3-12
「ああ……、やっと着いた……。帝国のおっさん達がいるせいでベルカにも寄れないしよぉ……。超疲れたぜ……。
しっかしハンチョー、結局追いついてこなかったな?」
「ああ、……流石に心配だ。
怪我人をヨグさん達に預けたら二人で戻ろう」
「ふぇっ!?冗談でしょ!?
やっと着いたんだからさ、ちょっとは休もうぜ!?」
「うるさい若造の言うとおり。……休む時には休むのも兵士の務めよ」
「……今は休む時じゃない。……ただそれだけです」
「ほう。こっちの若造も的を射とるのう」
「……どっちの味方なんだよ!?」
「しかしなぁ、お主らがここを離れるなら……
この地には帝国に虐げられたゴブリンと儂らしか残らんことになる。……それは、わかって言っておるのか?」
「……ここに来る道中、4日の間にあなた方の人となりは多少はわかったつもりです。……その上の判断です」
「ふほほ、言うわい。
……のう?ブロン帝」
「セルゲニコフ、余は、あまり若者をいじめるのは感心せんぞ」
「こりゃぁ、失敬失敬。ブハハハっ!ゲホ!」
「……若くないのだから、無理をするな」
「なんのこれしき。戦場以外で死ぬつもりなど毛頭ございませんので」
「お、ジュークさんや。……あそこに見えるは、ナムちゃんでは?」
「……そのようだ。里も近いな」
「へっへー、ちょっくら脅かしちゃうか」
「……ほどほどに、な」
ジャランが忍足でナムに近づいていく。
「あの黄色髪の娘は主らの知り合いかの?」
「……そうです」
「では儂も挨拶せねば、の」
「……お好きに」
何事かをブロンに話し、一緒に歩いていくセルゲニコフ。
ジャランはナムの肩を叩く。
「ウはっ!?」
驚きの声を出し、拾っていた薪を落としてしまうゴブリンの少女——ナム。
一つに結んだ腰まである黄色い髪をブルンっと揺らして振り返った。
「——ジャランっ!?」
「うえーい、ナムちゃん。久しぶりー」
「……っ!んなっ!?」
「おわっ!……びっくりした……。
え、セルゲニコフ、さん……?」
「……ば、ばばばばあさんっ!?ど、どいうこと!?なぜにそなた!って、若がえっとるぅー!?」
ズデーン!と後ろにひっくり返るセルゲニコフはナムの顔を見て驚く。
「……ほう、確かに貴様の奥方に似ているが……」
「あ、あの頃の姿ー!うひょほー!……こ、これが走馬灯ってやつかのう!?」
「エ、……なニあの、おじイさん……?
ウチ、婆さんじゃないシ……!」
突然のことに困惑しながら、ぷうと頬を膨らませるナム。腕を組み、プンプンのポーズ。
「っひょー!怒った顔も50年前ー!
プ、プリチー!」
「……セルゲニコフ、いくら奥方に似ているからって、初対面の方の前でそれはないだろう。早く立て」
「ふほほ、こりゃ失敬……アテテ……。
陛下……。儂、腰抜けちゃった」
◇
ジュークとジャランの先導で、ブロン、セルゲじいちゃん、青鎧達、怪我人8名は無事、里に着いた。
俺たちは早速、8名を出来たばかりの家に寝かせ、近況報告を済ませることにした。
「ブワッハッハッ!そ、それでセルゲじいちゃん、腰やっちゃったのかよっ!?」
「もー、このオじいちゃん、失礼っ!」
「か、かたじけない……って、魔王、なぜにそなた先に着いておるのだっ!?」
「そうだよハンチョー!『すぐに追いつく』なんてカッコよく言ってたくせにっ!」
「……班長。ご無事で何より……。
目の周りが腫れているようですが、……虫刺されですか?」
「あ、いや……。
えーっと、……そうそう!ここいらには目ばっかり狙う虫がいるみたいでよっ!毎晩やられるんだ!
そんなことよりっ!セルゲじいちゃんがそこまで驚いた理由が聞きてえっ!」
「目ばかり狙う虫……?メライカか?」
「そうそれメライカ!」
「余の知る限り、もっと温暖湿潤な環境に……」
「はいはい!虫の話お終いっ!セルゲじいちゃんの話っ!」
「——あれは、儂がまだ、少年だった頃の話……」
「……毎日毎日、棒切れを振る日々……生傷も絶えんかった」
「……その傷の手当てをしてくれたのが、そこにおるナムちゃんそっくりな幼馴染のあの子よ……」
セルゲじいちゃんの語りにその場にいるみんなが耳を傾ける。
「……めっちゃんこ、可愛くてのう……。いっつも儂の世話を焼いてくれておった。甲斐甲斐しく……毎日毎日、包帯を替えてくれた」
「……ほう、あの奥方が、か」
「……あの頃が懐かしいわい……。
今じゃ……すっかりオニババよ……」
「……へ?」
「包帯は自分で替えろ、じゃし、……コップは自分で洗え、じゃし、甲冑の手入れしとったら『邪魔!』じゃし……買い物に行けば荷物は持たされ……」
「おしどり夫婦ではないか」
「陛下っ!陛下も結婚してみなされっ!この苦労は結婚しないとわからないものですぞっ!?」
「アッハッハ!セルゲじいちゃんおもしれーな!」
「そういえば魔王、貴様も既婚だと聞いたぞ。どんななんじゃ?」
「俺?俺は……まあ、普通、だよ。普通」
ラグナは寝つきがものすごくいいんだけど、その寝相がすっげえ悪くて、毎日蹴り落とされるために、一度たりとも朝まで同じ寝具で寝られたことがねぇどころか、……2分も一緒に寝たことがねえ、なんて……ラグナを落とすようなことは言わねえっ!
「……ほう?」
ブロンのやつが目を細める。
「魔王殿も、苦労しておられると見える」
「ブワッハッハッ!ゲフ!
同志よなっ!同志っ!」
「あーもー!うるせえって!
そんな話はいいけどよ、……あの、腕やら無くなっちまった魔族達だけどよ、……なんとか元に戻らねえかな?」
「……余も、それは考えた。……魔石では回復できないのか?」
「俺のお義母さん……、片腕ねえんだけど、魔石じゃ治らねえ気がする」
「ふむ……。魔晶石なら或いは……。しかし、手元にないものをねだってもしょうがない」
「……魔晶石、か。
……俺、今3つは持ってるんだよな……帝国の追手からぶん取ったんだ」
「ほう」
「……でもよ、……これって、使っていいのか?
これってよ、誰かが苦しんだ証拠だし、……その誰か自身だと思うんだよな」
「……余が、言うのも憚られるが、可能性があるなら使ってみるべきでは?……その誰か、も……兵器に使われるより……よいのではないか?
……しかし、試したことのない試みだ。危険もあるかも知れない」
「……うーん。そうだよな。
……誰も食ったことなんかないんだもんな……魔石なんかも扱い間違えりゃ「ボン」だもんなぁ」
「魔族たちは魔石を経口摂取するが……、それ以外に方法があるのか?」
「え、注射とかってこと?……点滴、とか?」
「……チュウシャ、にテンテキ?……なんだそれは?」
「あー、知らねえのか……そっか。そういうパターンね。
……えっと、薬なんかを、直接体にぶち込む方法のこと」
「直接……?だと……?……なるほど……。
……魔族は、魔石の内包する魔力を経口で摂ることにより、治癒力を高める……。その治癒力は開いたばかりの傷がすぐに塞がってしまうほど、と聞く。……ならば、魔晶石が内包する膨大な魔力を直接摂取すれば、同様以上の効果が得られる可能性はある、か……。しかし、魔晶石を経口摂取した事例は私の知る限りない」
「お、おお……?」
「しかし、魔石にしてもそうだが、経口で摂ることになんの意味が?ここが大事になりそうだ。例えば、魔石の持つ魔力を魔導兵器のように抽出し、治療が必要な魔族へと注入することが可能となれば、それはより効率の良い方法となりうるのでは……?それを転用すれば魔晶石の魔力を取り出し注入することも難しい問題ではない。すでに超導兵器に利用するための抽出回路は存在するわけだからな。なるほど、これは魔族の治療に転用できる可能性がある……!!」
「……めっちゃ喋るじゃん……」
「陛下は元々研究者だからなぁ」
「しかし何言ってるかわかんね!ジュークはわかる?」
「皆目わかりません」「だよねー」
「……掻い摘むと、超導兵器が彼らの治療に使えるかもしれん、ということだ」
「なんだよ!最初に言えよな!そういうのはよ。
……じゃあ、ぶん取ってくるわ」
「っ、魔王殿っ!」
「んあ、なんだよ?」
「その必要はない。余の頭には、アレの設計図が入っている。それに、あんな大きなものを持ってくる必要はない。必要なのはアレの一部分——魔力抽出機構のみだからな。……材料さえあれば作れる」
「おおっ!?マジかよ!やるなあ!ブロンっ!」




