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くそう、なんなんだこのよくわからん気持ちは。
前世でも色恋沙汰なんて画面や漫画から得た情報以外に持ち合わせていない俺は、豆を煮ながらうむむと考える。
こんな気持ちになったのは中学生だった頃にやったRPGゲーム【姫と騎士3】で、ヒロインの姫との初デートイベントを見たとき以来だった。
「ていうか、このグリーンピースみたいな豆しかねえのかよ……」
残念ながら、他に食材という食材は見当たらない。
豆しか食わないのか?オーガって。
昨日の酒宴の時もこの豆ばっかり食った気がするな。カリカリに焼いてみたり、米みたいに炊かれてみたり、スープにもこいつが入ってた。
栄養バランスとかどうなってるんだ?
陸士時代の駐屯地糧食班での臨時勤務経験から一応、調理師免許を持つ俺は首を捻る。
コイツがグリーンピースなんだとして、優秀な栄養源ではあるが、脂質は足りねえし、ビタミン類も不足だ。とりあえずは干し肉を入れてスープにするとして、中長期的にはもっと他の食材の確保が急務、だな。
そういえば、ラグナは最近魔石が取れないと言っていた。……それは要するに、肉が獲れていないということと同義だろ。俺の住んでた山には山ほどいたのに。
それに、畑だ。もし、グリーンピースばっか作ってるなら他の作物も作らねえとな。豆は優秀だけど、これだけじゃあダメだ。
……しかし、今ないものをねだってもしょうがない。
とりあえずは干し肉入り煮豆。
風呂作ってくれって言われてはいるけど、これ食ったらその辺で肉を探すか。
「メシ、できたぞ」
適当な器に盛り付けた干し肉入り煮豆のスープ的なものをラグナに渡す。
「ん、ありがと」
「ところでよ、この豆ばっかり食ってんのか?」
俺は壁を背に床に座りながらラグナに聞いてみる。
「うん……。あんまり美味しくないけど、これしかないからね。獲物が取れたらお肉も分けられるんだけど」
やっぱりか。
「獲物はどうやって獲るんだ?」
「見つけたら追っかけるの。若者がアタシしかいないから大変なんだー」
「そうか……」
若者はこの里にラグナしかいない。
獲物を追うのもラグナ。
畑……くらいはジジババ達でも作業できるかもしれんが……
ジジババ達は、……ラグナのことを思って、里の外に出したつもりだった。結果、ラグナはこうやってすぐ戻ってきたが、戻らなかったら……どうするつもりだったんだ。
俺は、少しだけ大きく息を吐く。
この里に、若者がいなくなったらどうなるかなんて、俺でもわかる。
……それでも、ラグナの幸せを願って里の外へ出したアイツらを責めることなんてできない。
「あのよ、……罠とか使わねえのか?」
「わな?」
「落とし穴とかくくり罠とかよ」
「……なにそれ?」
ポカンとするラグナ。口の端にグリーンピースの薄皮を引っ付けている。
……可愛い。
いやいや、そんな場合ではない。
「俺が山で獲物を獲っていた方法だ。……あとで教えてやる」
「ふうん。……わかった」
「あとよ、鉄ってわかるか?」
「お鍋のやつのことでしょ?」
「そう。それだ。
どこかで取れるのか?」
「お鍋はジジババのところから持ってきたよ」
「……違う。そうじゃない」
そう。この里には鉄製の鍋があった。……つまり、どこかで鉄を採れるか手に入る方法がある。
まあ、ジジババ達なら何か知ってるだろ。豆食ったら聞きに行くか。
鉄を手に入れたらできることの幅が広がるなあ。さっき言ってた罠も、農具も……夢が広がる。……っと、その前に鍛治だ。日本ではしたくてもできないことナンバーワン(俺調べ)だからなあ。鉄を真っ赤に焼くのとかカッコいいし、……日本刀みたいなのを打ってみたいなあ。別に剣道していたわけでもないし、時代劇が好きというわけでもないけど、日本刀ってのは、日本の男の子には超人気(俺調べ)なのだ。一度は握ってみたい。
俺がうんうんと1人で考えていると、いつの間にか煮豆を食べ切ったラグナはラライのベットにもたれかかり寝息を立てていた。……看病で疲れたんだろう。寝かせておいてやるか。
……俺はその間に、ジジババ達に話を聞きに行こう。
ラグナの家を出る。
200メートルほど離れたところにジジババ達の住居兼集会場。その間にポツポツと草の生えた畑。人っ子一人いない。
畑の4分の1ほどにはグリーンピースの葉。膨らみかけの実。
残りは雑草がまばらに生えるだけ。
……昨日から見た感じ、20人ちょっとかな。たぶん、30人はいねえだろ。
そのうちラグナだけが若者で、ラライは動けず、残りはジジババ。
単純に食う口が少ねえってのもあるだろうが、空いた畑を使わないのももったいない。ひとつひとつの量が少なくても、いろんなもんを育てりゃ、飯が楽しくなるだろうな。
なんだかんだ言って、……手っ取り早いのは肉か。
「おお、婿殿」
集会場にはジジババ達がくつろいでいた。
茶請けに薄黄色の豆。……干したグリーンピースか?
「……豆ばっかりで飽きねえか?」
「そうさな、……まあ、飽きる」
「……他には作らねえの?」
「作れりゃ作っとるわい。
……じゃがな、種もないし、働き手もおらんし……
あ、蚕はおるから、パンツは心配せんでええよ」
「……いやまあ、パンツは正直助かるけどよ……」
俺は、咳払いをする。……こう、優しくするとか、助けてやろうとか、そういうのって気恥ずかしい。
「……じゃあ、俺が好きに使っても構わねえな?」
「ほ?」
「……だからよ、俺が畑でなんか育ててもいいかっ?」
「ワシらは別にいいし、……なんなら喜ばしいんじゃけど……」
「っ……!この里のためとかじゃねえんだからな!
俺が、……そう、色々食いたいだけだからな!
あと、ジジババ達、肉食えるか?獲って、俺が食い切れなかったら食えよ!?
あと、その時は昨日の酒飲ませろよな!」
ジジババ達は元々しわくちゃの顔のシワを深めて笑う。
「ありがとよ。
……じゃがな、あの酒はもう飲まされんのじゃ。
飲み切っちまったからのう。
……飲みたいなら作らにゃあな」
「……っ、だったら作り方教えろ」
「酒まで作ってくれるのか」
「できた婿殿だよ」
「魔石まで持って来てくれなすった」
「ありがたや、ありがたや」
口々に好きなことを喋り出すジジババ達。しまいには拝み出す始末。
「ラグナはいい婿を連れて来たのう」
「いや、……全部、俺がしたいだけだからなっ!」
「ふほほ、照れとる照れとる」
「……〜っ!
肉!獲ってくる!」
「おおー!期待して待っとるぞい!」
俺は、集会場を飛び出した。
……いや、照れて逃げたとかそういうのじゃない。
でもなんだか、親戚の姉ちゃんが高校生になった夏、叔母さんの「プールで遊んできたら?」に、逃げ出した時の気持ちに似ている気がした。
……あの時も、メンコがしたかっただけで、照れたわけじゃねえけどな!




