⑨ 悪魔vs雪子
「そうは、させないわよ!」
雪子さんは、黒いモヤモヤに向かってそう宣言すると、剣を振りかぶった。
そして、それを素早く振り下ろすと、切っ先から炎を出し、その黒いモヤモヤを、一瞬にして灰にしてしまったのだ。
「もう、他に敵は居ないみたいね?渡辺くん、時間凍結を、解除してもイイわよ。」
雪子さんのその一言で、ボクが気を緩めると、再び周りの時間が、通常通り流れ始めた。
ボールは工事現場の中に飛んで行き、パーン!という大きな音とともに、 破裂してしまった。ソレが、もしもニンゲンだったらと思うと、ボクはゾッとしたのだった。
ふと気がつくと、いつの間にか、雪子さんは居なくなっていた。倒れていた委員長は、片膝をついて立ち上がりかけ、頭を振っていた。ボクに腕を掴まれていた雪村くんは、静かに「ありがとう。」と言った。
もうボクは、その場から不穏なモノを、一つも感じなかった。その時、左腕に着けていた、黒いリングが光り、"のちほど打ち合わせを。場所は……"というメッセージが、浮かび上がっていた。
ボクは放課後、そのメッセージに指定された通りに、夕刻の鶴舞公園にやって来た。雪子さんは、例のベンチに座っていた。どうやら今日は本を持っていないようだ。
「いらっしゃい。渡辺くん、今日はお疲れ様。良く頑張ってくれたわね?」
「いえ、いえ。実際に闘ったのは、雪子さんですから。」
「それでも、あのタイミングで時間を止めたのは、正解だったわね。褒めてあげる。」
「ああ、ありがとうございます。」
「でも、早くも、貴方の時間凍結のカラクリが、敵さんにバレていたわね?」
「黒いアイツ、動けてましたからねえ。」
「そのカラクリは、貴方自身が、周りの者より数段速く、生命活動を行う事。だから、三次元生物の貴方にとっては、寿命を縮める危険なワザだわ。そして、指定された相手にとってもね。」
「……出来るだけ多用しないように、気をつけます。」
「因みに、あの黒いヤツは、四次元から来た悪魔みたいなモノだから、平気だったのよ。」
「やっぱりそうなんですね?なんか、ボクに乗り移ろうとしてましたよ。」
「雪村は無事だったわよね?」
「はい。大丈夫でした。」
「それはそうと、あの鈴木とかいう子……。」
「……委員長の事ですね?」
「さっきのテレキネシスは、あの子自身のチカラね。」
「……そうみたいですね。」
「貴方、明日また、彼女に接触してみて。何なら、仲間になってもらえるかも。」
「はい、頑張ってみます。」
「ああ、そうそう……。」
雪子さんはそう言うと、立ち上がり、ボクの目の前まで近寄って来た。何だかイイ匂いがする。
そして、さり気なく、彼女はボクの左頬にキスをしたのだ。
「はい、ご褒美。」
そう言って妖しく笑い、雪子さんはまた、煙のように消えてしまったのである。




