⑤ 伯爵登場
「キミが渡辺正人くんだね?」
春の陽気の中で、ベンチに座ったまま、うっかりウトウトしていたボクの隣に、いつの間にか、一人の紳士が座っていた。
髪はロマンスグレーでオールバック。どこのブランドものだろうか?高価そうな、モスグリーンのスリーピースを着ている。優しそうな青い瞳。年齢は……35歳くらいかな。
「はい……ボクが本人ですが。」
「我々の活動の趣旨についてはもう、お聞きになりましたね?」
「ええ、確か時空の調査とか?時には、危ない目に遭う事も有ると、おっしゃってました。」
「……そうです。私は彼女たちから、キミのチカラについて、伺っています。何でも、時を止める能力だとか?」
「どうやら、そのようです。しかし、何しろボク自身、初めての事で、今ここで再現しろと言われても、難しそうなんです。」
「構いませんよ。いつか見せて頂ければ、それで。」
その紳士は、余裕の笑みでそう言った。
「あの……お名前は?」
「ああ、コレは失礼。申し遅れました。私がサン・ジェルマンです。一応、調査チームの、まとめ役をやらせてもらってます。因みに、仲間からは、伯爵と呼ばれています。」
志村けんの、"変なオジサン"みたいな言い方をするんだな。ボクはつい、そう思ってしまった。と、同時に、そのサン・ジェルマンという名に、どこか聞き覚えが有るような気がしたのだった。
「どうぞよろしくお願いします。」とボク。
「彼女たちから、キミの決意の程は聞きました。ただ、キミはまだまだ若い。前途有る青年だ。そう簡単に、人生を棒に振る事は無いと、私は思いますよ?」
「時空を旅する事に、興味がわきました……まあ、正直に言うと、きっかけは雪子さんへの、一目惚れなんですけど。」
「ああ、分かります。彼女は確かに、美しいですからねえ。昔はこの私も……おっといけない。つい無駄な事まで、しゃべり過ぎてしまいました。」
そう言うと伯爵は、辺りをキョロキョロと見まわした。
「黄色いワンピースの女性は……来てないですよね?」
小声で、ボクに確認する伯爵。
「ええ、確か京子さんとかいう……?」
「そうです、そうです。彼女はこの話題に、非常に敏感なもので……気をつけないと、ね?」
伯爵はそう言うと、ボクにウインクした。
ボクにはその意味が、よく分からなかった。
「まあ、とにかく、キミには、ご自身の時空に留まってもらいつつ、時々少しだけ、仕事を手伝ってもらいましょうか。言わば"見習い調査員"です。とりあえずそれで、いかがですか?」
「ありがとうございます。是非、そうさせて下さい。」
「じゃあ、そういう事で……不老不死の件は、ゆっくり考えるとイイでしょう……あ、そうそう、コレを渡しておかなくては。」
伯爵はそう言うと、ボクに黒い腕輪のようなモノをくれた。
「ソレは身に着けておいて下さい。連絡用ですよ。」
そして彼は、煙のように、その場から消えてしまったのである。




