3ー14
肉で腹ごしらえした俺たちは、ブロンのおっちゃんから「制作にはいる、手伝ってくれ」と言われたのでホイホイついていく。
で、案の定、細かい仕様などを語り始めたので、聞き手としてジュークを残し、とりあえず、鉄を溶かす炉でも作るか、ゴブリン達を総動員して石を組む。
あれ、ていうか、薪程度の火力じゃ鉄って溶けねえんじゃね?炭?……石炭?……そういうのいる系?とか考え始めた頃、話が終わったらしいブロンのおっちゃんとジュークがやって来た。
「コレは……何を作ってるんだ?」
「……へ?
……炉?」
「ろ?……なんだそれは……?」
「なんだそれはって……
鉄を溶かす……、えーっと……設備?」
「は、鉄を溶かす?……石を並べて?
何をバカなことを……。
鉄は魔法で形を変えるのだよ」
「っ魔法っ!?え、マジですげえんだけどっ!
どどどど、どうやんのっ!?」
「魔王殿は知らないのか?
……では、実演しよう」
ブロンのおっちゃんは、買い物袋から鍋を取り出した。
「……これに魔力を行き渡らせる」
ボウと光る鍋。
「……そして、変えたい形を想像し……」
……アイアントランスフォーメーションっ!」
ぐぐっと形を変える鍋。
大きく開いた鍋口が狭まり……
「……っ、……はぁっ……はぁっ……、
……と、まあ、こんなものだ。……これを、望む形になるまで繰り返す」
ブワと額に汗が出ているブロンのおっちゃん。
かなりのドヤ顔。
「…………え?
…………効率、悪くね?」
「……え?……はぁっ……
その……、はぁっ、石の塊……はぁっ……」
「……えっと、……落ち着いてからでいいよ?」
——5分後。
「余に、……いや、ご教示願いたい。
その、石の塊……。ろ、とやらは魔法より効率的に鉄を作り変えられるのか?」
「作り変えるって……。そんな大袈裟じゃねえんだ。
溶かして好きな形に固めるって感じか?ぶっ叩いて、強くすることもできる。……まあ、見てなって。っていってもよ、今炭焼いてるから。これの後な」
あとは、……吹子。いやさ、そんなものより、モガトシ優しくフーさえあれば、なんとかなる。
さあさあ!炭が焼けましたっ!
やってみようぜトライアンドエラー!
第一テイクっ!
モガトシ優しくフーは一筋の可能性を見せるっ!……が、襲い来る煙に目が染みるっ!……失敗っ!
お次は……、竹の吹き棒を作ったぜっ!
第二テイクっ!
モガトシ優しくフーは竹の吹き棒を破壊っ!……失敗っ!
もっと強い材質のものがいるぜぇ……。
お次は……、石を細く削り、くり抜いて吹き棒にしたぜっ!
第三テイクっ!
モガトシ優しくフーにより炉はカンカンになるっ!鉄剣やら鍋も真っ赤っかのアッチアチだっ!いい感じだぜっ!ってとこで炉の石組の隙間から豪炎っ!ちょっとジャランが焦げるっ!……失敗っ!
お次は……、炉の石のわずかな隙間に粘土を詰めるぜっ!コレで隙間から炎なんか出ねえぜっ!
第四テイクっ!
炉はカンカンっ!順調に鉄製品達も真っ赤っか!いい感じだぜっ!ってところで今度は炉が破裂っ!フーが強すぎだぜっ!……失敗っ!
「……あの、魔王殿……?
その、『フー』を別の者がやる、というのは?」
ブロンの意見に目から鱗っ!その手があったかっ!
第五テイクっ!
ジャランフーにより、……うーん。思ってたほど炉の熱量は上がらない。15分ほどやらせたところで飽きるっ!……失敗っ!
うん。普通に吹子作ろっと。
——さあ、作りました吹子っ!デカイノシシ君が役に立ちましたっ!
第六テイクっ!
ってな感じでどろりっと炉から出て来る真っ赤な鉄。
……あ!鋳型もねえっ!……っていうか、どんな形にすりゃいいのかわかんねぇっ!
「班長っ!流石です!サスハンですっ!」
「……あのね、ジューク君。……コレも失敗なのよ」
◇
そんな紆余曲折がありまして……。
はいっ!できましたっ!魔力抽出機構……とやら。
なんと、手のひらサイズっ!鉄が使われたのは細い曲がりくねった管、5本のみっ!鉄剣一本でもお釣りがくらぁっ!てなもんだいっ!
「……うおいっ!……鉄、超余ったんですけどっ!」
「なんだうるせえなあ……そんなに不満かよ?
これはこれで釘にするなり、……鍋はそのまま使ったり、なんやかんや役立つだろ?
ほれ、大は小を兼ねるってやつだ」
「特大なんだよっ!特大は小を……兼ねる、ね?」
「おお、ジャランが賢くなったっ!」
「えへへへ、それほどでもぉ〜、って、騙されないんだからねっ!」
「ちょっと褒めたからってすぐにちょずくのやめろ。話が進まねえんだよ」
「アイタ!これは痛いところを……」
「班長っ!」
「うお、どした?ジューク?」
「成功ですっ!」
うおい!ジャランと遊んどるうちに向こうじゃ実験しとるぅー!
「魔王殿っ!……魔石からの魔力の抽出は無事成功だっ!
あとは……、この抽出した魔力を……」
「そうだな。……そこが一番怖えな。
魔族に与えて、問題ないかどうか、だろ?」
「……うむ。その通りだ」
「ほおっ!そこで儂の出番ってわけかよっ!ゲフ!」
「……いや、セルゲニコフ。貴様は普通の人間だろ」
「え、……普通ではないよね……?……ね?」
「ジャラン、おふざけは無しだ」
「へんっ!上忍ジューク先生はいっつもクールなのねっ!」
「わっちに、試しておくんなんし」
その声にみんなで振り返る。
そこには、『施設』で助け出した魔族。
本来、背中に鳥のような羽を持つ、ハーピーの女性。
今は背中に羽もなく、右腕も肩口からない。
助けた時は細かい傷が多くあったが、粉末魔石でそれらは癒えている。
「しかし……よ」
「危険は……話の前後で承知しておりんす。それに……、わっちより酷い目に遭った子らが、まだ大勢おりんす。さあ、試しておくんなんしっ!」
金色の長い髪を揺らし、目には決意の強さを表す。
「魔王殿……。余が言うのもなんなのだが、……避けては通れない」
「そう、……なんだよな。っでも!」
ブロンのおっちゃんの手から魔力抽出機構をぶん取る。
「まずはっ!俺だぁー!!!」
魔力抽出機構を口に……ってあれ?どこ!?どこから吸うのっ!?
手の中でわたわた観察するも、……わかんねえ……。
「ハンチョー!……メッ!」
「班長……サスハンすぎです」
頭の上に「メッ」のポーズのジャランに、
なんでか潤んだ目のジューク。
「……んと、……どっから吸うの?」
「……ここだ。……しかし——」
ブロンのおっちゃんが指差した瞬間——パクリっ!そのままチューッ!っだ!
「……」
「……」
「……ハンチョー……?」
「……」
「……出ねえよ?」
「——一応、安全装置を作ってある。その根本の部分を——違う。そこじゃ無い。……一旦貸してみろ」
「……うん」
ブロンのおっちゃんに魔力抽出機構を渡し——
「わっちが吸うでありんすっ!」
——安全装置?を解除した瞬間、ハーピー女に奪われる魔力抽出機構……長えな。魔力チューチュースイスイ……いや、魔力チュースイ。あっ!そんな場合じゃねぇっ!
とかいってる間に、ハーピー女の口元からチュー音。
なんだかその姿が妙に色っぽく、チュー音に脳を支配される。ジャランも視界の端でクネクネ悶える。
「……ふうっ、美味しゅうござんした」
突然終わるお色気タイム……。ジャランの顔も残念そうに歪む。
「んふふ、主さんの味がしんした」
「た、たたたただのっ!間接チューだろっ!味なんかしねえだろっ!?」
「っ、……ううっ!」
「うわぁー!どどどどどうしたっ!?」
「う、腕がっ……!」
「う、腕っ!?」
「右腕がぁっ!」
「み、右腕っ!?」
「……ものっすごく!かゆいんす!」
「かゆいっ!?
そりゃ一大事だっ!?ブロン!?ジュークっ!?……説明っ!」
「ふむ、……再生、しかかっておる」
「先ほどより、肩口の傷が盛り上がったように見受けられます。羽も同様の様子。にんにん」
「ってことはっ!?」
「魔晶石ではなく、魔石を利用したわけだが……概ね良い結果と言えよう」
「マジかよっ!?
おいっ!聞いたかっ!?腕も羽も、また生えるかもってよ!?」
トッ、と音を立て、膝を地面に付き、うなだれるハーピー女。長い髪が顔にかかる。
「かゆい、かゆいでありんす……。
かゆい、だけで、ありんす……」
彼女の左手は、かゆいはずの右腕ではなく、顔ばかり拭っていた。




