地を泳ぎ、空を駆ける
その日、町は白昼から大混乱に陥っていた。
なんと二体のキメラが同時に出現したのである。
片や地面を滑るように這いまわるエイ型のキメラ、片や空を飛び回る猛禽類のキメラであった。
そんな二体のキメラの気配を察知し、アルムとアルジェが駆けつけた。
二人もまた、これまでにないイレギュラーに驚くばかりであった。
『ボクは空のキメラを追う!アルジェは地上をお願い!』
アルムはアルジェに地上のキメラの相手を任せると自身は空にいるキメラを追跡した。
アルジェは返事こそしないものの、言葉通りにエイ型のキメラ=スティングレイキメラと対峙する。
「グギギギ……」
アルジェはスティングレイキメラの様子を見て不可解さを感じ取った。
これまで遭遇してきたキメラは言語能力や知性といったものを持ち合わせていたがスティングレイキメラからはそういったものを感じられなかった。
何か裏があることを疑わずにはいられなかった。
スティングレイキメラはアルジェに対して低姿勢で這うような動きで接近を仕掛けた。
アルジェは路面を凍結させ、スティングレイキメラを滑らせるとその首を掴んで凍った地面に叩きつける。
スティングレイキメラは叩きつけられた際に左腕の刃をアルジェの右腕へと突きつけた。
刃は強固な鱗の守りに阻まれて肉を貫きこそできなかったものの、鱗に傷をつける。
(なるほど。 アルムの鱗なら一撃で貫ける威力がある)
アルジェはスティングレイキメラをカウンターで殴り飛ばすと右腕のダメージを確認した。
自身の強度がアルムより上であることを自覚しているため、アルムの鱗が貫かれる可能性は容易に推察することが可能であった。
ステイングレイキメラはアルジェとの真っ向勝負は不利と判断すると全身を小刻みに震わせて地中へと潜り込んだ。
アルジェは冷気ブレスで足止めを図るが反応がわずかに出遅れ、ステイングレイキメラの逃走を許すこととなった。
(これでは手の打ちようがない)
アルジェは地中のスティングレイキメラに対してなすすべがなかった。
彼女にはキメラの気配を探知する能力がないため、目視できないキメラを追跡する方法がなかったのである。
アルジェは追跡を諦めるとスティングレイキメラの潜行跡に冷気を吹き込み、空中で別のキメラと戦うアルムの援護へと向かった。
アルジェが地上でスティングレイキメラと戦闘を行っていた頃、アルムは空中で鳥型のキメラと戦闘を繰り広げていた。
鳥型のキメラ=ファルコンキメラはアルムの上を取ると彼女めがけて羽型の矢を無数に射出した。
アルムは持ち前の機動力でそれを回避すると電撃を繰り出して反撃する。
ファルコンキメラは空中で身を翻して電撃を避け、そのまま地上へと急降下を始めた。
その速度は凄まじく、アルムの機動力を持ってしても追いつけない。
急降下してアルムを引きつけたファルコンキメラは地表付近で突如として軌道を変え、急上昇した。
アルムは停止をかけるが制動が間に合わず、地に足をつけた。
ファルコンキメラはアルムの背後を取り、急降下して背中に蹴りを浴びせた。
猛スピードで激突されたアルムの身体は地面にめり込み、アスファルトを陥没させた。
ファルコンキメラがもう一度急降下攻撃を仕掛けようと空は上がりかけたところでアルジェがファルコンキメラを抑え込んだ。
アルジェのパワーと重量に押され、ファルコンキメラはズルズルと地上に引き摺り下ろされる。
『私が押さえておく。 アルムはもう一体のキメラの行方を追ってほしい』
アルジェはファルコンキメラを叩き落とすとアルムにスティングレイキメラの追跡を委ねた。
アルムが宙に浮き上がり、スティングレイキメラの気配を探ろうとしたその時であった。
アルムの真下からスティングレイキメラが勢いよく飛び出すと左腕の刃でアルムを切りつけた。
アルムは咄嗟の回避で直撃を回避するものの、左足首を掠めた。
刃は金色の鱗を裂き、小さな切り傷を作る。
次の瞬間、アルムの挙動に異変が生じ始めた。
『あれ!?変だなぁ!?』
アルムは周囲に放電を行い始めた。
だがそれは決して彼女の意思によるものではなかった。
その能力が制御を外れて勝手に発動しているのである。
アルジェはファルコンキメラとの戦闘を放棄してアルムの腕を掴むと漏電を一手に引き受けた。
完全な絶縁性能を持つアルジェが電気を受けなければ周囲に被害が及ぶのが見えたのである。
アルムの放電能力が暴走を始めたのを確認したファルコンキメラとスティングレイキメラはそれぞれ空と地上へと逃走していった。
アルムとアルジェは二体のキメラを取り逃がしたまま戦闘を終えることとなったのであった。




