3-11
「ねえ……?まだ……?まだなの……?」
「……キリキリ歩け」
「と、遠くね……?」
「……そうだな……。
モルモイ荒野はベルカから歩いて3日……。
ヨグさん達の里はベルカから1日ほどだからな。
そして今は、1日目の夜だ。まだ着くわけないだろう?」
「クッソ、上忍かぶれめ。まともなことばっか言いやがって」
「……うるさいぞ。不協和音」
「うおいっ!それ!弦楽器的なアレだかんな!?もうそれ、悪口だかんなっ!?」
「ヌッフッフ。
……若いもんが、そう根を上げるでない。
肺に穴の空いたジジイはまだピンピンしておるぞ?
……無論、ブロン帝もな」
「……セルゲニコフ。余を年寄り扱いするな。
余は貴様より12も年下なのだぞ。……まだ若い」
「ヌァッハッハッ!いやあ、そうでしたなぁ!ゲフ!」
「……そろそろ代わります」
「よいよい!ゲフ!
お主には道案内という大任があるではないか!?
……ならば、この荷車を引けるのは儂しかおらんだろう?
……なんせ、8人も乗っとるんだからのう」
「おい、青鎧!お前達がじいちゃんと代われよ!」
「はい!」「いや待て。我らは50人の埋葬を済ませたんだぞ?」「爪の間に土が……」「いや、俺……」
「埋葬はみんなでしたんだろーが!」
「ヌァッハッハッ!よいよい!勇者共も疲れておる!ゲフ!
……儂がへばったら頼むわい!」
「はい!」「いや、私が代わりましょう」「あ、ずりぃ!お、俺が代わります!」「お、俺……!」
「……あー、うるさいわい。チャキチャキ歩かんか」
「ハンチョー……大丈夫かな……?」
「案ずるな。セルゲニコフとやりあってああまでピンピンしてる者など、余の知る限りおらぬ。……魔王殿は無事だろうよ」
「……班長を信じるのも、班員の役目だ」
「……うっせ」
「ヌッフッフ、早くアレともう一度死合いたいですなぁ……!」
「セルゲニコフ。……状況は変わった。
今はそれを許可することはできんぞ」
「ヌッフ、……残念ですなぁ」
「……とにかくさ、後ろはハンチョーがいるなら、大丈夫……だよな?……だから……」
「我々は前に進む。……それでいい」
「……っ!うおいっ!ジューク!俺がいいこと言おうとしたのにっ!もういいっ!」
◇
あー、クソ。昨日眼玉からたくさん汗が吹き出たおかげで目の周りが腫れぼったい。
もう一生分の汗が出た気がするわー。うん。
えっ?昨日お前泣いてただろって!?いやいやぁ、何言うてはりますのん?……あれは、汗!
……結局あの後なんの作業も進まなかったからな。今日は頑張るぞっ!……目がちゃんと開かねえけど。
とにかく……と、立ち上がり、扉を開く。
朝日が眩しいぜ。……目の周りをヒリヒリ駆け抜けらぁ。
井戸で顔でも洗うかぁ。
あまり開かない目の頼りない視界を頼りに井戸に向かう。……確かこっちのはずだ。
と、思ってたら何かにぶつかる。
「オお、……誰かな?……おはよう」
「……おう、おはよう」
よく見ると、井戸には行列が出来上がっていた。
緑肌のムキムキ達が一列にきちんと並んでいる。
「スまないな、今朝は、目がチゃんと開かなくてね、……誰だかワからん。誰かナ?」
「お、……俺だよ、俺俺」
「オお?……クク、か?……いやあ、昨日ハ、すごかったナぁ」
「……昨日……」
「そうソう。まさかダよな。……魔王様が、泣くトは」
「……」
「いやぁ、俺タちなんか、……と、い、一緒に、なってヨぅ、お、俺なんかと……グズっ、ぐ、グヒィィィー……」
うっうっ、うっうっ、
井戸へ続く行列からこだまする嗚咽。
「なぁ、……わかルだろ?クク。
俺なんて、あの鉱山で死ぬのがフつうだと思ってたんダ!」
「ソうだ……」「我ら全員、死んでイてもおかしくなかっタ」「親も兄弟も、アそこで死んだ……」
「でも、アの方はっ!我らにイきろと仰っタっ!
……それ、ドころかぁぁ……、共にぃぃ……!ぐ、グヒィィィー……!」
「……ぞ、ズビっ!ぞんなの、あったりまえだぜっ!」
「……へ?クク?……お前ソんなにしゃべる奴ダっけ……?」
「へ!?」「お、オら、ここにイるべさ……」
「……じゃあ、……コっちのククは……?」
「……それ、モガッチだヨ?
……ふわーア」
「……へ?ま、魔王、様?」
「ち、ちちちちちげえぇって!」
「……男って……ミんな、泣き虫でおばかさんみタい。
……ウチは……いっつもクールなのに」
「もうっ!早く顔洗わせろー!」
◇
「魔王様のおかげで、受け入れ準備は順調ですな」
「……よせやい。俺なんか、木、切って運んで板材にしただけじゃねえか」
「……おかげで、こちらの作業も捗りましたぞ」
「あー、もう、すぐそういうこと言う!
じゃあ俺も言うもんねー!お前らの取ってきてくれた飯のおかげですこぶる快調だもんねっ!これも美味いしっ!超ありがとうっ!それにヨグだって、里長らしくみんなを超まとめてるじゃんっ!ナイスゥ!」
「……魔王様……。ヒグっ」
「おおっと!泣くなよー?誰かが泣くと、伝染しちまうんだからなー?それで昨日はえらいことになったんだからなー?」
「わ、我らは……我らのやれることを、やるまでです……!」
「へへっ!……じゃあ俺とおんなじだっ!」
「ま、魔王様ー!!ブッヒィィィィ!」
「うわぁ、だから泣くなってぇ……。……ズビ」
早く!早く来てくれ!ジャランにジュークっ!
この里、俺一人じゃだめかもしんないー!涙腺がバカになってるぅー!
「モガッチマた泣いてる……。
早く寝なサいっ!」
ナムに怒られた。
ついでに言うと、ヨグの寝床からはずっと上擦った声が夜通し聞こえてた。
……明日また目、腫れちまうかも。




