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機械仕掛けのアロンダイト  作者: 渓谷中尉
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第1話 白銀のアロンダイト PART3

 「我らは帝国軍、第13独立治安維持部隊『グリムリーパー』だ。貴様らに旧都騒乱共謀、並びに大公暗殺の容疑で捕縛の命令が出ている。神妙に縄につけ。手向かえば斬り捨てる」


 そう名乗ったのは黒い軍服を着て頬と太刀を返り血で染めた大男だった。その後ろには一見すると女性に見える一人の優男が控えている。


第13独立治安維持部隊。通称『グリムリーパー』。主に旧都の治安維持を目的として護三国の一国であるボルクスが派遣した部隊である。

元々グリムリーパーはボルクス預かりの剣客集団であったのだがその戦闘能力の高さを買われ正式に帝国軍の一部隊に組み込まれた経緯を持つ。

 その身分を問わず剣の腕のみを至上としており、その構成員は貴族、平民のみならず、罪人でさえも所属していると言われ、その悪名は天下に響き渡っている。


 「ふむ、死神ですか。鬼のような頑強な顔つきにその見事な太刀。銘はティガと見た。なるほど貴公が『グリムリーパー』の隊長、レックス・ブレイブハート卿ですな」


 怖じることなくテールズ候が優雅な態度で前に出る。その腕は腰の剣の柄に掛かり、足は相手との間合いを計っている。


 「いかにも。私がレックスだ。もう一度言おう。大人しく縄につけ、手向かえば斬り捨てる」


 テールズ侯爵は、そう冷淡に言い放つレックスを睨み、剣を抜く。対するレックスは泰然自若。大岩を彷彿とさせる不動な雰囲気を醸し出していた。

両者は睨み合い、白刃がゆったりと揺れる。

それと同時に二人の護衛がレックスに襲いかかった。

意識がテールズに集中した隙を突いた奇襲だった。


 だがレックスは右から襲う白刃を難なく太刀で受け止める。顔色一つ変えていない。護衛が渾身の力を込めて押せどもピクリともしない。その一瞬の後、左からもうひとりの護衛が斬りかかる。

 レックスは一瞬、力を緩めて身をかがめる。左の護衛を大きく空振りし、右の護衛は突然引かれたことでバランスを崩した。そしてその隙を逃さず、体を回転させ一太刀で二人を斬った。

 

 「グアッ!?」

 「ギェア!?」


 血しぶきを上げ二人の護衛は折り重なるように崩れ落ちた。その返り血を浴びて軍服がさらに血に塗れた。

 その血は近くにいたテールズ卿の頬をも汚す。


 その光景を見てルイーナは喉の奥からこみ上げてくるのを感じた。人が死んだのだ。目の前で。いかに気丈に振舞っていたとしてもまだ16の少女だ。体が萎縮し拒絶するのは当然のことである。

 怖い。ただそれだけしか考えられなかった。


 そんな主の様子をリンはすぐに察知していた。すぐに駆けつける距離ではあるが死神たちから中間の位置より動く訳には行かなかった。下手に動けばもう一人の優男に素通りされルイーナが襲われる可能性がある。

 だからその側に付いているニニルに目で合図する。


『ルイーナ様を連れてブリュンヒルデに飛び乗れ』


 ニニルはその意図を察知しルイーナの肩を持つ。

 

 「ルイーナさん」

 「ニ、ニニルさん?」

 「動けますか?」

 「はい、なんとか」


 ルイーナが答えるとニニルは部屋の後ろ側の扉を見た。もう多数の貴族はそちらから外に出ていた。

 だがそこから逃げるのは危険だ。なぜなら部屋に切り込んできたのは二人。あまりにも少なすぎる。十中八九待ち伏せされているだろう。


 「どうするのです?」

 「この部屋に入口は2つありますが、そちらは待ち伏せされている可能性が高いです。だからリンさんが呼び出したサイバー・ゴーレムに乗って脱出します」

 「でも、ブリュンヒルデはリンにしか動かせません」


 サイバー・ゴーレムは自身が操縦者と認めた者の言うことしか聞かない。二人では飛び降りても受け止めては貰えずに地面に激突してしまう。



 「だからリンさんに合図します。タイミングを合わせてゴーレムに命令してもらうんです。そしてリンさんを含め3人で逃げれば……」

 

 そういうとニニルは左手の指を3本立てリンのほうを見た。リンもその指を一瞥する。こちらも意図を理解しているのかちいさく頷いた。


 「行きます、3。」


 ニニルは指を一つ折り曲げた。


 「2」


 ルイーナは息を呑む。

 大事なのはタイミングだ。窓にできるだけ近づこうと後退る。


 「1……っ!?」

 「逃がさない……!」


 残りのカウントが1つとなった。だがそのとき優男が動いた。疾風を彷彿とさせる速度でルイーナに迫り、剣を振りかぶる。


 「…………っ!」


 だがたどり着かなかった。優男の進路上に白刃がいきなり突き出される。優男は急停止と跳躍により左へ飛んで回避する。片手をついて着地するとその白刃の主を見た。

 だがその相手を確認するまでにすぐさま二刃目が飛来する。左の袈裟懸けに振り下ろされたそれを剣で受け止める。

 相手は受けられたのを確認するとすぐさま引いて距離をとった。


 そうして優男は初めて切り結んだ相手を視認した。

 その相手、赤毛の少女、リンは優男を睨み、真っ直ぐに剣を向けている。

 

 「ルイーナ様には触れさせません!」

 「ふっ、やりますね。どうやら君を倒さないと進めないようだ」

 

 優男はそう笑うと剣を構え直しリンと距離をジリジリと詰めた。

 そして双方の斬撃圏内に入ると刃が交差した。


 「ふっ!」

 「はあっ!」


 金属が擦れる音と風切る音が耳を障る。1合、2合、3合。押し、押され、振り下ろし、切り上げる。

 10、20と剣を合わせるも勝敗は見えない。

 双方ともに達人の腕と言えるだろう。剣を振る速さは疾風を纏うようであり、烈火の如き気迫が衝突しあっている。そしてそれをぶつけ合いながらも両者が後退することはない。実力は伯仲。決着がいつ着くかなど誰にも予想ができない。


 だがリンは内心焦っていた。

 ブリュンヒルデを動かすことができるのは自分だけだ。だからルイーナを無事逃がすためには自分がブリュンヒルデに乗り込む必要がある。つまり自身の生還が脱出するための最低条件なのだ。


 しかし、この優男は一筋縄ではいかない。いかに隙を突こうとも難なく剣でいなし、突き返してくるのだ。こちらが隙を作ろうものなら鬼神の如き連撃を繰り出してくる。罠など仕掛けられない。


 そして何より殺気がない。この男から感じるのはまるで猫が戯れついてきているような無邪気な気配だった。殺す気で容赦なく刃を振り下ろしているのにその刃に一切の殺気がないというのは不自然だ。だがこの男はそれを自然に行っている。ある意味でこの男は狂人だ。そうリンは感じ、気味の悪さに背筋を冷たくした。


 だがいつまでもこうしてはいられない。扉のほうを見れば、テールズ候と護衛の騎士たちがレックスと斬り合っている。3対1だというのにレックスが押しているように見える。あれではいつレックスがこの優男に加勢するかわからない。少なくともそうなればこちらは必死だ。


 「まさかここまでとは」

 「私にはルイーナ様を守る使命があります。あなたを討ち、それを果たします」


 両者ともに息を切らさず、リンは内心を一切見せずに距離をとった。


 「ふ、あははっ。あはははっ」

 「何を笑っているんです? これくらいならば勝てると私を侮っているのですか?」


 リンは急に笑い出した優男の態度に驚き問いただした。この程度で怒りはしない。むしろ侮り油断してくれるのならこっちのものだとすら思っていた。


 「あははっ。ごめんね、そうじゃないんだ。嬉しくて」

 「嬉しい?」

 「こんなにも戦えるなんて思ってなかったから。またつまらない仕事だと思ってたんだけど、うん。今、僕は楽しいよ。君が僕を楽しくさせてくれたんだ」

 「私にはそんなつもりはありません」


 優男の子供のような無邪気な口調と笑顔にどこか不気味さを覚えながら、リンは次撃の準備に入った。次で決める。そう心に決めてじりじりと間合いを詰める。

優男はその様子など我関せずと言った態度で自分のポニーテールにまとめた髪を癖のように左手で梳いた。


 「だから僕ももっと楽しめるようにしたいんだ。だから――」


 そう言うと優男は構えを変えた。先ほどの様子見の脇構えから相手に剣をまっすぐに向ける正眼へと構え直した。


 「本気で行きます……!」

 「っ……!?」


 男の纏う空気が変わった。さっきとうって変わって突き刺すような殺気が四方八方へと撒き散っている。強烈な殺気がリンの頭にこの男にリンが突き殺されるイメージを植え付ける。

 リンは一瞬頭によぎったイメージに慄き、詰めていた距離を一気に開け安全圏まで交代する。

 なんだ、今のは。リンは驚愕していた。戯れつくような感覚だといったがこの男はいままで手を抜いていたわけじゃない。切り結んだからこそわかる。全力を持って戦っていた。戯れつくことがコイツの戦闘スタイルなのだと、そう思っていた。だがこれは何だ。まるで別人のようではないか。

 さっきまでとははっきり言って格が違う。全力をもってしても敵うかはわからない。

 だがそれでも戦うしかない。


 「僕はグリムリーパー、第1小隊長レオン・シーグラス。僕は次の一撃に必殺の念を込めます。もし次の一撃を君が止められたら、君の名前を教えてもらえませんか?」

 「お断りします。それにあなたの一撃を止めた時は私があなたを斬っているでしょう」


 リンは精一杯の強がりを吐くと防御のために剣を下段気味に持ち替えた。これならば斬り下ろされた時や突かれた時に跳ね上げやすく守りやすいからだ。

 それを見たレオンはクスリと一瞬笑うと、一気に駆け出した。リンの警戒圏を強行突破し迎撃の間合いをも犯す。そして大きく剣を突き出した。


 「はぁっ!」

 「ふっ! くっ!」


 これをリンは体を捻って躱す。この1撃はフェイクだ。躱したときリンはそう判断し2撃目に備える。リンの予想通りレオンは外した突きをそのまま振り下ろし、斬撃へと変える。かなり無茶な動きだがレオンはその手首の柔らかさと豪胆な腕力を持って無茶な動きを必殺の剛剣へと変えた。

 だがそれを予知していたリンはその軌道に剣を構える。

 斬撃を無理に曲げることはできない。そうすれば自ずと威力は殺され隙となるだけだからだ。

 これで防げる。そうすればレオンの体は大きく開く。そこに一撃打ち込めば私の勝ちだ。

 そう心の中でシミュレートするリンだがぶつかる直前にレオンの剣が消えた。


 「なっ!?」


 これもフェイント!?

 刹那、驚いたリンにさらなる衝撃が襲う。目の前に刃の切っ先が突然現れたからだ。咄嗟に左腕で庇い、後ろに跳躍する。

 回避しきれずに刃がリンの左腕を――貫いた。

 ザジュッという肉に突き刺さる不快な音が響き、鮮血が地面に流れた。


 「グゥっ!?」

 「リ、リン!?」

 「リンさん!?」


 リンはその衝撃でルイーナのそばまで吹き飛ばされた。壁に激突し、体を大きく叩きつけられる。リンは思わず剣を落としてしまった。ルイーナとニニルが駆け寄ろうとするもリンはそれを無傷の右手で制した。よろよろと立ち上がると喘ぎ喘ぎ外のブリュンヒルデを指差した。


 「に、逃げますよ。ルイーナ様。ブリュンヒルデへ……」

 「でも貴女その怪我、血がすごい……」

 「い、生きてるだけでも幸運……です。くっ……それより……早く、今しかありま……せん」


 そうルイーナに急かすリン。だが――


 「まさか今ので仕留め損なうなんてね。あはは、やっぱり君はすごいですね」


 目の前にレオンが迫っていた。ゆっくり歩いているがすぐに詰められる距離である。もうレオンの射程圏内に入っていた。怪我をしたリンとともに飛び降りる余裕などない。


 それを見たルイーナは足元に転がった剣を持つとまっすぐに切っ先をレオンへ向けた



 「ん?」

 「ル、ルイーナ……様」

 「あ、あかん。ルイーナ様!?」

 「これ以上私の大事な人を傷つけることは許しません」


 そう宣言しレオンを睨みつける。

 雄然と剣を構えるルイーナをレオンは不思議そうにルイーナを見つめた。

 そして自分の髪をにぎにぎと揉んで、少し考え込むような仕草をすると藪から棒にこう聞いた。


 「しっかりとした構えですね。どこの流派ですか?」

 「え?」


 レオンはまるで町の人に声をかけるような雰囲気でルイーナに話しかける。戦場には似合わない声色を聞きルイーナは困惑した。


 「見たことあるんですよね。どこだったかな」

 「えっとクリアス流です。ソードフィールドの」

 「ああ、うちの部隊にもいるんですよ。クリアス流。そっか、さっきの子もどこかで見たことあると思ってたけどそれか~」


 手を叩き嬉しそうに話すレオンにはまた一切の殺気を纏っていなかった。その子供みたいな態度に毒気を抜かれ思わず剣を下げそうになる。だがそれをレオンが止めた。


 「ああ、ダメですよ。僕と殺るんでしょう? なら剣は――構えないと」


 飄々とした態度で発したその言葉でルイーナは息を飲んだ。この人はこんな無邪気な笑顔で人が殺せるんだ。

 目の前でリンと戦う光景を目の当たりにしながらやっとそのことを自覚した。自分では勝てない。実力は元より、人を斬ったことのない自分ではどうしても殺すことを躊躇してしまう。技術は確かにリンに匹敵する免許皆伝の実力であるが心構えはまだ少女のままだった。それが躊躇の無い人間に立ち向かえばどうなるかそんなことは火を見るよりも明らかである。


 「ん? どうしました?」

 「わ、私は……」


 足が震える。口から出るものが言葉にならない。怖い。目の前のこの人が怖い。恐怖心に押しつぶされそうだ。

 ルイーナはあまりの恐怖に意識を失いそうになり倒れそうになった。

 いけない。体を支えようとするも足に力が入らない。このままでは無様に倒れてしまう。


 だがそのときニニルがルイーナを支えた。


 「おまえなんかルイーナ様の出る幕やないってことや」

 「ニ、ニニルさん?」


 ニニルはレオンを睨み、地の言葉遣いでそう言った。そしてルイーナの方を見ると微笑んで口調を直した。


 「ルイーナ様、逃げてください。私があいつを引き付けます」

 「でもそれじゃ、ニニルさんは……」

 「生きてください」


 ニニルはルイーナの言葉を遮り一言漏らした。そしてそれに続けてしっかりと言葉を紡ぐ。


 「今日の会談を見て、話して、私は思いました。あなたはいつか大輪を咲かせます」

 「そんな……。私など」


 ルイーナはただ怯え震えている私に何ができるというのか。そうニニルの言葉を否定しようとするも、ニニルは人差し指をルイーナの唇の前で立てることでそれを止めた。


 「あなたはあのレストフォレスに真っ向から意見して、同調した貴族たちを止めたでしょ? あなたがいなければこの場はあいつの狂気に染められていましたよ。それは凡人に出来うることではありません。だからあなたはいつかアーレス卿のように立派な貴族となります。あなたは素敵な人です。私はあなたを尊敬します。……これを」


 そう言うとニニルは懐から翠玉のペンダントを取り出し、ルイーナの手に渡した。


 「これは?」

 「私がお守りとして持っていたものです。翠玉には栄光を引き寄せる力があると言われています。きっとそれがあなたを守ります」

 「ニニルさん……」

 「頑張りや」


 ニニルは一瞬本来の口調と顔で微笑みかけるとルイーナをリンの方へと押しのけた。そして剣を抜きレオンの前へ躍り出る。そして背中越しにリンへ話しかけた。


 「リンさん。あとは任せた!」

 「元より、そのつもりです……!」


 そうリンは答えるとルイーナを抱きかかえ窓に飛んだ。リンは最後、顔だけ振り向いて、ニニルが剣を振りかぶりレオンへ斬りかかるのを見た。

そして外に飛び出し重力のまま二人は落下する。


 「な、待って!? まだニニルさんが!?」

 「っ! ブリュンヒルデーー!!」


 リンがそう叫ぶと桜色の巨人は二人を両手で受け止めた。サイバー・ゴーレムの掌は軟質素材でできているため多少高いところからの落下ならば無傷で受け止められる。

 巨人は手を胸のところまで持っていき、胸のハッチを開けた。リンはルイーナを押し込み、自身もそこに滑り込む。そしてハッチを閉じた。

 リンはすぐさま自分の袖を破き、腕の止血を行なった。腕の傷口を布で縛り血を止める応急手当とも言えない簡単な処置だが血は押さえられた。この処置が数秒のことであり、それから数秒後にルイーナが我に返った。


 「待ちなさい、リン! まだニニルさんが中にいるんです」

 「もう遅いです!」

 「まだ間に合います。ブリュンヒルデで……」

 「この子の武器ではニニルさんも巻き込みます!」

 「でも……でも!」


 それでも諦められないルイーナはモニター越しに元いた部屋を見る。そこに写っているのは二人の人影、それはすぐに重なった。一瞬の後、窓に赤いものがこびり付いた。

 重なった人影は再び二つに別れ、そのうち一つの人影は窓の向こう側でゆっくりと倒れた。ここから見える人影は一つ。


 消えたのは――ニニルだ。


 「い、いやあああああっ!!?」


 ニニルの絶命の瞬間。

 それを見たルイーナは絶叫した。あんなに親しく話していた人が死んだ。今日会ったばかりだが、人当たりもよく、好意的に思っていたことは確かだ。それがたった今、殺されたのだ。


 「ううあぁ……うっ……あああっ……ああああああああっ!」


 ルイーナは泣いていた。大粒の涙を流し嗚咽を抑えることもできず泣いた。

 リンはルイーナを自分の胸元へ抱き寄せその涙を胸に受ける。リンは胸の重みを感じながら瞳から一筋の涙を流した。

 お可哀想なルイーナ様、こんなに辛い思いをされて。ニニルさん。ごめんなさい。私がもっと強ければ私たちは3人とも逃げることができたのに。手合わせの約束は守れませんでした。

 悔やむ気持ちとレオンを憎む気持ち、自身の無力に対する怒りが涙を体の外へ押し出す。

 そしてそれを傷付いた腕で拭った。

 だからもっと強くなろう。強くなって誰かを、そしてルイーナ様を守れるような騎士になろう。心の中でリンはそう誓った。


 「このままアルクサンドを脱出します。……ルイーナ様。ニニルさんの最後の願い、必ず叶えましょう」

 

 ニニルの願いそれはルイーナ様が立派な貴族となり大輪の花を咲かせることだ。そのためにはまずやらねばならないことがある。

 ここから生きて帰ることだ。

 リンの意思が宿るようにブリュンヒルデの、その頭部のツインカメラに光が灯る。

 リンは足元のペダルを強く踏む。それに応えるようにブリュンヒルデの足が動き、体に付いたブースターに火が灯る。一歩、また一歩と動きはドンドン早くなり、歩みは走りに、走りは跳躍へとその様相を変え、巨人が街を疾走する。

 ブリュンヒルデは街の出口へ向けて跳んでいった。


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