プロローグ 後編
「はい、天野だ」
「おう澄。約束の時間だぜアップデートは済んでるか?」
「まだだよ。すぐにネット繋いでヘッドギア付けるからちょっと待ってろ」
「なんか不機嫌だな」
「別に」
そう言うと俺は一方的に電話を切った。大人気ないと思うがどこかささくれだった対応をしてしまう。
ゲーム機の電源をオンにしてヘッドギアをかぶる。パスワードを入力してログインしコミュニティを検索する。涼のユーザー名はryo・AKだったはず。見つけた。その項目を押す。
「ダイブ」
俺の声に連動して体が引っ張られるような感覚を感じる。
一瞬意識が切れ、目の前が真っ暗になる。だがすぐに視界が回復した。
俺がいたのはフローリング作りの何の変哲もない俺の家だったのだが目の前の光景はそんなものではなかった。
壁は青白いラインが無数に走りほのかに光っている。目の前の大きなモニターには見たことのない荒野のジオラマが立体的に映し出されている。SFもので言うブリーフィングルームというやつだ。
俺の格好も普通ではない。カッターシャツにズボンという学校の制服姿がぴっちりとしたパイロットスーツへと変化している。
これが今世紀最大の発明、仮想空間技術だ。現実の俺は睡眠状態に陥っているが、この仮想空間ではまるで夢の中にいるように体を自由に動かすこともできる。
初めて仮想空間に入ったときは潜行酔がひどかったが今ではもう慣れたものだ。
魔導機甲サイバー・ゴーレム。一年前に発売されたVRゲームだ。このゲームの特徴は仮想空間技術を利用することで本当にコクピットに乗ってロボットを動かすことができるということだ。このシステムが世のロボット好きを魅了し、ミリオンヒットを記録する人気ゲームとなった。もうひとつの特徴としてはロボットアクションではあるのだが中世ヨーロッパ風の世界観を持つということだ。これは現在、主流のVRゲームであるVRMMORPGの世界観にすることでそちらの層を取り込むためだとかロボットで戦うという矛盾を魔法だからの一言で片付けるためであると言われている。俺はこのゲームのそんな世界が気に入っていて、現在進行系でドハマりしているというわけだ。
「来たか、澄」
涼はブリーフィングルームの椅子に深く腰掛け、大物ぶった身振りで椅子を回して振り返った。
「ああ、それでアップデートってどうなったんだ? もうしているんだろ?」
「ああ。基本的には武器とパーツの調整だな。」
魔導機甲サイバーゴーレムは対人戦を主としたオンラインのロボットアクションゲームだ。だから対戦環境というものに敏感だ。何か問題があればすぐに修正される。
「Eガトリングとか強武器の下方修正やら産廃の救済なんかもしてくれてたはずだ。」
「ああ、Eガトは酷かったからな。無双しすぎて」
エネルギーガトリング、通称Eガト。魔導武器の一つであり、少ない魔導エネルギーの消費で超連射ができるマシンガンということで前回のバージョンの最強武器であった。その性能は他の連射武器を駆逐し『マシンガン? 何それ豆鉄砲?』と貶され。実弾ガトリングに至ってはその黒い銃身から『黒いEガト』とまで称される始末だった。その他強武器も調整されたらしい。ちなみに産廃とは産業廃棄物のことで、使えない武器のスラングである。
「どいつもこいつも使いこなせないくせに右も左もEガトだったもんな。しょうがない。あとは新しいミッションやゴーレムのコアが追加されたらしい」
「お、コアか。」
サイバー・ゴーレムは心臓部であるコアを中心に装甲、センサー、フレーム、ブースターなどのパーツを自分で組み立てることでロボットの形にしていく。さながらプラモデルを組んでいるようにロボットを作れるのだ。
コアが増えたということはまた新しくゴーレムを作成できるということで、新しい機体を組めると思うとうれしくなる。
俺ははやる気持ちを抑えずに目の前のコンソールを指で叩いた。目の前に浮かんだコンソールには『アップデートしますか』の文字が表示されている。俺は迷うことなく『はい』のボタンを押しアップデートを開始する。
「これで待つだけだな」
「ああ、それで澄ちゃんよぉ」
「ちゃんずけするな。わざと誤射してレート下げるぞ」
ニヤニヤとした馴れ馴れしい口調で完全にからかうモードに入った涼を制止する。ここで止めないとミッションまで延々と弄ばれる羽目になるだろう。
「ひでえこと考えるなぁ。それよりなんで不機嫌なんだよ?」
「別に、お前とは関係ない」
それでもメゲない涼をぶっきらぼうに突き放す。
そうだ、こいつに芹とのキスを邪魔されたからって怒るわけがない。むしろ助かったんだ。むしろ礼を言いたいくらいだ。
「ふむ、牧野にキスでもされたか?」
「ブッ!?」
このチャラ男いきなり核心を突いてきた。
「それで告白しようとしたところを俺の電話に邪魔されたと?」
見てたのかよと思うくらい俺の状況をピッタリと話す涼。俺は冷や汗を流しながら涼を睨む。
「な、な、なにを勝手な推察してるんだよ。当てずっぽうだろ?」
「目線が泳いでるぞ? やーすまんすまん。おれって空気読めないからさ~。それで牧野の味はどうだった?」
「味!? いちいち卑猥な言い方すんな!」
「失礼、キスの味だ。古典的だとレモン味かな~?」
もう完全に悟られた。これは今日ずっとからかわれる下手すると当分このネタ引っ張られるぞ。これ変に言い逃れしても無駄だろう。むしろそれを元にからかわれる。覚悟を決めて白状することにした。
「そうだよ! 勉強の途中で変な雰囲気になってそうなったんだよ。文句あるか!?」
「ははっ。切れるなよこいつぅ。ちなみに俺も嬉しいけど文句はあるぞ」
「俺と芹のことでなんだってんだよ。あっ……。ひょっとして芹のこと……」
涼は芹のことが好きだったのではないか。そう思い立つとどこか胸が痛んだ。友達の恋路を邪魔した申し訳なさと芹のことを渡したくないという独占欲が蠢く。自身の浅はかさに自己嫌悪に陥る。
「だってクラスの連中どいつもくっつく方に賭けるんだからさ。持ちかけた側としとしてはくっつかないほうに賭けるしかないじゃん」
「お前胴元かよ!?」
まさかの黒幕に憤慨する。今俺の心の中でした葛藤って……。俺はやるせない気持ちになり深くため息をついた。
「なあ、みんなくっつくほうに賭けたってことは俺ってそんなチョロそうに見えたのか?」
芹のアプローチはわかっていたけれど俺はあえて冷たい対応をしていたはずだ。片方が脈のない態度をとっていたらくっつかないほうに賭ける奴もいるのではないだろうか?
「え、だってデレデレだったじゃん。ツン三割デレ七割の黄金比だったじゃん」
「デレの比率多っ!? え、待て。いつ俺がデレデレした!?」
「うむ、まず牧野はよくお前の手を取るな。その時のお前は顔を真っ赤かにして為すがままだ」
「嘘だ!」
それくらいで照れてなどいない。捏造だと声を荒げる。
「あと中学からのクラスメイトたちの意見だが『牧野が部活の大会に応援に来て欲しいと頼んで断るところを見たことない。あと勝ったときの喜び方が牧野以上にうれしそう』とか」
「こ、断る理由ないし、誰であれ友達が勝ったら嬉しいだろ。か、仮にも幼馴染だし」
普通の反応だしそんなことでデレデレ扱いとか……ないし。
「あと決定的なのは部活中に牧野が足くじいた時真っ先に飛び出してお姫様抱っこで保健室連れて行ったことだな」
「あれは林田が『天野君、芹が怪我した早く来てー!』なんて大げさに言うから……」
そう言うと涼は俺の肩を叩いた
「ただの幼馴染? ハハッ」
涼に甲高い声で嘲笑された。俺はショックで打ちひしがれた。
「ちなみにその時の写真がこちら」
そういってコンソールを叩くとモニター全体に俺が芹を真っ赤な顔でお姫様だっこしている画像が張り出される。
「うぉい!? こんなのどう撮ったんだよ!?」
ブレやはみ出しが一切無く俺と芹の顔がくっきりと映し出されている。必死な顔で運んでるのが生々しくて恥ずかしい。
「この写真は中学の時の写真部森野から提供されました。まだあるぞ。あれはこの前の入学式でのことだが……」
「ダーッ!?」
俺の赤裸々な黒歴史を次々に掘り起こす涼を首根っこ掴んで止めさせる。
コイツは止めないとまずい。悶絶死してしまう。
「ほ、ほら俺のアップデート終わったしミッション行こうぜ!」
「えー、まだ中3のバレンタイン事件のこととか……」
「シャー!!! だからアップデート終わったって言ってんだろ!!」
俺はコンソールを指さしアップデートが完了していることを伝える。いいタイミングだ。そしてバレンタインのことは思い出すな。思 い 出 す な。
俺は画面に表示された新規ミッションを確認する。今までに比べ10個近くミッションが増えていた。1回のアップデートとしてはかなり多く、力の入った更新であることがあ伺える。俺はその新規ミッションのリストの中で1番上のものを選択する。
「ごまかしたな。ふはは、からかいがいがあるやつ。」
「うるさい。いくぞ。ミッション決定。ミッション名、貴族会談撤退戦。自機選択アロンダイト」
「あいよ。自機選択、ガラテイン」
このゲームは音声認証が採用されているため今回使用する機体の名前を宣言し登録する。
アロンダイトとは俺が自分で組み上げた愛機で1番のお気に入りだ。その白銀の姿が立体映像として映し出される。
機動力を重視した軽量2脚タイプの機体で防弾用のマントが特徴的なサイバー・ゴーレムだ。
これを今回のミッションで使用する。
コンソールには今回のミッションの区分として撤退戦と表示されている。味方NPCを特定のラインまで後退させるミッションだ。俺はそのミッションをタッチし選択する。
これで必要事項の入力は完了だ。
コンソールには『ダイブという掛け声でミッションが開始されます』と表示されている。
「「ダイブ!」」
俺たちは指示に従いそう宣言した。
その掛け声と共に周りの景色が再び変化した。まるで一昔前のSF映画のワープの演出のようにあたりの景色が歪みだした。
そして意識はゲームの中へと吸い込まれていった。
これでプロローグは終わりです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ジャンルがファンタジーなのに学園ラブコメしてますが次回から別作品かと思うくらい世界観が一気に変わります。ご注意ください。




