3ー9
ジュークとジャランがブロン達を先導し遠ざかっていくのを見る。
「よっし、まずは、……痕跡を消すか」
帝国によるカルピス……超導兵器とやらの照射は、明らかにブロン達の生存を否定する威力だった。だからこそ、ここで全員蒸発した、と思わせる方がいい。
とりあえず1日ここで待つとして、その後帝国クソボケカス斥候がここを見に来るってこともあり得る。すぐ来るならすぐ来るで俺にとっちゃ都合がいい。
我魔王なり!とか言ってボコってノシてそれでお終いだからな!ガッハッハ!……膨大な魔力を感じてふらっとやってきた魔王にやられました!魔族いじめたらブチ殺すって言ってました!ってなもんよ!
ふ、ふ。……完璧すぎる。
自身の才能に震えるぜぇ。
すうっと大きく息を吸う。
ドラゴンのブレスすらお返しするモガトシブレス。これで痕跡を吹き飛ばす。……ただしこの技には弱点がある。
技の特性上、技名を叫ぶことができないのだ。息を吹きながら喋るとか、俺そんな器用じゃねえし。
……つまり、カッコよさが半減する。
「っ、ふーっっ!!」
吹き荒れるモガトシブレスに地面が削られる。ナスカの地上絵的な見方をすれば水滴状に残ってしまった帝国カルピスの防御跡を周りと同じくらいに削り、砂埃に変える。
「……ふ、
——モガトシブレスっ!」
「……」
あれ、技出した後に言うのもなかなかありじゃね?
……次はポーズもつけよう。うんうん。
さて、綺麗に均しました!
お次は……、隠れる!のこのこ捜索に来る(かも知れない)斥候を待つ!
隠れ場所……は、……『施設』にしようかと思ったが、やっぱやーめた。
俺が斥候なら、あの『施設』を視界に入れたまま進むだろうし、なにより、あそこにはブロンの作ったブラッドバスが残ってるはずだ。あんなモツ臭えとこに行きたくねえや。
よし、遠くの岩に隠れよう。
帝国カルピスの射線から外れた岩。俺ひとり隠れるにはちょうどいいサイズ感だ。
ちょっと離れてはいるが、2キロ先の熊本城の石垣に使われた石の数まで数えられる(俺調べ)と思われるモガトシアイで監視すればいいのだ。ちょうど、帝国カルピスのおかげで遮るものは何も無くなっちまったし。
……まあ、熊本城、前世含めて見たことねえけど!ガッハッハ!
さてさて、冗談はここまでにして……。
岩陰に潜む。動きを最小にして風景に同化する。ジャランのくれた胡桃を割って食う。出そうになるあくびを噛み殺す。そして、待つ。
……あったかいもんが食いてえなあ。……おでんとか。
◇
日が傾きかけ、空が茜色に染まり始めた頃。
待っていたもんがやって来た。
空の茜色より鮮やかな赤鎧……が一個中隊、50人ほど。
ふうん。……一個小隊くらいかと思っていたけど、……多いな。ってことは、それなりにヴォルなんとかは帝国の中でも勢力が強いってことかも。
横隊に広く広がり、見回す視線の先に槍を構えたまま進んでくる赤鎧どもはなかなかに練度が高そうだ。……見つけたものはすぐに刺せとでも命令されてるのかね?帝王がいる可能性のあるこの場所に。……あの赤鎧どももブロンの顔くらいは知ってるはずだろ。
さあ、今の所の可能性。
たまたま近くにいた一個中隊が何事かとこの場に来た。
——いや、それはない。状況がわからない前提なら横隊で捜索するような素振りは……俺ならしない。状況がわかるまでなるべく密集させるか、数名を前に出して確認させるね。いや……、帝都の防衛兵器が使われたんだから、敵がいると想定している、とすると、横隊にも信憑性は出るか……うむむ。
ヴォルなんとかの命令で派遣されて来た。
——やっぱりこっちがしっくりくる。ブロン達を消すって目的ならあの横隊にも納得できる。
それに、『施設』内にはクソ収穫を急がせたような死体が多くあった。エルモアには魔族の死体はなかったのに今回はゴロゴロいた。……つまり、死体を片付ける暇がないほど急いでここを放棄する準備を進めていた、としたら。
頭から湯気が出る気分だ。……っもう!考えるの嫌いなのによっ!
……もういいや。『我魔王なり作戦』敢行だ!
わかんねえことは、ボコってノシてそのあと聞きゃあいい!
着弾点は赤鎧の横隊中央20メートル前方!
スックと立ち上がり、一歩の助走でジャンプ!
空から突然魔王が何かの術を使って舞い降りてくる的な演出だっ!意味もなく前転しながら跳ぶぜ!
思ったより速い回転により、俺の身体は空気を切り裂き、榴弾砲弾のようにシャンシャン音を出す。んカッケーっ!
そして、目測通り奴等の20メートル前に、着弾——今っ!
ズドンっ
両足が地面についた瞬間、足裏からは土が爆ぜ跳ぶ。まるで本当の砲弾になった気分っ!カッケエエエ!
「なっ!なんだ!?」
「わかりません!突然空から何かが!」
「空からだとっ!?」
自分の足元からもうもうと立つ砂煙に紛れて赤鎧どもの姿はまだ見えないが、声からして相当慌ててやがるな。……よし、こっからはお澄まし顔だ。
……だんだん、だんだん、砂煙が落ち着く。
——見えたっ!赤鎧が寄って来ている!
「ガッハッハッ!只今推参っ!
我!魔王モガトシなりぃぃーいいーぃぃ!!」
気分はもう歌舞伎役者だ。あの独特な喋り方とポーズ。やってみたかったんだよな。
「な、なにっ!?……魔王っ!?」
「ガッハッハッ!
何やら魔力を感じて来てみれば、人間どもが蠢いておるわっ!……よし、突然だがっ!今から俺的半殺しタイムとさせてもらおう!魔族を蔑ろにするクソ人間どもよっ!あ、かぁーくご、せいぃぃーいいーぃぃ!」
「くそっ!怯むなっ!」
「魔王とはいえ、相手はひとりだ!」
「そうだ!囲んでしまえばこっちのもんだ!」
「ガッハッハッ!やってみろっ!矮小なクソ人間どもよっ!」
「ちぇい!」
先頭に立つ赤鎧達が一斉に槍を突いてくる。
だがその穂先は俺の身体寸前に迫るものの、届かない。
「——魔王装っ!」
ムッハッハ、要するに魔装なんだが、魔王の魔装で魔王装!……見た目は完璧にセルゲじいちゃんの丸パクリ。紫のモヤが薄く身体を包む。
「なにっ!?魔装だと……!?」
「いや!違えから!魔王装だからっ!」
「くっ、……全員、押し込めー!」
周りを囲む赤鎧どもは手に持つ槍に力を込める。
紫のモヤに触れた穂先は動かない。
むんずと俺は槍の一本を掴む。
そして、折る。
ポキっと折り取った穂先をフリフリ、目の前の赤鎧に見せる。
「こんなもので、この魔王が倒せるとでも?」
「クソっ!一旦引け!」
俺を取り囲む赤鎧から少し離れた位置。
口髭がある金の意匠付き赤鎧——指揮官らしきヒゲが号令を飛ばす。
号令に即応し、離れる赤鎧ども。
ヒゲの手には——何だありゃ?無反動砲?
「魔導兵器を受けてみろっ!」
無反動砲を肩に担いだヒゲが吠える。
なるへそ、なんか飛び出る系なのね。
ダメだよなぁ。撃つ前に撃つぞって言うなんてどこの映画だよ。なんか聞いたことあるような名前だし、帝国カルピスみたいなのかな?と、勝手に想像。
ズボ
飛び出る怪光線。
——ほい来た。M.T.フィールド!
左手を前にM.T.フィールドを展開した俺は、流れるように右の小指を鼻に突っ込む。
こんなもん、鼻をほじりながらでも止められちゃうもんねー。
……と、思ってた。
M.T.フィールドに怪光線が触れた瞬間、ドンという強い衝撃が左手を伝う。おっほー。油断してた。なかなかの威力じゃんか!
おかげで右手の小指は思ったより深く鼻に入り——。めっちゃ鼻血出た。一瞬のことでよくわからんかったけど、あたりに砂埃が舞った。遮られる視界。
次第に落ち着く砂埃の隙間から赤鎧どもは俺を視認する。
「ぬ、まだ生きておるか!?」
「しかし、見てくださいっ!魔王に手傷を!」
「魔導兵器バンザーイ!」
にわかに歓声を上げる赤鎧達。
鼻血に喜びやがって。
「——続けて撃つぞっ!魔晶石を持って来い!」
「……あ?」
「それ、魔晶石使うのかよ?……魔族から奪った、魔晶石をよ?」
一歩踏み出す。
「テメェら、それ、どうやってできるか、知ってて使ってるんだよなぁ?」
また一歩。
ヒゲが慌てる。
「は、早く持って来いっ!」
「……二度と使わせるもんかよ」
ヒゲの元に駆け寄る赤鎧。手に何かが入った袋。
ドン!
地面を蹴り駆ける、というより一足に跳ぶ。
赤鎧の手から袋をもぎ取り、右拳で左顎を小突く。
錐揉みすっ飛ぶ赤鎧。あ、やべ、死んだかも。
「は、はうぁ!」
突然の出来事に叫ぶヒゲ。俺との距離、5メートル。
「いいい、いつの間にぃ!?」
「黙れクソヒゲ。次はお前だ。
……とその前に」
奪い取った袋を開ける。
赤が強い紫がかった親指大の結晶が3つ。——これが魔晶石、か?
袋を閉じ、ポケットに仕舞う。
「お、お前ら!俺を守れぇっ!」
「……クソうるせぇクソヒゲコラ、黙れっつってんだろがよ」
よく見りゃクルンっとカールしてる口ヒゲがクソ腹立つ。……むしってやろ。
無遠慮に近づく。後退りして尻餅つくヒゲ。
むんずと右口ヒゲを左手でつまむ。うわっ、ヌトっとしてる。キモい。喚くヒゲ。むしる。ヒゲの下の皮膚ごと剥がれる。
「ひぎゃぁー!!」
うわっうるせえ。
「黙れっつってんだろがコラ」
ヒゲの落とした無反動砲みてえな魔導兵器とやらを掴み上げる。
白目剥きがちな片ヒゲの目の前で両手を使い、ぐしゃりと丸めてやる。
拳大にまで潰したところでほいっと片ヒゲに投げて渡す。
「へ、あ、……」
呆然と手の中の元魔導兵器を眺める片ヒゲ。
ゲンコツを喰らわせる。
ケツを天に向けて動かなくなる片ヒゲ。
さて、お次は遠巻きに見ているだけと化している赤鎧どもの番だ。
「指揮官くらい最後まで守ったらどうだ!?カスどもっ!」
◇
その後はあっけないもんだった。
逃げ回る赤鎧どもを追っかけてゲンコツ、とっ捕まえてゲンコツを繰り返す。
そうして、この荒野に立つ赤鎧がいなくなったところで、せっせと見ぐるみ剥ぎ、集めた赤鎧をせっせとスクラップにしてやる。着てた服も全て破り捨てる。あ、パンツは見逃してやる。うん。パンツまでなくなったら可哀想だしな。
で、あとは、こいつらを一箇所にまとめて、片ひげを起こす。高速往復ビンタで。
「うら、起きろっつってんだろが」
「は、はば!……ひ、ひぃぃ……!」
「やっと起きたかよ、クソ片ヒゲ。
ちょっくらいろいろと話してもらおうか」
「……ぶ、部下のことはいいっ!俺様の命だけは保障しろっ!」
「テメコラクソ片ヒゲが!一番最初に言うのがテメェ自身の命乞いとはな!テメェなんざ、ビチグソ片ヒゲに降格だ!」
「うひっ!」
「幸いなことによ……、ここにはジュネーブ条約なんざありゃしねえんだ。テメェらの処遇は俺次第ってこった。
おうコラ!四肢もいでその辺に捨てちまってもいいんだぞコラっ!」
「ひぃっ!やめてよしてやめてよして!」
「へっへ、
……ほんじゃよ、知ってること、洗いざらい話してもらおうじゃねえか。俺はお前が素直であればこれ以上の危害は加えねえと、……いや、お前が助かるかどうかは……俺の気分次第だ!」
「ひぃぃ……!何でも話す何でも!」
「ほう、素直じゃねえか……。
えっと、まずは……、ああ、あれだ。
……テメコラビチグソ片ヒゲカスコラ、……一体ここで何してんだコラ」
「ち、超導兵器の照射地点に生存者がいないか確認、いたら排除せよとの命令で来たところですぅ……」
「何だとコラっ!?ていお……、あ違った。今のなし。
ごほん、えっと、
……テメコラビチグソ片ヒゲカスコラ、……誰からの命令だコラ」
「ひ、ひぃぃ、帝国大臣の、ヴォルフガルド閣下ですぅ……」
「もう一個。
……テメコラビチグソ片ヒゲカスコラ、……さっきの超導兵器ってコラ、誰がそれ撃ったんだコラ」
「ひ、……それもヴォルフガルド閣下ですぅ……我々がイスキを発つ前から、閣下の命令で撃たれる予定でしたぁ……」
「何だとコラっ!ビチグソヴォルなんとかだとコラ!」
「ひぃっ!殺さないで!やめてよしてやめてよしてー!!」
「……ごほん。
……テメコラビチグソ片ヒゲカスコラ、……魔晶石集めてやがんのは……誰だ?」
「あ、……そ、それも、閣下、ですぅ……」
「……魔族を、嬲ってやがるのは?」
「ひ、ごごご、ごめんなさいっ!その方が純度が高い魔晶石が取れるからって閣下がっ!」
「……ほーん。
よしよし、ひっさびさにブチ切れたぜぇぇ……!
おうテメコラクサレクソビチグソ片ヒゲゴミカスコラ、……よーく、そのビチグソヴォルなんとかに言っとけよ?
今すぐ、魔族嬲んのやめねえと、テメェの指、2000本は折るってな!」
「に、2000本……、ですかっ!?」
「おうよ。……知ってっか?
人間の指の骨ってなあ、手足合わせて56個あるんだぜぇ。1クール50個折るとして、40クールも楽しめちまうんだぜぇぇぇぇ!……大長編アニメ並じゃねえか!」
「ひいい!怖すぎるっ!」
「そうよ、俺は、魔王モガトシっ!
この世の全ての魔族の味方っ!そして、お前らの敵だ!
魔族をどうこうしたいってんなら、まずは俺をどうこうするこったな!」




