アルジェと有名プレイヤー
カグヤとアルムが二人向き合い、アルムの中の靄を払ったその日の夜。
アルジェは普段と趣の違う配信を行っていた。
『【格ゲー配信】プロが参戦!手合わせ願います!』
「始まった。 まずは挨拶から。 私はアルジェ、アルムの妹」
アルジェは淡々と挨拶をした。
不愛想にも思える淡泊な口ぶりも今となっては持ち味である。
「今日はすごい人に来てもらった。 挨拶お願いします」
『みなさんこんにちは。 ストリートレジェンズ5のプロゲーマーをやらせてもらってます! クレバーキャッツのセンです!』
通話を繋いでいる相手はハキハキとした明るい声でアルジェ側のリスナーに挨拶をした。
今回の配信はなんとプロゲーマーと格ゲー勝負をするというものであった。
使用タイトルはストリートレジェンズ5、最新の格ゲーである。
このコラボはカグヤたちにも知らせず極秘に計画していたものであった。
「初めまして。 今日はよろしくお願いします」
『よろしくお願いします。 アルジェさんのお噂はプロの間でも兼ねがねお伺いしております』
「プロに名を知られていて光栄」
アルジェの存在はプロの間でも認知されており、その腕前を知られていた。
センは今回そんな彼女に正面から挑戦しに来たのである。
『じゃあ今回の流れを確認させていただいてもよろしいですか?』
「まずは肩慣らしに三十分ほど雑談しながら軽く対戦、慣れてきたら本気の十本先取」
アルジェは今回の配信の流れをリスナーたちに説明した。
実力があるアマチュア配信者のアルジェとプロとして活躍するセン、立場の違う二人の対談から二人の真剣勝負とブレ幅の大きい内容だがリスナーたちは大いに期待を膨らませた。
『まさかアルジェちゃんがプロと絡む日が来ようとは』
『どっちにも頑張ってほしい』
リスナーたちに見守られながらアルジェとセンは対戦が始まった。
どちらも自分のメインキャラを使わず、画面映えする要素を持ったキャラクターを使っての対戦であった。
「センはいつからプロをやってるの?」
『ボクがプロデビューしたのはストレジェ3の頃だからだいたい十年ぐらい前かな』
「そんなに前から」
『アルジェちゃんは結構最近配信デビューしたみたいだけど、格ゲーの方の歴はどれぐらいなの?』
「だいたい二ヶ月ぐらい」
『えーっ!? たった二ヶ月でこんなに!?』
アルジェとセンは互いの活動歴を紹介しあった。
しかもアルジェの格ゲーデビューがグラツーからという逸話もあり、それがあらにセンを驚かせた。
『あーっ! 今のやりたかっただけでしょ!』
「ふふっ。 できそうだからやった。 あ、手が滑った」
センとアルジェは煽り合うようなやり取りをしながらゲームで遊ぶ。
すると配信を確認したカグヤとアルムが驚いた様子で配信部屋にやって来た。
「アルジェ! いつの間にコラボ配信なんてやってたの!?」
「サプライズ」
「今回はなんのゲームやってるのー?」
カグヤとアルムはアルジェのプレイしているゲーム画面を覗き込んだ。
カグヤたちが映り込んだことでリスナーたちは大盛り上がりを見せる。
『初めまして。 クレバーキャッツ所属のプロゲーマー・センでーす』
「プロゲーマー!? って何?」
「ゲームをお仕事にしてる人」
「へー。 じゃあすごい人なんだねー」
アルジェがプレイする後ろでカグヤとアルムがやり取りを見せる。
配信で見せている通りの自然体な姿にセンは感動を覚えた。
『すごいなー。 いいもの見せてもらいましたわー』
「いやいや! プロゲーマーの肩からそんなお言葉をいただけるなんて畏れ多い!」
カグヤはいきなりプロゲーマーと接点を持ったことに恐縮しながら返事を返した。
見どころが発生したところでセンは表情を切り替えた。
『さて、そろそろ始めますか』
「……よろしくお願いします」
センはアルジェに十本先取を持ちかけた。
アルジェもそれに応じ、コントローラをぐっと握りしめると眉をぐっと上げてやる気を見せた。
『よろしくお願いします』
「いい勝負にしよう」
簡潔に一言挨拶を交わしたセンとアルジェは真剣勝負を始めた。
互いのメインキャラを持ちだし、言葉を交わさないほどに集中して試合に臨む。
初めはアルジェが優勢に試合を進めていた。
『相手の行動に反応して即座に対応する行動を繰り出す』というプレイスタイルが見事に突き刺さり、センのキャラの攻めを的確にいなして差し返していく。
だがアルジェがリードを保ったまま五本目を取ったあたりから次第に状況が変わり始めた。
センのプレイスタイルが変化したのである。
(これはわかっていても避けられないセットプレイ)
センは使用キャラクターの持ち味とするセットプレイをアルジェに仕掛けた。
とある技を起点としてそこから回避不能の二択を持ちかけるというものであり、アルジェが苦手とする『読み合い』に強引に持ち込める必殺技である。
「この技が届かない間合いで……」
アルジェは独り言を零す。
苦手な読み合いを何度も仕掛けられるのは避けたかったため、その起点となる技が機能しない距離を維持しなければならなかった。
だがアルジェといえど苦手な読み合いから逃げ続けているわけではない。
センが仕掛けてきたセットプレイのパターンの積み重ねを思い出し、二択に対して向き合っていく。
読み合いに持ち込んで二択を仕掛けようとするセンとそれを拒否しつつも二択に真剣に付き合うアルジェという構図が出来上がり、その白熱ぶりにカグヤとアルム、そしてリスナーたちは固唾を飲んで試合の行方を見守った。
一進一退の攻防が続いてもつれ込んだ十九本目、どちらかが一本を取れば勝敗が決まる最終戦。
ゲームの音、レバーの操作音、ボタンを叩く音の三つが静かに鳴り響き、アルジェとセンの仕上がりは最高潮に達していた。
『よーーーーーーし!!』
「負けた……」
最終ラウンドを迎え、互いに一歩も譲らない試合の末に激闘を制したのはセンであった。
勝ちきったセンはプロシーンばりの雄叫びを上げた。
アルジェの健闘を称え、彼女の後ろからカグヤとアルジェの拍手が鳴り響いた。
「いやー、流石アルジェ。 プロ相手にここまでやれるなんてやっぱすごいわー」
『いやー強かったです。 ぜひプロシーンにも来てもらいたいぐらいです』
「あのー、うちのアルジェは人間じゃないんですけどプロになれますかね?」
『人間じゃない……あー、確かに反応速度はすごかったですよね』
カグヤはセンとやり取りを交わした。
カグヤはアルジェが人間ではないが故を懸念を示すがセンはそれをプレイヤーとしての技能だと解釈していた。
初めてのコラボを行ったその配信は数時間の中に数々の見どころを残し、瞬く間に切り抜きが作られるほどの神回と評判になったのであった。




