3ー7
いつの間にやら、空は薄暗い。
厚めの雲が覆い被さり、今にも雨が降りそうだったが、あのまま血生臭え『施設』に留まるのはスッゲー嫌だったので、ブロンと青鎧達、それとジャランと共に生き残った魔族達を担ぎ出し、続いて、……魔族達の死体も搬出を終えた。
「い、一体何をやっておるのだ……?」
「あ?見てわかるだろ。魔石砕いてるんだよ」
「魔石を……!?砕く、だと?……余には指先でコロコロしてるようにしか見えないが……確かに粉のようになっておる……。
……して、それをどうする?」
「うるせえな、こいつらに飲ませるに決まってんだろ」
「なぜそのように細かく?」
「……飲みやすそうだから?」
「……そのように細かいのなら……、隙間なくびっしりと固めることまで可能……か?そうなるとエネルギー効率は……?……か、考えたこともなかったが、魔晶石を超える可能性すらある……」
「ごちゃごちゃうるっせえな、ブロンジジイ。あっちの青鎧共でも手伝ったらどうだ?あとお前、帰り血まみれでクッセェんだよ。あとでジュークに水出してもらえ。ガチ臭えから」
「そんな、……臭えを連発されるのは、初めてだ」
「……だから何?……動けっての」
ちょっとしょんぼりしたブロンは、青鎧達の方に向かった。
ああ……、やっとひと段落、かな。
『施設』の中を探し回って、見つけられたのは種族もバラバラみてえだけど、8人の生存者と、50以上の開胸された死体だった。
ブロンジジイがバラバラにしちまった赤鎧共はカウントすらできねえ状態だし、自業自得だ。知らん。
俺たちは、『施設』の外に生存者と50以上の死体を連れ出し、生存者の治療と、埋葬の準備を進めていた。
8人の生存者だって、気楽にしていいわけじゃない。
ほとんどの者が四肢を欠損しているし、まともな状態の者なんていなかった。
セルゲニコフのじいちゃんはジュークの手当てで落ち着いていたから、今はジュークもこっちを手伝っている。超有能。
ジャランは青鎧共とすっげえ仲良くなった。今も一緒に墓穴を掘ってる。
……さっきは助けてくれたし。……えっと、……いい奴。
で、俺は、俺にしかできねえ魔石を砕く作業。
あいつら握力弱すぎだろ。リンゴジュースも作れねえんだからよ。
粉にした魔石をジュークに渡す。
ジュークはその魔石を倒れた魔族達に飲ませる。
……背中に無理やりちぎられたような翼の痕跡を残す名前も知らねえ魔族に飲ませる。
眼球も、四肢すらをもなく、胴体と頭だけになっちまった魔族に飲ませる……
「班長……。手が止まってます」
「……すまん」
「……今は、やるべきことをやりましょう。さすれば道は開かれるかと」
「……全面的に肯定なんだけど、なにその老師みてえな口ぶり?」
「……ジョークです」
「……お前はジュークだろ?ってお前、ちょっと顔赤くね?……照れた?」
「……仕事に戻ります」
「はんっ……無理しちゃって、まあ……」
「……」
「……それは、……俺もか……」
とにかく、今は目の前のこと、だ。
と、魔石を拾い上げた時だった。
ブリン
地面が脈を打ったように揺れる。……地震……?
「……超導兵器が、……起動した……!?」
突然、ブロンが大声を出し、北を見る。
「なぜだ……!?」
青鎧達も一拍遅れて騒ぎ出す。
「えっ!?」「イスキの超導兵器……!?」「なんだなんだ!?」「はっ!目標は、……ここ!?」
「……っ!ヴォルフガルド……!」
「え?……なに?どゆこと?」
「先ほど地面が脈を打った!……あれは、超導兵器の起動時の波動だっ!……超導兵器が発射体制に入った!
……そして、推測だが……、目標はここだっ!」
「……班長、どうやら、帝国から超導兵器——高出力の魔法波が来ます。
帝国には、ここを消したい理由がありすぎます。
……急ぎ撤退が吉かと」
「え、マジか。やべえじゃん。逃げっ、……間に合わねえか。
っていうかよ、……魔法波ってことは、波なんだな?
モガ.トシ.フィールドの出番じゃねえか」
「え、ハンチョー、それなに!?どういうこと!?」
「セルゲじいちゃんから教わった魔装を、すげー強く、すげーデカく出す。それがモガ.トシ.フィールド。略してM.T.フィールドだ」
「班長……?」「えっ!?意味わかんね!」
「まあ、見てろってことよ。
……最悪、死ぬだけだぜ!
でも!絶対に反らしてやる!そこは安心しやがれってんだ!」
「いやいやいやいや!安心とかできねぇってハンチョー!?」「一か八か……いや、この場合、全員逃げて死ぬか、座して死ぬか……ご英断、流石班長です。……サスハンです」「ちょぉーい!ジューク!……え、でも待って、流石ッス!超すげえっすハンチョー、で、サスハンか……。真似していい?」「……生き延びたら、な」「……生き延びる、んだろ?」
これから班長が頑張るってのに、ガヤガヤうるせえ班員達だこと。……あっちじゃ、青鎧がセルゲじいちゃんを墓穴(予定)に入れ、自分たちも飛び込んでいる。
ブロンジジイも片足を墓穴に突っ込んでいるところだ。
「……お前達も穴に入ってていいんだぞ?」
「そう?……それじゃ」「いえ、最後まで班長のおそばに」
「……お、俺も!俺もそう言おうと思ってたとこっ!」
「じゃあ、せめて伏せとけ。
どうなるかなんて俺にもわからんから」
たっくさん、魔力を集めて……、ふんっ!
まずは魔装!……で、これをデカく、強く!
北の地平線が光る。
……何かが、来る。やべえやつが。
「ふっふっふ。……これを言うことになるとはな……
M.T.フィールド、全開っ!!」
突き出した両掌から魔装を広げるイメージ!デカく、強く、目の前から迫り来る……、えっと、なんかやばそうなやつをブチ止めるっ!
ふんっ!
……お、出た。
掌を起点に広がる紫色の壁は半透明で向こうの景色もちゃんと見える。便利な盾だなあ。あれあれ、機動隊が持ってるあの透明なやつのデカいやつみたいな感じ。重さはない。便利。
いやー、出なかったら魔装のまま突っ込むところだった。よかったよかった。……よし、本番。
すげえ速さで迫り来る、……光るカルピスみたいな色のやべえ何かを睨みつけ、足を踏ん張る。
間も無く着弾……、今っ!
ドッ
という衝撃っ!
紫の壁に、光るカルピスの横に向く滝——カルピスソーダをめちゃくちゃ振って開放したような——が当たった。
「ぐぅっ!思ってたより、クソ重ぇっ!」
相対角90度で受けるのはキッツイ!45度で受け流してやる!
両掌の指先を自分の方に倒すとM.T.フィールドもその動きに追従する。
カルピスソーダの奔流は、ななめに展開されるM.T.フィールドに当たり、その向きを変え、頭上の雲をすっ飛ばしていく。
「はうっ!?手首の筋にくるぅー!……まだ!?まだなのっ!?早く終われー!!」
俺の手首が悲鳴を上げる。人体の構造的に突き出した両掌は手前に45度曲がらない。……少なくとも俺はそう。
……あっ!指先下に向ければいいんじゃね!?
くるりっと手首を回した。
その瞬間——
カルピスソーダの奔流は終わる。
踏ん張ってたぶん、前につんのめる俺。そのまま転ける。
あれ、力が入らん。
「は、班長!!?」「ハンチョー!!?」
同時に上がる2人の声。……無事か、よかった。
「まったまたぁ。……どうせ死んだふりでしょ?……驚かせるつもり、なんだよねぇぇ?
……っていうか周り見てジューク!えらいことになってる!」
「おお……。元々から荒野だったが……」
振り向く荒野は、元からこうだったのか、と思うくらい班長の後ろに水滴状の範囲以外が平坦にならされている。
穴から顔を出す青鎧の1人と目が合う。
「あの『施設』って建物も半分無くなっちゃったな。
……っていうかハンチョー、……まだ起きない……」
「……まさか、な」
「えっ、嘘!?ヤバい!?死んじゃった!?」
途端に「ハンチョー!」と叫びながらジャランは駆け出す。
「ジュークっ!大丈夫!
ハンチョー生きてるっ!」
「……当たり前だ」
「えっ、なにそれ?どういう感想?」
「私の班長は、この程度では死なんさ」
「ジューク!何それずるいぞ!
お、俺もそう思ってたもんねー!」
「み、……水……」
「は、……ただちに」
「俺が水あげるからいいのっ!ジュークは治療の続き!」
「む……。
では、ジャランに任せ、治療に戻ります」
「おう……」
魔族達のところに戻るジュークを眺めてから、ジャランを見る。
「へっへ。……ではハンチョー。
とっくべつにジャランウォーターを授けよう。
……お願いします、は?」
「ジャラン!おふざけは無しだぞっ!」
「うひっ、……ジュークの地獄耳め……。
はいはい、わかってますよっと。
……美味しい水よ、集まっておくれ!……ジャランウォーター!」
ジャランの指先からピューと出る水が俺の開けたままの口に飛び込む。一生懸命水を飲む俺の顔をジャランはイタズラそうに見て、
「……どうだいハンチョー?俺の一番搾りは、よ?」
クッソむかついたので、最後の力を振り絞り、腕を掴み、指に齧り付いてやった。




