3-15
「んで?……こんな狭い部屋でよ、寝っ転がっちまって……今はなんの時間なわけ?」
「んふふ、主さんは、つくづく話を聞かない人でありんすなあ」
「えと……、ハーピーの姉ちゃんはよ、今なんの時間かわかってるわけ?」
「モガッチ、さっきもブロンおじチゃんが言ってたヨ?
それに、ハーピーの姉ちゃん、ジゃないヨ?ネルメランダさんだヨ?」
「ネルメランダ……んー。ネルメ!か、メランダっ!……どっち?
……で?なんの時間?ブロン達は?」
「わっちの経過観察でありんす。
他の方々は、魔力チュースイの改良だとかで。
わっちのことはメランダと」
「あー!それそれ!そうだったー!
……で、ただ待つのもなあってことでごろ寝してるんだったー!……で?まだかいいの?」
「かゆいでありんす」
「へえ、さっきより大きくなった?」
「ちょ、主さん、……近いでありんす……」
「そりゃあ、寄らなきゃわかんねえだろ?」
「ひ、いや……近いでありんすぅ!」
「え、すご!肩生えとるっ!」
「せ、背中はどうでありんすか?」
「どれ」
バフとメランダのシャツを捲ると、お、生えとる生えとるっ!ちんまりとだが、確かに……えっと、肩帯っていうんだっけ?……とにかくっ!翼の根元が膨らんでいるっ!
「ちょ、主さんっ!そんなに捲らないでおくれなんしっ!はみ出ちゃうっ!」
「え、なにが?って、胸か!?すまんっ!」
「明るいうちはいやんでありんす」
「モガッチ……。ネルメランダさんばっかりカまう……」
「だって、経過観察なんだろ?メランダ見ないでどうすんだよ?」
「ソれは、ソうなんだけど……でも、ウチは、モガッチにおっぱい見られタことあるっ!」
「え、主さんとナムちゃん、恋仲なんでありんすか?」
「ソう!ウチ、第二夫人っ!」
「わっちは?
わっちは、第三夫人でありんすか?
……第一夫人は誰でありんす?」
「いやいや、どっちとも結婚とかしないからっ!」
「それはひどうござんす。あんなに肌を見たのに……」
「ソうだよモガッチ!」
「「ねー!」」
いつの間にか意気投合してるふじーんず。あれ?ふじーんずっていいネーミングくね?……野球チームみてえ。
「ま、まあとにかくよ、今のところ……痛いとことかねえんだろ?じゃあ、ごろ寝継続するしかねえな。」
「フーん?
ウチはお仕事あルから行くけど、モガッチ、変なコとしちゃだめだヨ?」
「……あんだよ、変なことってよ。
したことねえっての」
「フーん。
ソーですかー」
パタンと音を立てて扉が閉まると、部屋には吐息しか聞こえるものはない。
は、はばばばば……、超気まずいっ!
気づいたら忍者みてえに音も出ないように息しとるしっ!
わずかな動きもしないように、体は強張るしっ!
すげえ消耗が激しいごろ寝という、なんだかわけわからん苦行を勝手に始める俺。
「はふ、」
ひぃ!……ってあくびか!
よく見りゃ、メランダはゴブリン作の寝巻きみてえな簡素なシャツに、短パン風の何かしか身につけておらず、その身体の線がくっきり浮かび上がっている……な、ななな、なかなかのナイスバディだぜ……。
ゴクリっ
ひぃ!唾飲み込む音でけえって!メランダに聞こえちゃう!
「う、うーん」
寝転がったまま、背伸びするメランダ。
そ、そんなことしたら、おっぱ……胸が強調されてまっせ!
「んふふ、主さん、わっちの身体が気になるご様子……
もう、辛抱が難しゅうありんすか?」
「や、ややや、やらしいアレじゃなくてだなっ!?
け、経過観察、経過観察だって、あ、あははは」
なにが、とは言わないが、ごろ寝体勢のまま、丸くなっちゃう俺。自分で言うのもなんだが、前世から現在まで童貞である。……ラグナという嫁がいるのに、である。
要するに、こういうこと、っていうか、まだこういうことに至る前なのかも知れないが、耐性ゼロ、どころか多分マイナスである。
なんならキスすらしたことねえ。しようとしたことはあったけど、ラグナの角が額にブッ刺さって未遂、という、経験値的にはマイナス判定事案が、それも一回こっきりだがあったのみ。……その思い出と苦い過去を俺の額に残して……。
指でひたいをなぞる。
ちょっと窪んだ傷。
……今更だけど、ラグナの角って凶器だな。……次の機会は気をつけよう。
「……主さん……?」
「……」
「んもう、他の女のことを考えて……いけずな主さん」
すすと俺に寄るメランダ。
ちゅ
頬に温かいものが触れる。
……ん?
ふわと香るメランダの匂い。
「……ほわぁー!!
ななな、なにをっ!?」
「んふ、お礼。
もう、わっちは主さんのもの」
「あ、あのその、あのその……!!」
「ハンチョー!」
バタン!と大きな音を立てて開かれる扉。バカでかいジャランの声。
「様子はどうか見てこいって言われて来たっ!ってあれ、……どうしたの?」
「——頬が赤い二人の男女……密室……程よく香るエロスの匂いっ!……謎は解けたっ!
……ハンチョーばっかり、ズルいっ!」
「いや、違うんだジャランっ!」
「何が違うでありんす?」
「え、……え、な、何も違いませんっ!」
「もっと主さんは積極的でもいいと思うんでありんす」
「……わぁー!やっぱりだっ!
じゃあ、回復の経過は順調って報告しとくねっ!
……えと、ご、ごゆっくりー!」
はぁっ!待ってくれジャランっ!と言う間も無く再び閉じられる扉。……なにをごゆっくりしろ、と……?
メランダはそんな俺の背中をちょっと爪を立ててなぞっている。ひいいい、どうすればいいのー!?
「……主さん。
わっち、本当に感謝してるんでありんす。
救ってくれた。この翼を治す方法まで探してくれる。
……だから、わっちは、わっちの全てで主さんに恩返ししたいでありんす。……一生、お側に置いてくれなんし」
ぴと、と背中にくっついてくるメランダ。ふわあ!柔らかいっ!何コレ何がくっついたの!?あったかいスライムみたいな感触がふたつっ!……そ、そんなのおっぱいしか思いつかねぇー!?
「わ、わかった!わかった!
わかったから、今は離れてぇー!」
「んふ、……言質、とった、と考えていいでありんすね?」
「い、いいっ!いいから離れてぇー!」
俺の背中から消えるスライムの感触。ちょっとだけ残念な気もする……いや、こんなこと考えるからだめなんだ。また見透かされちまう。ここは、平常心平常心。
「あ、あのさ、メランダさん、き、今日はいい、お、お天気ですね」
「……?主さん、本当に既婚者?」
「お、おう、もももも、もちろん。
パリッパリの新婚よぉ」
「へえ、新婚……。
にしては、女の扱いに戸惑いが見える様子……。
……わっちが手ほどきして差し上げてもいいのでありんすよ?」
「てててて、手ほどきっ!?
なんでそんな、お、俺たち、出会ったばっかりじゃないかぁ!?」
「え、わっちもお側に置いてくれるのでありんすよね?
まだ見ぬ第一夫人さんのためにも、女の扱いに慣れた方がよろしいかと。それに、こういうのは、時間の問題じゃありんせん。想いの問題かと」
ひいぃ!逃げ道なしっ!
「んふ、しかし、主さんには時間が必要なご様子。
……わっちは、待てる女でありんすから、主さんの準備ができるまでは待ちんす。ただ、お忘れになるなら、都度思い出させて差し上げんす」
人差し指を自分の唇に当てるメランダ。
その指で俺の唇に触れる。
「お慕い申し上げんす」
あ、いかん。頭に血が上りすぎ。
視界がぐらつく。
あ、も……だめ。
「はふん」
◇
「え、ハンチョー、まじ寝?……全く」
「班長。最初の投与から6時間経ちました。……次の処置含めて話し合いたいと……」
「んふ、主さん、わっちの膝枕の居心地が良すぎて、ここ2時間ばっかり、ずっと寝ていただありんす」
ぺちぺち
「主さん、従者さん達がお迎えにきんしたよ。
おっきの時間でありんすよ」
「んが、……ふいー、羊に囲まれる夢見てたわー……って!メメメ、メランダっ!?」
「やん、そんなに頭を動かされると、くすぐったいでありんす」
「ひぃっ!なんで俺メランダの膝にっ!?」
「飛び込んできたのは主さんでありんすよ」
「ふわぁ!それはとんだご失礼をっ!?」
「あの、……班長。
お寛ぎのところ申し訳ないですが……」
「うわぁ!ジュークっ!?にジャラン!
い、いやあ、本日はお日柄もよくっ!?」
「ハンチョー……。今そんな場合じゃないっしょ?イチャイチャばっかしてないでさぁ……」
「ううう、うるせえやいっ!
ほ、ほら、なんか話があるんだろっ!?い、行くぞっ!?」
居心地いい感触が確かに顔面に残る。なんだか小っ恥ずかしいので頭をフリフリしながら立ち上がり、一歩、扉に向けて足を出す。
「まあ、主さんのいけず。手も握ってくださらない」
「ひぃっ!ごめんっ!ほ、ほれ、つ、捕まれ」
握るメランダの細い左腕。「んしょ」と言いながら立ち上がる彼女。胸元がチラリ。イタズラそうな目線が合う。ふわと寄る彼女の身体。自然と抱き合う形になる。
「んふ、主さんのエッチ」
み、耳元はやめてぇー!




