ出た?」
「そうだね。 アルジェ行くよ!」
アルムはキメラの気配を察知していた。
アルジェを呼びつけ、二人同時に家を飛び出していく。
調子が上がらないとはいえ、それを理由に行動を起こさないアルムではなかった。
「ハルヒ、あーしらも見に行こうか。 買い出しはその後で」
「うん……」
カグヤはそう言ってハルヒを外へと連れだした。
ある程度の力は発揮できるとはいえ、本調子ではないアルムのことが気がかりであった。
「二人はどっちに行ったのかな」
「たぶんねー、こっちだと思う」
カグヤはアルムとアルジェが向かった先を推測するとその方向へと走った。
根拠はないものの、ずっと付き合い続けていることである程度の行動は読むことができた。
カグヤたちが向かった先にはとてつもない光景が広がっていた。
地面からは季節外れの陽炎が立ち上っており、そこに『何か』がいることを予感させる。
そしてその『何か』の正体はすぐに判明することとなった。
「グオオオオオン!!」
『何か』に吹っ飛ばされてきたアルムがアスファルトに叩きつけられた。
やはり本調子ではないらしく、すでに疲労の色が見える。
『カグヤ!?どうしてここに!?』
「アルムのことが心配で様子見に来たんだよ」
カグヤとハルヒの姿を見たアルムはテレパシーで語り掛けた。
対するカグヤはその目的をアルムに伝える。
「お姉ちゃん、あれってもしかして……」
ハルヒは少し先の方に視線を向け、カグヤの視線を誘導した。
そこには真っ白な身体に金色の鬣を拵えたライオン型のキメラと、それに格闘戦を挑むアルジェの姿があった。
だがアルジェは苦戦を強いられており、戦況は芳しいとは言えなかった。
『二人とも、ここにいると危ないよ。 できるだけ離れて』
アルムは退避を促すとアルジェに合流するように低空飛行でキメラの元へ向かっていった。
だがその移動速度には普段のキレはなく、彼女が弱体化しているのがカグヤの目にも顕著にわかってしまった。
白いライオンのキメラ=ホワイトレオキメラは徒手空拳でアルジェを圧倒した。
その手足が触れるたびにアルジェの体表から火花が散り、その衝撃が骨まで響くように圧し掛かる。
一方的な状況にも関わらずアルジェは防御に徹していた。
かつて戦った同型のキメラ=レオキメラは力を発揮しすぎるがあまり自滅の道をたどったため、今回もその時を待っていたのである。
ホワイトレオキメラはアルジェの援護に来たアルムを再び一蹴し、その首を掴んで軽々と投げ飛ばす。
(おかしい、自滅の気配がない)
アルジェはホワイトレオキメラの挙動に違和感を抱いた。
ホワイトレオキメラの内部でエネルギーが高まるような様子がなく、自滅の気配が一向に訪れない。
アルジェは自分の選んだ手段がミスである可能性を疑い始めた。
ホワイトレオキメラはアルジェを蹴り飛ばすと鬣から炎のようなエネルギーを放出した。
その行動を見たアルジェはとあることに気づいた。
(なるほど、余剰エネルギーの放出ができるようになっている)
ホワイトレオキメラは体内で生成されるエネルギーの余剰分を体外に放出する機能が搭載されていた。
かつてのレオキメラと同じ軛を踏まぬように新たに獲得した力である。
これにより自滅待ちをするというアルジェの戦術は崩壊することとなった。
アルムとアルジェをまとめて圧倒してみせたホワイトレオキメラは勝ち誇ったように雄叫びを上げるとそのままどこかへと去っていった。
姿を消したことで周囲の熱気は失せ、元の涼しい気温が戻ってくる。
アルムとアルジェは周囲に誰もいないことを確認すると人間の姿になった。
傷ついた身体を引きずり、カグヤたちのところへとやってくる。
「へへへっ、倒しきれなかったよ」
「うん、そうだね……」
合流するなり苦笑いをするアルムにカグヤは気まずそうに答えた。
一方でハルヒはアルジェのことが気がかりであった。
ホワイトレオキメラの激しい攻撃を受け続けた彼女の身体はかなりのダメージを負っており、手足には痣がいくつも出来上がっていたのである。
「アルジェちゃん大丈夫!?」
「問題ない。 この程度なら一日もあれば回復できる」
アルジェは機械的に答えた。
だがその答えはハルヒの心配を払しょくするには不十分であった。
その日、アルムたちは弱点を克服したかつての強敵と再び相まみえることとなったのであった。




