3ー6
——『施設』。
けったくそ悪いが便宜上、帝国の奴らに合わせてそう呼んでいる場所。
頭をさするジャランと、ブロンと名乗る帝王と、お付きの青鎧達を連れて。
さすがの遊び人ジャランも今はおちゃらける場じゃないとわかったのだろう。大人しく付いてくる。……知らない人に警戒してるだけかもしれないが、な。
ブロンのやつも青鎧共も黙ってるし。
……まだ入り口にも入ってねえのに、こんな空気で大丈夫か?……いや、俺が持たねえ気がする。このまんまじゃキレ散らかす自信がある。
でもなあ……俺が話し始めちゃうってどうよ?
ブロンのやつや青鎧共は俺のこと魔王と思ってるわけで。
ジャランにとっちゃ、普段ちゃらけるなって叱ってる手前……。うむむ。
……それに、だ。
俺にとってRPGの主人公ってやつは基本喋らない。
周りが勝手に情報くっちゃべってるのを聞いて、考えて行動する。
でもな……。ゲームじゃないんだよなぁ……。
自衛官だった前世、被災者と話すのも躊躇っちまってた。
だってよ、なんて言やあいいかわかんねえじゃんか。
『現場で歯を見せるんじゃねえっ!』『冷飯ばっかで自分がいくら辛くっても辛い顔するんじゃねえっ!』
鉄拳制裁とともに、何度も何度も上官に言われた。俺も部下に何度もそう言った。
『施設』の扉が開かれる。
中からむわっと鉄の臭い。
とんでもなく濃い血の臭いと未処理のモツの臭い。
ビチャ、と歩くたび足が音を立てる。
小間切れになっちまった、赤鎧が散らばる通路をブロンを先頭に進む。
「うへえ、……一体何人分……?」
「……その辺りは、ざっと3人分だ」
ジャランの漏らした声にブロンが答える。
気を抜いたら転けちゃいそう……ぬるぬるする
足を進める音はグヂャ、という音に変わっ
足を上げるたびに纏いつく。タールの上を歩いてるみてえだ。……土砂に呑まれた寒村を歩いたのを思い出す。
誰も口を開かなくなってどれくらい経ったんだ?
一時間もこうしてるような気もするし、数分のような気もする。
胃から何かが込み上げてくるような。
この状況を、遠くから見ているだけのような。
階段を上がったような。下がったような。
「……ここだ」
立ち止まったブロンの背中越しに扉が開かれたままの部屋。
『収穫物増大室』……。ドアのプレートに書かれた文字。
自然、息が荒くなるのを感じる。
何を、増大、だって?
気づけば、ブロンを押し除けて部屋に一歩入ってる俺。
そこには——何かの機械。爪切りのバケモノみてえなやつ。でけえペンチみたいな道具。ノコギリ、ハンマー、ボウルいっぱいの指、アイスピックのバケモノ、皿に山盛りの歯、輪切りになった肉、肉、肉!肉っ!
「ぐぅぅう……!」
「……は……痛……ないで……」
声。
ハッとする。生きてる奴がいる!どこだっ!?
部屋の隅、……檻の中、目を抉り取られ、四肢がその根元まで失われ……でけえ釣り針で皮を吊られ……
「あ、あ……ああああ!!」
真っ白になった。目の前のおよそ生き物らしくない生き物に、いや、これをした人間に!人間人間人間人間人間人間ニンゲンニンゲン!!全員、同じ目に!
「ハンチョー!」
ゼンッイン!ブチコロシマワシ……!
「ハンチョー!!」
「うるっせェェェェ!!オマエから、殺すぞっ!」
「ハン……っ!モガトシっ!」
「アアッ!?」
「まず、助けなきゃだろ!」
「ア……!……うう、でもよ、こんなに、されちまって!」
「だからなんだよっ!?こんな酷い状態だから助けねえっ!助けられねえって言うのか!?ぶっ飛ばすぞ!?やってみなきゃわかんねえだろっ!?」
「んなことっ!……っ言ってねえだろっ!」
「言ったようなもんだろうがよっ!?助けが必要な人の前でっ!」
「……っ!」
「俺はっ!俺がアンタをハンチョーって呼ぶのはっ!アンタのそのまっすぐさに惚れたからだっ!……やってくれよ、ハンチョー!その、……ハンチョーの、ハンチョーを!」
「ジャラン……!」
「その後だったら俺、人間代表で、腹切るからさぁ……」
「……っ、バカヤロウが……!
くっそ、すまねえ。……もう大丈夫だ。はやいとこ、……助けねえと」
「うう……、腹切るのやだぁ……」
「うるっせ、手、動かせ。檻壊せ」
「ハンチョーじゃねえんだから、檻なんて壊せないよう。
腹切るの怖いぃぃ……、あれ、……この檻、フツーに開くよう」
「くっそ、鍵すらいらねえってか!合理的じゃねえか。腹立つ!あークソ!帝国のクソボケカス野郎っ!滅んじまえっ!」
「う……すまない……」
ブロンは台の上のものをどかす手を止めないまま何かに謝る。あ、そうか、コイツ帝王なんだった。
「あー、いや、ブロン、おめえはいい奴っぽい。
っていうか、青鎧っ!ぼさっとしてねえでさっさと動け!こんな気持ち悪いとこ、さっさと出てえだろ!?」
「「「はいぃぃ!」」」「お、俺も……!」
「口じゃなくて、手を動かせってんだよっ!行けっ!動けっ!」
ジャランの言うとおりだ。俺はバカだから、やることをやってから考える。やれることなら全部やるだけだ。へこたれたクソみてえなとこなんか、もう見せてやるものか。
◇
「報告っ!
ブロン帝とセルゲニコフ閣下は、モルモイ荒野の施設に向かったとのこと!……時間的にみて、すでに到着していると思われます!」
ムロガ帝国。首都イスキ。
主人である帝王ブロンが不在の城、その玉座の間。
帝国大臣の一人であるヴォルフガルドは慌ただしく報告する兵に口元を歪めながら向き合う。
通達のとおり、帝王とセルゲニコフ軍務大臣は「施設」へと向かった。その行き先がたった今判明した。
「ふん、モルモイ、か。
……収穫は済ませてあるんだろうな!?」
「はっ!少々、熟成が中途半端になってしまい……かなり小ぶりだと報告がありましたが、収穫物はすでにモルモイを発っております!その他の『施設』も同様です!」
「チッ!……魔晶石増大には時間がかかるというのに……!
……しかし、背に腹はかえられまい。我が野望のためだと切り捨てるほか、ないか。
……ならばあの地に用はない。魔族は再び攫えばよい。……新型超導兵器の試射の準備はどうかっ!?」
「まもなく、かと!」
「クックック……。
ヴォルフガルド帝王……か。なかなか良い響きではないか……!老害め……セルゲニコフも帯同したのが仇となったな……!
よいか?……射線は南だぞ?」
「その方向にはモルモイが……」
「みなまで申すな。……それが狙いよ」
「ふふ、ヴォルフガルド帝王に栄光あれ!」
「クックック……!邪魔な老害を廃し、王国をも滅ぼし!この私こそが覇王となるのだっ!」




