決別
再生キメラ事件の終息から数日。
夏休みも終わり、キメラの出現やそれに関連する事件は起きず平和な時が流れる中でアルムは先のスカラベキメラとの戦いのショックを引きずったまま茫然自失していた。
配信ではいつもの明るい姿を見せるものの、それが終わると脱力してぼんやりとした状態に陥ってしまう。
そんなある日、SNSでエゴサーチをしていたカグヤはとある投稿が目についた。
『最近のアルムちゃん無理して元気出してる感じする。 心配』
はじめは考えすぎとスルーしようとしたカグヤだったが検索を進めると類似する内容の投稿が何件も見つかった。
背信越しにリスナーに状態を見透かされるのは由々しき事態だと感じたカグヤはどうにかしてアルムのメンタルをケアしようと考えた。
そしてバイトの入っていない休日の朝、カグヤはアルジェがいないタイミングを見計らってアルムに声をかけた。
「ねえアルム、久しぶりに二人でなんか話さない?」
カグヤはそう言うと食卓に大量のチョコチップクッキーを置いてアルムを誘った。
用意されたクッキーの匂いからカグヤが自分と本気で話をしようとしていることを感じ取ったアルムはそれに応じるように席に着く。
カグヤはアルムと向かい合うように座った。
「クッキーは好きに食べていいよ。 ねえアルム。 この前のアレのこと、まだ心残りにしてる?」
「別に……」
「いいや、嘘だね」
アルムはカグヤの質問を否定しようとしたがすぐに嘘と見抜かれた。
素直であるがゆえにうまく嘘をつけないことをカグヤには熟知されていたのである。
「やっぱりマスターに会いたいと思ったんだ」
カグヤが尋ねるとアルムは無言で首を小さく縦に振った。
「ボクたちキメラにとってマスターは人間でいう親みたいな存在だと思うんだ。 ボクは千年以上前にマスターとちゃんとお別れしたつもりだったんだけど、どうやらうまくいってなかったみたい」
アルムは己の胸中をカグヤに打ち明けた。
その言葉を通じ、カグヤはキメラの中にそういった感覚が存在することを知った。
「あーしはまだ親が生きてるからそうなるかわからないけどさ。 死んだ親にまた会えるってなったら、普通の人間ならそれを望むんだろうね。 あーしよりよっぽど人間らしいよ」
カグヤはアルムの感情に一定の理解を示した。
両親が健在なカグヤには親を亡くした人間の気持ちはわからないが、きっとそれに近いものなのだろうということは理解することができた。
そして蟠りが解けた今、死んだ両親と再会できる可能性があるとしたらそれを望むかもしれないことも想像できたのである。
「でもさ、アルム。 ちゃんとお別れをしたんだったらそれで終わりにしなきゃ。 遺された自分たちはその人の分まで生きるの」
カグヤはアルムに過去の未練との決別を促した。
アルムにとってオルフェウスがどれほど大切な存在だったのかは先の激昂を見れば容易に想像ができる。
だからこそ、その思い出を綺麗なものにするためにきっぱりと決別をしなければならないというのがカグヤの考えであった。
「その人の分まで」
「そう。 きっとアルムのマスターもアルムがそうやって過去を引きずって落ち込むことなんて望まなかっただろうし」
カグヤはオルフェウスを引き合いに出してアルムを背を押した。
故人の意思はわからないが、きっと自分のことを未練に想わせたくないだろうという憶測での発言ではあるがそれはアルムを立ち直らせるには十分な力があった。
「そうだよね。 やっぱり受け入れないとだよね!」
カグヤに背を押されたアルムは吹っ切れたように明るい声を出した。
その声色に空元気は感じない。
「そういうこと。 気分転換にどっか遊びに行く?」
「それならボクちょっと行ってみたいところがあってー」
「ははは。 調子のいいやつめ」
過去の未練から決別し、明るさを取り戻したアルムはカグヤを引っ張って外へと飛び出すのであった。




