触れられない幻
アルジェが再生キメラを生み出している元凶を探している間、アルムは英気を養うべくカグヤの家へと戻ろうとしていた。
日夜を問わず行われる連戦に次ぐ連戦によって彼女には肉体的な疲労がかなり押し寄せていた。
そんな中、アルムはとある場所で足を止めた。
瞼を何度も擦り、己の目を疑った。
そこには存在するはずがないものが映っていたのである。
「オルフェウス……?」
アルムは目の前に立っている男に声をかけた。
その男は後姿だけとはいえ、外見的特徴がアルムがマスターとしている人物=オルフェウスとうり二つであった。
そしてその男からはキメラの気配が感じ取れた。
「いや……まさかそんなはずはない」
アルムは目の前にいるそれの存在を否定しようとした。
彼女は千年以上前にオルフェウスの最期を自分の目で確かめているため、彼が本物でないことは頭では理解できている。
しかし何度見直してもそこには確かにオルフェウスの姿が存在していたのである。
その男はゆっくりとアルムの方に振り返った。
男の顔を見たアルムは激しく動揺した。
その顔は間違いなくオルフェウスのものだったのである。
「嘘だ……オルフェウスの顔をしたキメラなんて……」
狼狽するアルムに対して男は無言でゆっくりと歩み寄った。
故人であるはずのマスターが生前と変わらぬ姿で動いている姿はアルムの背筋にすさまじい悪寒を走らせる。
だが人間を傷つけることができないアルムにはその男を拒絶することができなかった。
その夜、アルジェは自らの足で集めてきた情報をカグヤに共有していた。
「再生されたキメラたちはすべてこの土から作られている」
「なるほどねー。 あ、これネットじゃ買えないんだ」
カグヤはアルジェから得た情報に検索をかけるとその土がネットでは購入できないものであることを発見した。
それはアルジェにとって有益な情報であった。
「それにしてもアルムの帰り遅いね」
カグヤはアルムはこの時間に連絡も寄越さず帰ってきていないことを心配していた。
アルムの力であれば再生キメラたちに後れを取ることはまずないが、連絡がないと何かあったのではないかと勘繰ってしまう。
「探して来ようか」
「いや、アルジェは休んでて。 いざという時アルジェが戦えないとあーしらが困る」
アルジェが捜索を提案するとカグヤはそれを突っぱねて休息を促した。
戦闘に加えて情報集めで一日中奔走していたアルジェにも少なからず疲労が蓄積している。
カグヤとしてはキメラに対抗する戦力としてアルジェをこれ以上消耗させるようなことはさせたくなかった。
「とにかくアルジェは明日の朝まで休んでて。 これはマスターとしての命令ね」
「了解した」
カグヤは『アルジェのマスターとして』アルジェに命令を下した。
普段はそれらしい振る舞いをまったく見せないカグヤだが今は違う。
アルジェはカグヤからの命令に従って休息を取るべく寝室へと入っていった。
結局その夜、アルムが帰ってくることはなかった。
カグヤは何度か連絡を取ろうと試みたものの、一度として返事が返ってくることはなかった。
(やっぱり何かあったな)
カグヤはアルムの身に何かがあったことを察しつつも翌朝まで行動を待つことにした。
アルジェに休息させる以上、今カグヤ一人で夜の町を歩くのは非常に危険だということを理解していたためである。
カグヤは今だ戻らぬアルムの身を案じつつもアルジェが回復するまで眠りにつくのであった。




