24.心の行方
レイヴィン視点のお話です
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「レヴィ、印が壊れそうな勢いで押すのはどうかと思うのだが」
溜息交じりに言うヴィルの言葉に手を止めて周囲を見ると周りも同意するように頷いていた。
納得がいかない。
そんな気持ちが行動に出てしまったらしい。
「すまない」
そう謝罪し、八つ当たりしないように静かに印を押す作業を再開する。
襲撃のあった日からもう2ヶ月近くが経っている。
あの事件の事は理解できてないことが多く、何もわかってないうちに私は学院生活に戻るように言われ今に至る。
あの後、父が陛下に報告をして光の神官に浄化の依頼をする前に事の顛末を聞いたラウラ嬢が移動陣を使い、アリアの治療を行ってくれた。
ラウラ嬢は今回の事件の責任を感じていて、浄化の必要がなくなってもアリアの側を離れずに看病を続けてくれていた。
ジークからはアリアは3日目にようやく目を開け、今は起きている時間よりも寝ている時間の方が多いが、声も戻ってこのまま回復していくだろうと連絡があった。
それなのにアリアは我が家である程度回復した後に男爵家に戻り、そしてどういう訳か学院を退学した。
アリアが目を覚ました後、少し話をしたきり私はアリアには会っていない。
公爵家を去る時も学院を退学するときもアリアからは何も伝言も手紙もなかった。
常に第三者からの報告でしかアリアの事を知ることができず、まさかと思ってたことがあったのだが、今日はそのまさかの予感が確定してしまった。
私には何も連絡もくれないのにソフィア嬢とは手紙のやり取りをしているというのだ。
このことからアリアは私を避けていると確定せざるを得なくなってしまった。
何故アリアに避けられてるのか原因はわからないが、何故か”貴方はアリアの事をどうおもってるんですか?”と聞いてきた少女の言葉を考えてしまう。
アリアはティルフの妹でお転婆で私を見かけると必ず笑顔で挨拶をしてくれた。
常に無表情だった私にはヴィル達でさえも必要な事以外は話しかけてくることはなかったのにアリアだけはどんな時でもみかければ挨拶をしに来てくれて嬉しかった。
アリアの予想もしない行動に思わず笑ってしまったり、太陽のような笑顔にいつも癒されていたのは事実だ。
ヴィル達が生徒会の仕事を放棄して多忙な日々でも乗り切れたのはアリアの笑顔のおかげだと思っている。
私にとってアリアは妹のような存在なのかそれとも・・・。
あー、アリアに会って話をしたい。
そうすればきっと気持ちの整理がつくと思うのに・・・。
何故ソフィア嬢にだけ・・・。と考えるだけで再び何とも言えない怒りがわいてくる。
やっぱり納得がいかない!!とつい印を押す手に力をいれてしまった。
ダーン!!バキッ
「レヴィ・・・」
怒りに任せて叩きつけるように押してしまった結果、見事に割れてしまいヴィルから冷たい視線がつきささる。
思わず視線をそらしやってしまったと思っているとアルが突然笑い出した。
「いやぁ。何事にも感情を表に出さない奴だと思ってたんだけどな。
今までの10年以上より、ここ数カ月のがものすごく人間らしくて驚いた」
「アル、その言い方だと今までのレヴィが人間じゃなかったみたいですよ」
「その通りだろ?レヴィも恋すれば変わるんだなぁ」
アルとコンラートの会話に思わず2人の顔を見て呟く。
「恋?」
「あの男爵令嬢に惚れてるんだろ?」
「いや?アリアは妹のような存在・・・」
「はぁ?本気で言ってるのか?」
私の答えにアルは呆れた顔をしている。
周りを見ればヴィルにコンラート、イリヤまで同じような顔でこちらを見ている。
「レヴィ、では聞きますが、先程は何に対して怒っていたのです?」
「・・・」
「もしかして昼間の手紙の件ですか?」
「手紙?」
「ええ。ソフィアがアリア嬢から手紙が届いたとの話を聞いてた時のレイヴィン様の顔が複雑な顔をしてたので気になってたのですが」
イリヤの言葉にヴィルが疑問を持ち、嫌な予感がする私が違うと答える前にイリヤが答えてしまった。
ヴィルは何とも言えない笑顔を浮かべながらこちらをみつめる。
あの笑顔には嫌な予感しか思い当たらないと小さくため息をついてしまう。
「なるほど?自分には返事が来なくて不貞腐れてると?」
「返事・・・?」
ヴィルに言われて気が付いた。
アリアから来るのを待つばかりで自分からは何も行動をしていなかった。
男爵家に戻ったと聞いても学院に戻ってくるだろうとアリアなら必ず自分に連絡をくれると思って何もしなかった。
「レヴィ?まさかと思いますが手紙だしていないのですか?」
「だしていない」
考え事をしていた私がコンラートの問いに反射的に答えてしまうと笑顔を浮かべながらも凍てつくような視線をコンラートから受けてしまう。
「出していないのなら返事が来ないのは当たり前です。
会いに言ってる気配がないなとは思っていましたが・・・。
まさかアリア嬢から何か言ってくるのを待ってるとかいいませんよね?」
「・・・」
「ただ待ってるだけとかどこの乙女ですか貴方は!!
アルなんて脈がなくても向かっていくんですよ?
アルみたいになれとは言いませんが、少しは自分から行動をするべきです」
「コンラート、脈がなくてもと言うのはどういう意味だ?」
「言葉通りです」
「レイヴィン様、コンラート様の言う通りだと思います。
このままではアリア嬢に会えなくなってしまうかもしれませんよ?」
「会えなくなる?」
アルとコンラートが言い合ってるのを余所に告げるイリヤの発言に私が首を傾げるとヴィルが大きくため息をついた。
「まさかとは思うが、アリア嬢がルーチェ国に行くことを知らないのか?」
「え?」
「詳しいことは私も聞いていないが、
静養の為にルーチェ国にしばらく行くことになったと報告があった。
ディーもまだ留学中だからあの屋敷で静養できるように陛下が手配してる」
「なっ」
「まさか、現時点でのアリア嬢の事をレヴィより我々のが詳しいとは思わなかった」
「うっ」
全員から大きなため息と呆れた視線を受け、私はたじろいでしまう。
ヴィルは立ち上がるとこちらを見ながら言い切った。
「外出届は出しておくから今すぐにアリア嬢に会ってこい。
何か進展があるまで帰って来るな!!」
「なっ」
「アル!!レヴィを今すぐ男爵家に向かわせろ!!」
「御意」
唖然としている私をアルが引っ張るように部屋から連れ出した。
「全く世話の焼ける」
「何でもできる方だと思っていたんですが・・・」
「10年近い付き合いですが、レヴィがあそこまで感情を出すのをはじめて見ました」
「一度、レヴィを笑わせようとして失敗したのを覚えているか?
あの後、セドが悔しそうな顔をしているから理由を聞いたら。
”兄上がアリアの前で笑顔だった”と怒っていた」
「なるほど。それでセドはアリア嬢の話になると不機嫌になるんですね」
「ああ。ティルフにも聞いたがアリアの前ではレヴィは素の顔をするらしい」
「レイヴィン様は本気で妹と思ってるのでしょうか」
「そればかりは本人じゃないとわからないな」
「戻ってきてからレヴィが楽しみですね」
「全くだ」
「ほどほどにしてあげてくださいね」
私達のいなくなった生徒会室でそんな会話がされていることを全く知らずに、なぜか準備が整っていた馬車に乗せられて私はヴィーゼ家に向かっていた。
次で本編は完結となります。




