⑩ 雪子と京子
「アンタって人は、またあ……若い子をたぶらかしてぇ。」
雪子が瞬間移動で帰って来るなり、京子はそう言って、彼女をたしなめた。
京子は、二人で乗って来た、黄色いワーゲンビートルを、公園脇に路上駐車していた。そして、その車内から、雪子と渡辺くんとの、やり取りの一部始終を、しっかり見ていたのだ。
「何よ。私はただ、働きに相応しい報酬を、彼に与えただけでしょ?」
「年頃の高二男子には、刺激が強過ぎるのよ。」
「あらあら、京子さんたら、古風なのねえ。流石は、母方の実家が、京都なだけの事はあるわ。」
「冷やかさないで。」
黄色いワンピースを着た、永遠の23歳は、呆れる。
「そもそもアナタ、見た目こそ何時までも高二だけど、実は私と同じ年齢でしょ?私たちの時間軸では、確かもう西暦2001年だから……37歳!?年齢差20年って、ほとんど犯罪じゃない!?」
「まあまあ、カタイ事は言いっこ無しで……次はどんなご褒美をあげようかな。うふっ。楽しみ。」
雪子はそう言って笑った。京子はワナワナしていた。
一方その頃、ボクはまだ、ベンチの前に突っ立ったまま、呆然としていた。今のキスは、完全に不意打ちだった。純情なボクには、衝撃的過ぎた。
やがてボクは、我に返ると、自宅に向かってトボトボと歩き始めた。
「うん、まあ取り敢えず、明日も頑張ってみよう。」
ボクはとりあえず、自分にそう言い聞かせた。
翌日の金曜日。ボクは雪子さんの指示通り、放課後の体育館裏に、委員長を呼び出した。
理由は、「ちょっと球技大会の件で、尋ねたい事がある。」と言っておいた……まあ、嘘ではない。
「……それで、どんなお話なのかしら?」
この後、また直ぐに練習だから、お互い体操着だった。改めて見ると、ブルマから伸びる彼女の白い脚は、なかなか美しい。
いかん、いかん。雑念を払わねば。
ボクは、話を切り出した。
「……実は、昨日の練習の時の事なんだけど。」
「うん、うん。」
「……いや、むしろ、昨日に限らず、委員長って、時々、手を触れずに、モノを動かしているよね?」
「えっ……見てたの?」
彼女は意外にも、シラを切ったりしなかった。
「……認めるんだね?」
「まあね。でも、大した事は無いのよ。動かせるのは、せいぜい小石か……大きくても、野球のボール程度まで。」
「実は、ボクの知り合いが、その種のニンゲンの人脈を、作りたがっていて……。」
コレも、概ね嘘では無い。
「渡辺くんも、何か出来るんでしょ?……そうね、例えば、時間を止める、とか?」委員長はそう言うと、ボクの事を真っすぐ見つめた。
ボクはヘンな汗をかいた。なぜ、バレてるんだ?




