11.過激派
食堂からの帰り道、サラがカーティスの事を教えてくれた。どうやら王族という事で公務を優先し、遅刻や早退が多いらしい。今日も午前中は公務で休みだった様で、噂のゴーストレディを学園に着いて早々に見に来たのでは?という事であった。
「殿下は前からアンの事を気にしてらしたのよね。魔術に関しては殿下は万年2位だったから。どんな奴何だろうって話していたのを聞いた事あるわ」
テラスでは真っ青な顔をしていたサラはどうやら漸く落ち着いたのか周りの視線をキョロキョロと気にしながらアンネマリーの隣を歩いていた。
アンネマリーはアンネマリーで疲弊した顔を隠す事なく、何処か遠い目をしながら話を聞いている。
「だからっていきなりアレはないでしょう。冗談にしてもタチが悪いわ」
「冗談…かは解らないけど。アンに興味持ってるのは確かでしょ」
「…王族の興味なんて勘弁だわ」
そう、王族の興味など平和な学園生活には不要なものだ。目立つ存在に目を付けられると厄介な事にしかならない。面倒ごとしかやってこないだろう。先程の昼食が良い例。食事を冷え冷えにさせる出来事なんて煩わしいだけだ。
冷えた昼食を思い出し、険しい顔をするとサラに『眉間』と指摘された。アンネマリーは指摘された眉間をぐりぐりと解す。その様子を見てサラは眉を下げて微笑み、少し明るく声を出した。
「殿下は美形だし、王族だから人気が凄いんだけど、性格はそぼ、いや、えーっと少年ぽいから恋愛事とか全く興味無さそうだったのよね」
(今、粗暴って言いかけたよね)
サラの粗暴発言は置いといて、どうやらアンネマリーの考えとは違い、カーティスは人気があるらしい。あんなに性格が悪そうなのにやはり王族という血筋と顔立ちは捨てられない様だ。
「早めに婚約して結婚するのも王族の義務じゃないの?早く婚約すれば良いのに」
「何か殿下が全部断ってるらしいよ。まだ遊んでたいんだって。それに、ほら魔導具オタクでしょ?」
サラは言葉の最後をコソコソ小声で言うと耳と手を指差した。サラの言わんとしている事は解る。確かにあの魔導具の多さは異常だ。指輪は片手三つはしていたし、ピアスも片耳分かるだけで五つはしていた。軟骨は痛いと言うが、マゾなのだろうか。
魔導具作りが趣味とギュンターから聞いた事があるのでどれも自作なのかもしれない。付けていた魔導具を思い出す。ゴツいだけでセンスの欠片もない品物にやっぱりないな、と頭を振る。
その間もサラはカーティスの事を喋り続けた。
「殿下は王族でしょ?その内臣籍に降って公爵位を賜ると思うから婚約者のいない令嬢はほぼ狙ってるわ。結婚したら公爵夫人でしょ?」
「へー」
「結構過激な人達もいて、惚れ薬とか媚薬とか盛った人も居たわ。今どうなってるのかは知らないけど。あ!少なくともうちのクラスにはそんな人いないわよ!皆勉強って感じで色恋に興味あるのはほぼいないかな」
「ふむふむ」
「アンはでも気をつけた方が良いかもね。食堂であんな事になったから噂は直ぐ回るよ。過激派が乗り込んでくる可能性大だから当分一人で行動しない方がいいよ」
「そっかそっか………ん?えっ、なんて…?」
気疲れからサラの話をBGMの様に聞き流していると少し物騒な言葉が聞こえた為、アンネマリーは思わず立ち止まった。すると横にいたサラが目の前に回り込み、真剣な顔で人差し指を立てた。
「過激派が攻撃してくると思うから一人で行動しないで!本当怖いのよ、過激派は!」
言い終わりと共に指をくるりと回され、蜻蛉の気分になったアンネマリーはそのまま沈思する。
(過激派って何。攻撃してくるの?魔術で?え、どうやって?防御結界常時張ってれば大丈夫?物隠されたりするの?嫌味言ってきたり?……え、面倒臭い事この上ないのだけど)
じっと立ち止まっているとサラが指を回すのをやめ、覗き込んで来た。
「大丈夫?」
「あー…大丈夫ではないかな。過激派って貴族令嬢でしょ?令嬢が攻撃してくるって……」
「女の嫉妬よ。物に当たったり、人に当たったり、様々ね。流石に毒は使わないと思うけど気を付けて」
サラのその言葉に乾いた笑いしか出ない。取り敢えず置き勉はやめようとアンネマリーは決意した。
「殿下の唯一になりたい人達だからね。他は蹴落としてなんぼよ。皆それだけ寵愛が欲しいのよ」
「寵愛…、寵愛ね。玩具の間違いじゃなくて?だって彼、」
性格悪くない?とサラの耳元で囁く様に言えば、サラはにへらと困った様に笑い、小さく頷いた。
「そこまでは言えないけど、ちょっと癖はあるわね…」
「ちょっと?ちょっとですまないでしょ」
昼のやり取りを思い出し、口元を歪ませて言えば『まあまあ』とサラがなだめてきた。それに免じて更に文句を言おうとしていた口を噤み、ゆっくりと歩き始めれば同じくサラも横を歩き始める。
「取り敢えずさっきも言った通り、当分は一人での行動はやめてね」
サラは苦笑いをしながらそう言うと上目遣いでアンネマリーを見た。その小動物の様な視線に逆らえる訳もなく頷けば、満足そうにサラは笑った。
納得は出来ないが、人生初の友人に言われたなら嫌と言える筈もない。だが、やられそうになるのを受け身で待つのも性に合わない。
「ちなみにやられる前にやるのは?」
良い考えでしょ?と言わんばかりに瞳を輝かせて言えば、サラは首をふるふる横へ振った。
「アンがやったら大事になりそうだからそれはやめた方がいいわ」
知り合って一日でそんな事を言われるとは。一体何を把握されたというのだろう。だがそう言われたら確かにそうかも知れない。何せ何処までがセーフでアウトなのかまだ解らないのだから。
「じゃあ、問題行動があったらそのレベルに合わせて仕返しするだけにするわ」
「…それもどうかと思うけど」
引き攣った笑みを浮かべたサラを横目にアンネマリーは起こるかも知れない過激派の襲撃に不敵な笑みを浮かべた。
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