制御不能?
その日、バイトから帰ってきたカグヤは帰宅して早々に珍妙な光景を見ることとなった。
アルムとアルジェがぴったりとくっついていたのである。
過剰なほどの密着を絶やさないその光景はカグヤの目から見ても異常であった。
「あの、何があったか聞いてもいい?」
「勝手に電気が出ちゃうんだよぉ」
「そういうこと。 アルムの電気が外に流れないように私が受け止めている」
アルムが困ったように事情を説明し、アルジェがその補足をした。
スティングレイキメラとファルコンキメラとの戦闘以降、アルムは能力の制御が利かずに電気がダダ洩れになってしまっており、アルジェはその電気の流出を防ぐための受け役となっていたのである。
「文明の利器は触れただけで壊すからしばらくは使えそうにない」
「アルジェがくっついてくれてないとスマホも触れないよー!」
アルムは尻尾をバタバタと振りながら嘆いた。
「家のもの壊したりしてないよね?」
「大丈夫。 ここまでずっと私が手を繋いでいる」
カグヤが確認を取るとアルジェが安全を保証した。
ここでカグヤの中にある疑問が浮かんだ。
「なんでこんなことになっちゃったの?」
「キメラに足を切られて、そしたら勝手に電気が出てくるようになっちゃって……」
アルムは自身の能力が暴走するようになった経緯を語った。
発端はスティングレイキメラの刃を足に受けたことである。
「切り傷から毒を仕込まれたとかかな」
「可能性は高い。 私は鱗が傷ついただけで済んだけどアルムは鱗の向こうに刃が通っている」
カグヤとアルジェはアルムの状態を推察した。
刃が通らなかったアルジェに異常がないことを鑑みるに刃に仕込まれた何かが身体に入ったのが原因とみてよさそうであった。
「アルム、電気が出ちゃう以外に何か変わったところはない?」
「うーん……なんかいつもより力が出てるカンジ」
カグヤに尋ねられたアルムは能天気に答えた。
彼女は戦闘での消耗を感じさせないほどに体力をみなぎらせている。
むしろ戦闘に出向く前よりも元気になっているぐらいであった。
「毒が原因なら身体から抜けるのを待てば解決するだろうけど……」
「それまでの弊害が大きい」
カグヤとアルジェは怪訝な反応を見せた。
毒が原因であると仮定し、それが抜ければ収まるとしたうえでそれまでに生じる影響がとてつもなく大きかった。
際限なく放電してしまうせいで文明の利器のほとんどは触れた瞬間に壊してしまい、生物ですら触れれば感電してしまうためアルジェが受け役にならなければ何にも触れられない有様であった。
「私の手が空かないのが問題。 これではゲームができない」
「尻尾でも絡ませたらいいんじゃない?」
「それは名案」
アルジェはカグヤの提案を受けると角と尻尾を出現させ、その尻尾をアルムの腹に絡ませた。
アルムの身体の放電は抑えられ、アルジェは両手を使えるようになる。
「どうしてくかはあーしも考えてみるから家にいる間はひとまずこれで過ごして」
「えーっ!?」
「他に打てる手がある?」
「ないです……」
こうしてカグヤの一声により、アルムはアルジェと密着したまま一夜を過ごすこととなった。
幸いなことにアルジェの冷却能力により暑苦しさは感じることはなかった。
「ぐえっ!」
「急に動かないでほしい」
アルムはアルジェの力により戻されて腹を圧迫された。
人間体の体格はアルムの方が大きいものの純粋な力ではアルジェの方が上回っている。
さらに人間の姿でも活発に動き回るアルムと対照的にあまり動かないアルジェとで傾向はまったくの真逆であるため、動こうとするアルムにアルジェが制止をかける事態が頻発した。
尻尾同士を絡ませることで圧迫感こそ減ったものの、窮屈なことに変わりはなかった。
「うぅ……動きづらいなぁ」
「それをどうにかしない限りは仕方がない」
アルムは過剰なまでに発生するエネルギーを持て余していた。
放電は止まらず、それでいて身体を動かしたくて仕方がない。
「ねえアルジェ、ボクのエネルギーを発散したら少しはマシにならないかな」
「……」
アルムはアルジェに提案を持ちかけたがアルジェはそれに対して返答をしなかった。
過剰なエネルギーを強引に発散すれば放電が落ち着く可能性はあるが逆に余計にエネルギーを発生させてしまうリスクもあるため、安直な返事ができなかったのである。
だがこの状況が続くことに対してアルジェも思うところがあった。
「付き合ってあげる」
「ありがとう!」
アルムはアルジェとの密着を説くと窓を開けて外へと飛び出していった。
すぐさまドラゴンの姿に変身し、雷光と共にどこか遠くへと飛び立っていく。
アルジェはその残光を追いかけ、冷たい風に乗って夜空を駆けるのであった。




