3-13
「余は図面を引く」
と言って、小枝でガリガリと地面に何やら描き始めるブロン。
……見てるだけってのも暇、だよな。
「そんなら俺は肉狩ってくる。魔石もとりあえず必要だろ?」
「お!儂もっ!ゲフンっ!」
「いやいや、セルゲじいちゃんは休んでろよ?身体治せって……あ、材料って何がいるの?」
「ふむ……魔導兵器程度の魔力抽出機構で良いだろうから……、手持ちの材料を勘案して……鉄だな」
「……鉄かぁ……」
鉄の在処に心当たりが無いこたぁない。
ラグナのいるオーガの里のさらに先、オーク達の村の向こうの山。あそこで昔鉄が取れたと聞いたことを思い出す。
ただ、オーガの里まではベルカからでも俺が走って一週間くらい。生まれたての猫でもぴょんぴょん遊びだすほどの時間がかかるんじゃねえか?……猫の生態なんぞ知らんけど。
「ハンチョー、ベルカ行くのっ?……なら俺も行きたいっ!」
「……あ!?馬鹿なのお前っ!?遊びじゃねえんだぞっ!?」
「ひぃっ!?そんなに怒んなくてもいいじゃん!」
「鉄探しに行くって言ってんだろがっ!」
「だからベルカに……!武器屋さんとかいるじゃんっ!」
「……お?
そうかそうか!鉄の剣とか溶かしちまえってことか!
やるなあジャランっ!……なっ!ブロンのおっちゃん、鉄剣買ってきて溶かす、でもいいっ!?」
なんとなしに「ブロンのおっちゃん」なんて呼んでみて思ったけど、ブロンって、俺の前世とおんなじくらいの年齢なんだよなぁ……。ちょっと複雑。
「……可能だ。……別に、勇者達の鎧を溶かすでもいいんだが」
「はいっ!?」「お、俺たちの鎧っ……」「そんな!」「お、俺……!」
「そんなの青鎧達が可哀想じゃねえか。……買ってくるよ」
「突然怒られた俺はっ!?可哀想じゃないのっ!?」
「うるせえ弦楽器だな。
……いいか?ベルカに連れてってやるけど、ギャンブルに手を出しやがったら……」
「ひぃぃっ!覚えてるよー!指引っこ抜くんでしょっ!?」
「ほお、よおく覚えてるじゃねえか。えらいえらい」
「ひぃぃー……。もっとセリフに感情込めてよう……」
「そう?
……懲りずにまたギャンブルしやがったら、指ぃ!ぜぇーんぶっ!引っこ抜くからなっ!」
「ひぃっ!そこじゃないよう!」
「はっは。
よっしゃ、行くか。
肉は帰りに獲ってくるからな!
……ほれ、ジャラン。担いでやるからこっちゃ来い」
「……え?
……いいの?そんじゃ、遠慮なくー!」
ガッシとジャランを小脇に抱えた俺は、颯爽と走り出した。
◇
30分後。——ベルカ。
元々王国の辺境だった街。……今は帝国の辺境。
帝国が侵略した時の爪痕がまだまだ残る街。その西門前。
「……も、もう二度と……ハンチョーに担がれるのは……」
「なんだよ?……快適だったろ?」
「いいや、快適なんかとは程遠いねっ!30回は死んだと思ったんだからねっ!……大体、山って跳ぶもんじゃないのっ!登ったり降りたりするものなのっ!……なんで跳ぶのっ!?」
「え、……だって、速えだろ?」
「いやー、確かに速かったわー。だって、あそこからここまで、歩いたら1日は覚悟する距離だもんね。それなのに、出発したのはついさっきだし、まだ昼前だしっ!まさか道まで無視するとはね……。
ハンチョー、道って知ってる?」
「お前、バカにすんなよ?道くらい知ってらあ。でもな、こういう言葉がある——道は、歩くものと思うな、だ」
「……と、とにかくっ!俺はもう嫌だかんねっ!?帰りは歩くからねっ!?」
「うるせえな。
帰りも担ぐに決まってんだろ。急いでんだからよ。
……まあしかし、荷物が多くなっちまったら担げねえか。そん時はそん時考えるとして……。
とにかく調達だ。鉄っぽいものたくさん買うぞ。
魔石売った金、まだまだいっぱいあるからな」
「うえーい!買い物ー!
うへへ、いっぱい買えば帰りは歩きだー!
ほらほらハンチョーはやくはやくー!」
——1時間後。
「いやあ、大漁大漁っ!」
俺が抱えなきゃならねえくらいに剣やら鍋やらを詰め込んで膨らんだ帆布みてえな布の袋を肩に担いで戻ってきました西門っ!
「うへへ、ハンチョー。
——かかったなっ!……これで俺を担げまいっ!」
「おうっ!担げねえっ!」
「うぇっへっへ!目論見通りよぉっ!」
「でも、急ぐから、っと」
「へ?……急ぐのになんで袋下ろしちゃうの?」
ガシッと、ジャランを掴む。
「お前をぶん投げて、俺は袋を持って猛ダッシュ。……そして、お前をキャッチする、を繰り返す」
「……ん?
アッハッハ!……何言ってるか、わかんね!
……えっと、……つまり、俺をぶん投げて、ハンチョーはダッシュして、俺をキャッチするってこと?」
「おお。賢いなあ。そうそう。そゆこと」
「……うっそでしょ……」
「あ、それともよ、お前ぶん投げて、俺はお前の上に飛び乗るってのはどうだ?
あっ!?……待てよ?……それ、漫画で見たな。アレだ!柱ぶん投げてそれに乗って移動するやつっ!」
「……マンガってなに?」
「ものは試しっていうしな!やってやれねえことはねえ!で?……どうする!?お前が飛ぶか、柱……はダメか。木!……木ぶん投げて乗るか、……どっち!?」
「え、え……、……えっと、俺が飛ぶのは怖いから、木」
「よっしゃぁ!木だな!?
ちょっくらぶっ倒してくるから待ってろっ!」
——
「はいっ!取ってきたっ!
ちゃぁーんと、枝も落としてるし、お前が座る場所も窪みつけておいてやったからな!超快適な空の旅と行こうぜっ!」
「あ……、はい。
え?……これに座れって?……え?……ここ?……うん。
座ったけど……?」
お、素直。
一応、草を編んだロープでグルグルと、ちゃぁんと木に固定してやる。はい、安全ヨシっ!
「よっしゃぁ!準備完了っ!行くぜっ!」
ジャラン・オン・ザ・木を持ち上げる。「ひっ」という短い悲鳴。うんうん。楽しんでおる。ジェットコースターの最初のガコンってやつとおんなじだな。
よしよし、我らの里の位置、確認っ!概ねアッチ!
仰角30度……大体こんくらいっ!ググっと力を込めて、——ぶん投げるっ!
音速を超える(俺調べ)ジャラン・オン・ザ・木。
すかさず買い物袋を持ち上げ、猛ダッシュアンドジャンプっ!——目標っ!前方を飛ぶジャラン・オン・ザ・木っ!ふわりっと飛び乗る俺っ!うっひょぉー!超カッケェー!
もしかして、今ならど○ん波撃てちゃうかもっ!?
雲に突っ込むジャラン・オン・ザ・木、もとい、ジャラン・オン・ザ・ウッド!……ビッショビショだぜっ!
ものすごい風切り音を立てて進むぜっ!ジャラン・オン・ザ・ウッド!
イケイケゴーゴー!ジャラン・オン・ザ・ウッド!
……って、ジャランなら喜ぶと思ったのに、失神してらあ。全く、軟弱者め。
楽しい旅ももう終わり。
だんだん地表が近づくなぁ。
あとはタイミングよく、飛び降りるだけ……って、……あ、ジャラン……。
安全を優先しグルグル巻きにしたジャラン。……まさか、コレが仇になるとは。安全が機敏な動きを阻害してるぜっ!
ガシッと足でジャラン・オン・ザ・ウッドを挟み込む。そして——
「モガトシ、フー!!!」
大きく吸った息を一気に吐き出す。
そう、モガトシブレスの改良版——モガトシフーだっ!
なんてこった!モガトシブレス唯一かつ、最大の弱点をコイツは一瞬で解決したっ!……そうっ!技と同時に技名を叫べるのだっ!
そうっ!俺は、モガトシフーによって、音速を突破(俺調べ) ジャラン・オン・ザ・ウッドを減速させ……、いや、止めるっ!止めてみせるぅー!!
フー!!!
——ぅぅー……あ、……息が続かねえ。
ふと、後ろを振り返る——白目を剥き、涎を撒き散らし、首を襲い来る風圧にビチンビチンと揺らすジャラン……なんって、不細工なんだ……。
……地表まで、100メートル。
しっかしアレだな。……風対策はした方が良さそうだ。丸太にケツを乗せる窪みをつけただけだと上半身がモロに風を受ける。これじゃあ上に乗ったやつがこうなっちゃうのも無理もないのか?……俺は全然平気なのに。
今度やる時は、抱きついた体勢で全身すっぽり木の外周から出ないように窪みをつけるか。景色が見えるように顔だけひょっこり出るようにするのもいいな。いや、それはマストだろ。
さぁて、……助けて、やらねえと……!
両腕でジャラン・オン・ザ・ウッド——ああ、もうめんどくせえ!以下、「ウッド」という。を、挟み込んでぶら下がる。ウッドの後方に向いた俺は、全身を弓のようにしならせ——後ろに投げる。
そう!ここで相対100パーセントの力をウッドに与え——、ウッドは空中に静止。
「いよっほぅー!思ったとおりだぜっ!」
自由落下を開始した。
◇
昼過ぎ——。我らの里。
「うおーい。たっだいまー!」
「モガッチー!!おかエりー!
あれ?ナに持ってるノ?」
「お、これかぁ?
うーん。……肉・スタブ・ザ・ウッド〜ジャランを添えて〜だ」
丸太に括り付けたでっかいイノシシをフリフリしながら見せる。
「わア!……でっかイお肉っ!」
「コレは……デカイノシシですね。流石です班長。サスハンです。……ところでなぜジャランも木に縛りつけてるんですか?」
「……絡まって取れなくなっちゃってよ。起きたらうるせえだろうし、そのまんまにしといた。……全く、安全なんて邪魔なだけだよなっ!
……ちゃんと肉が焼けてから起こすから、な?……肉食わせとけば静かにできる子だから」
「うぉい!起きてるよっ!早く降ろしてよっ!?」
「……な?うるせえだろ?
さっきのウッドが楽しすぎて、はしゃいじゃってんだ。……許してやれ」
「む、……はあ」
わずかにむくれるジューク。
「……今度はジュークもウッドやってみるか?たんのしいぞー?」
「是非っ!」
「やめとけぇー!」
「……ちゃあんと次は改良するからよ?お前も乗りたいよなぁ?ジャラン」
「え、改良っ?——それなら……
って、ならないからっ!俺は乗らないっ!」
「ふん、班長の作るものが信じられんとは、世も末ですね。……私は乗ります。一番に」




