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RPGやり込みおっさんは、転生してもカンストを目指す~オーガたちから英雄扱いされ、気づけば魔王になっていた~  作者: 時津津


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9/10

1ー8


 俺は、ラグナの家を飛び出し、夜の山道を駆ける。


 俺のねぐらと、オーガの里は歩けば3日。

 俺が休まず走ればもっと短い時間で往復できるはずだ。尾根を無視して直線で結べばもっと――

 一歩一歩、地面を蹴るたびに土が抉れ飛ぶ。我ながら迫撃砲弾の着弾みたいでカッコいい。


 ……と、調子に乗ってる場合でもない。

 ラグナの母、ラライの容態はかなり悪そうだった。咳き込むたんびに血を吐くほどだ。

 レベルカンスト目前の身体を1ミリでも前へ、1秒でも早く、そのためにできることを、やる。

 ただそれだけを、やる。

 

「うおおおおおおお!唸れ!俺の心臓!今が、魅せ場だぜえええええ!」


 ◇


 オーガの里のジジババ達の朝は早い。

 毎日のように、まだ日も顔を出していない薄暗い時間には1人、また1人と起き、茶の湯を沸かし日の出前の静かな時間を楽しむ。

 それは、今日も普段と変わらずにジジババ達が日の出を待ち、小鳥の囀りに耳を傾けている時に起こった。

 突如、小鳥達が囀りをやめ、何かから逃げるように飛び去ってしまう。

 

 ドン……ドン……

 

 遠くで遠雷が連続して鳴っている。今日は天気が急変するかもしれないなどと不安がるが、少しづつ明るくなる空には雲ひとつないし、風は穏やか。


「……一体、何が起きるんじゃ……」


 ……ドン!ドン!ドン!


 次第に大きく、近くなる遠雷。青い空。


 ドドドドドドドド!


「ひぃいい!天変地異じゃ!」


 本気でジジババ達が怯えだした時、珍しく遅く起きてきた気配察知ババがぽそりと


 「……あれは、婿殿じゃ。引越しでもしておるんかの」


 なんて言ったので、ジジババ達は落ち着きを取り戻す。


「なあんだ。婿殿か」


「わし、寿命が縮んだぞい」


 ◇


「見えた!」


 木々の切れ目からオーガの里が見えた。

 両肩に一箱づつ魔石がパンパンに入った箱を担いだまま、まだ薄暗い山中の森を駆ける。

 ラグナと3日かけて歩いた道。

 全力で走って往復6時間ってところか。

 荷物がなけりゃもっと早い。我ながらものすごい脚力だな。


「おおーい!ラグナぁー!」


 足を踏み締めてブレーキをかける。地面を滑る足からもうもうと土煙を上げながらラライとラグナの待つ家の前に到着する。

 ……蒸気機関車みたいでカッコいい。


「モガトシっ!?」


 ラグナの声。家から出てきたらしいが、土煙で姿がよく見えない。


「魔石、持ってきたぞ!」


「——っもう!?

 すごく早かったね!」


 だんだんと土煙が晴れ、少し疲れた顔のラグナが見えてきた。一晩中ラライの看病をしていたんだろう。そりゃ、疲れるのも納得だ。

 

「モガトシ……やっぱりその方がいいよ!」


「あ?」


「角!出してた方がいいって!」


 ラグナが指差すのは俺の股間。

 見てみると、女物パンツからチンコがはみ出ている。

 ……いつの間にか、褌は切れてどこかに行ってしまったようだ。


「……っ!よくねえよ!

 そんなことより、魔石を飲ませてやれ!」


 肩から一箱魔石を渡し、残った箱で股間を……チンコを隠す。


「うんっ!」


 ラグナは魔石の箱を抱えて家の中に駆けていく。

 ……これでよくなればいいな。

 よし、俺も中へ、と足を一歩前に出した時、背後から突然、


「婿殿、……立派なもんをお持ちじゃのう」


 口を開いた気配察知オババを先頭に、ジジババ達がよっこらよっこら歩いてきていた。手には何やら布のようなもの。


「ほれ、腰蓑じゃ。とりあえず穿きなされ」


「……助かるよ。ありがとう」


「ラグナのやつ、ソレを角と勘違いしとったんじゃなあ。……まあ、無理もない。

 そんなイチモツ、ワシも見たのは今日が初めてじゃ」


 ひっひっひ、と笑いながら少しだけ赤面するオババだったが、すぐに真面目な顔に戻り、

 

「そんなことより、婿殿。

 ……本当にありがとう」


「なにが?」


 俺は渡された皮の腰蓑を穿きながらわざとぶっきらぼうに言う。……実際、大したことはしていないと思ってるし、薬があるからって、ラライが、ラグナの母ちゃんが絶対に治るなんて保証はないだろ。


「ワシらの娘同然のラライを助けようとしてくれて、だよ」


「……まだ、助かるって決まったわけじゃ、ねえし」


「そうじゃな。

 だから、助けようとしてくれて、じゃ。

 ……ワシらの娘のために、貴重な魔石をありがとう」


「……俺にとっては、いらねえもんだし、な。

 ……俺、中の様子見て来る」


 深々とお辞儀をするジジババ達を背にして、静かに扉を開ける。寝室では、ラグナがベッドの脇に座っていた。


「寝たよ……モガトシ」


「ああ」


「さっきまで、寝れなくて、咳も、いっぱいして、血も……」


「ああ」


「……があ゙ざん゙……、寝だよ゙」


「ああ」


「があ゙ざん゙……」


 俺は、何を言っていいのかわからなかった。

 俺自身、親との思い出なんて皆無だからだ。

 ボロボロと涙を流すラグナの頭をポンポン叩くくらいしかできない。

 

 部屋の中には、ラライの落ち着いた寝息と、ラグナの嗚咽だけが響いていた。


 ……俺の腹が鳴るまでは。



 グゥゥゥゥ……


 ……


「……プッ」


「……すまん」


「……いいよ、モガトシ。

 ジジババのところでなんか食べよっ!

 アタシもお腹、空いちゃった」


 目を腫らしたまんまの顔で、「そんなことより、ありがとう!」とラグナが笑う。一晩中の看病疲れが少し滲んではいるが、その笑顔は妙に眩しく感じる。

 そのためか、不覚にも、俺の心臓が高鳴る。夜通し走ってもここまで乱れなかったのに。


「かっ……

 簡単なもんでいいなら、俺が作る。——台所、借りるぞ!」


 なんだかその場に居続けることがむず痒く感じたので、俺はそう言い放って台所を探す。


 腰蓑一丁しか身につけていない前世での四十路プラスこの世界で18年も生きた男が、18歳のラグナにときめいてどうすんだ。

 ……あ、俺も、この世界では18歳か。


 ……なら釣り合うな……。

 いやいや、そういうことじゃない。

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