マスターの務め
「私のかつてのマスターは、シロガネ・レン」
アルジェからその名を聞かされたカグヤは動揺した。
その名は自分もよく知る人物と同名だったからである。
「そんなまさか……たまたま同じ名前なだけだよね?」
「いいや、カグヤの知っているシロガネ・レンその人」
逃避しようとするカグヤを引き戻すようにアルジェが言い放つ。
自分と交流もあり、そんな素振りなど微塵も見せなかったレンが裏で錬金術を使ってキメラを作っていたことはにわかにも信じ難かった。
「アルム、キメラを作ってた人がわかったんだし、パパっとやめさせれば解決でしょ」
カグヤがアルムに処置を委ねようとしたがアルムは申し訳なさそうに目を伏せながら首を横に振った。
「どうして……」
「ボクの力はあくまでキメラと戦うためのものだよ。 錬金術を使えるとはいえ、人間を傷つけることはできない」
アルムは力を振るわない理由をはっきりとカグヤに伝えた。
アルムは人間を守るために目覚めたキメラであり、その力はキメラと戦うためにある。
その考えは生まれたときから徹底しており、その相手がキメラを生み出す人間であったとしても例外ではない。
「アルジェ、どうにかできない?」
「きっと向こうはすでに手を打っている。 私では恐らくどうにもできない」
アルジェもレンに対して手を出せない旨を伝えた。
一緒にいる時間が多少ある分レンの行動パターンについてはある程度知っており、それに則るとすでに拠点を変えている可能性が高い。
その居場所を突き止めるのはアルジェといえども不可能であった。
「じゃあどうすれば……」
狼狽えるカグヤの肩にアルムとアルジェが手を置いた。
二人は今まったく同じことを考えていた。
「そこはカグヤがなんとか話をつけてくれないかな」
「あーしが!?」
「うん。 アルムはレンと面識ないし、私はレンに対してものを言える口じゃない」
アルムたちは逆にカグヤに話をつけさせるように頼んだ。
アルムはレンと一切の面識がなく、アルジェは自分の生みの親でもあるレンに対して錬金術をやめさせるように訴えかける道理はない。
レンと面識がありつつも踏み込んだ関係を持たないカグヤが適任だったのである。
二人に頼まれたカグヤは断れなくなってしまった。
「うっ……やれるだけやってみるけど……」
カグヤはレンと対話を試みる役を引き受けることとなった。
相手は錬金術を使える人間であるのに対してこちらはそういったものがない生身の人間ということもあり、すでに気が重かった。
「大丈夫。 何かあったときはボクたちが守ってあげるから」
「人間の相手は人間のマスターの方が上手くやれる」
アルムとアルジェはカグヤを激励するように言った。
人間社会での立ち位置を活かした立ち回りはキメラである二人よりも純粋な人間であるカグヤの方が向いている。
当然のことの言っているだけではあるがキメラたちの激励はカグヤの中で多少の意欲に火を点ける着火剤となった。
「よし、いっちょやってやりますか」
カグヤは発起し、レンと錬金術にまつわる対話に臨む決意を固めるのであった。




