3ー4
「くっそう!魔王め!」「いや、紙一重だった!」「確かにな!次は勝てる!」「お、俺は……」
「どうした!?何事か!?」
「は、これはセルゲニコフ閣下!もう到着されたのですね!」
「ああ、今しがた、な。
……それより報告せよ!何があった!?」
「付近の巡回を行ったところ、魔王と接敵しました!」
「以前の傷は完全に癒えておりました!」
「一太刀浴びせるのがやっとでした!」
「わ、わた……!」
「もうよい!
……して、魔王は?」
「こちらに向かってきます!」
「……ふむ。
……ブロン帝!一先ずは施設内に退避を!
警鐘を鳴らせ!迎え打つぞ!
……勇者共。大義であった。まさかこの儂の死に花まで持ってくるとはな!」
「はい!」「私は、帝王陛下の避難を支援します!」「あ、ずりい……いえ!なんでもありません!」「わた……!」
「儂と共に死する権利を与えるっ!存分に励めよっ!」
セルゲニコフは馬鹿でかい声でその場を鼓舞する。
その声は、2度目の魔王邂逅によりすっかり弱気になっていた青鎧の勇者たちの心までをも奮い立たせる。
「はいっ!」「くそ、逃げ遅れ……いえ!なんでもありません!」「初任給も貰ってないのに……」「わた……!」
「バッハッハッハッハ!その意気やよしっ!」
セルゲニコフは背に負う身の丈ほどもあろうかという大剣を抜き放つ。
「さあ来いっ!魔王っ!存分に死合おうぞっ!」
びゅうと風が吹く。砂埃が舞う。
砂埃を睨みつけるセルゲニコフ。自身の戦意と同じく自然と口角が上がる。
ふふ、このように高揚するのは独立戦争以来だな。
あの時もこうやって、若き雄たちと肩を並べたものだ。……その多くは死に、儂は死に遅れた。
……このまま、寿命を迎えるかと思っておったが、このような絶好の機会が訪れるとは。
バッハッハッハッハ!さあ、来い!……魔王っ!
……
……
……
「……まだか?」
「あの、……言い忘れたんすけど……
魔王は、1時間後に攻めると言っておりました」
「……ほうっ!……敵ながら見上げた魔王だっ!
こちらに準備をする時間をわざわざ与えるとはっ!
……っしかしっ!そのような時間は必要ないっ!
帝国の黒き大剣が、今すぐに出迎えてくれるわっ!
……征くぞ勇者共っ!ついて参れっ!」
◇
「ふわぁ〜ァァ。……1時間は、長えな……なあ?ジャランさんや」
「でもさ、こうやってゴロゴロするのも悪くないじゃん。大事の前の小事じゃん」
「まあ、そうなんだけどよぉ……。
こう暇だと、眠くなっちまっていけねぇや」
「だよねぇー……なんか俺、今なら結婚する夢とか見れるかもぉー……」
「……ほれ、いっつも真面目な上忍先生も船漕いでんだからよ、俺らも寝ちまおうぜ……」
と、ゴロンと寝返りを打つ。草の匂いが心地いいぜぇー……。
……って、あれ?なんか、でっかい爺さんが走ってくる。
その爺さんをさっき逃した青鎧達が追っかけてる。食い逃げジジイかな?……ふわぁーァ。俺、もう寝ちゃったんだなぁ。すぐに夢の世界にダイブってか。
あんなでっかい爺さんが、めちゃくちゃ嬉しそうに、でっかい黒い剣持って、青鎧達より早く走ってるなんて、すっとんきょうな夢だなあ。こりゃ、明日はヤリ降るかもなぁ。
「魔ァァァァォォォォゥゥゥゥッ!しぃぃぃぃあぁぁぁぇぇぇぇ!」
「……っ!班長っ!敵襲ですっ!」
おお、ここでジュークも登場かぁ。
で、爺さんは高く跳ぶ。大剣をおおきく振りかぶって——……って!あっぶねええぇ!
咄嗟に横に跳ねる。さっきまで俺が寝ていた場所にジジイが着弾する。大剣を地面に叩きつける。——ズン、という音と共に、地面が跳ねる。寝たままだったジャランも跳ねる。
もうもうと土煙が立つ。土煙の向こうにジャランが落ちる。「いでえ!?」よしよし。元気そうだ。
「バッハッハッハッハ!よくぞ躱したっ!」
土煙を割り、現れるジジイ。——いや、満面の笑みのジジイ。
右腕のみでひょいと身の丈ほどもある大剣を持ち上げ、肩に担ぐ。
「儂はァァ!セルゲニコフ!
セルゲニコフ・ボボタマス!
……帝国の黒き大剣とは儂のことだァァ!」
「うおっ!?何それカッケェ!俺も欲しいっ!
……えっと、……あー……。こほん。
俺はァァ!モガトシ!
ただのモガトシじゃねえっ!
魔王勇者服部半蔵赤い彗星モガトシだァァ!」
「ムムっ!?……ただの魔王ではない……ということか……!」
「ふっふ。その通りよ。
この名を名乗った俺は、普段の三倍強えぞっ!?」
「……なるほど、な……。
よし、いざ、尋常に死合おうぞっ!」
「ほう、黒き大剣よ……。試合うのが望みか……。
受けて立つっ!」
「バッハッハッハッハ!魔王よっ!
先に仕掛けてくるが良いっ!」
「え、マジで?
あ、そうだ!あれやる?……ほら、枝とか投げて、地面についたら開始!みたいなの」
「ほう。……面白い」
「あとあれ!重要なヤツ!」
「ふむ?」
俺は行方を見守るジュークと、頭をさするジャランを見る。
「テメェらっ!……手を出すんじゃねえぞ?」
「ほうっ!敵ながら潔し!武人の中の武人っ!
……ならば儂も。
ゴホン、……勇者共っ!儂の生き様をそこで見ておれっ!」
「うっほおぉう!ゾクゾクするぅー!
よしっ!やろうぜ!」
「バッハッハッハッハ!是非もなしっ!」
ジュークが小石を投げ上げる。
ふわりと山なりに投げられた……石が——落ちた。
フハハハハ!先手必勝っ!
モガトシー連続ジャブ!
超高速で繰り出すジャブは毎秒2026発(俺調べ)でジジイを貫——けないっ!
「んなにぃっ!?」
俺の両腕達はジジイのいた虚空を捉える。
「——その腕、貰い受けるっ!」
真横から振り下ろされる大剣は俺の腕を見事に捉え両断——できないっ!
「んなんとっ!?」
——なんなのだこやつの腕、砦の大門より硬いんじゃないか!?
——やっべえこのジジイ、超速え!……あと、ハニーボーンに当たったせいで超腕痺れる!
「……へっへ……そうこなくっちゃ、な」
「……バッハッハッハッハ!——やるな!」
「——隙ありっ!」
モガトシネリチャギ!ホンモノのネリチャギなんか知らねえけど、『踵落とし』よりカッコいいだろ!俺の踵は地面を割るぜぇー!?
ドン!という衝撃。
俺の足は高く上げた位置で止まる。
——下から大剣で掬われた!
しかも、大剣を握るのは右腕一本。
すぐさま、左腕が俺の顔面を狙う。
俺は俺で、んがっと口を開ける。——齧ってやる!
ガチィ!
「……バッハッハッハッハ!
まさか、歯まで使うとはなっ!」
「ぺっぺっ!
……手ェ洗え!ジジイ!くっせえんだよ!」
「洗っとるわっ!それは……アレよ、古今東西、籠手とは臭いもんと決まっとるからよ!」
「ぺっ!……なんか、ちょっとぬめってるしよ……」
「はん、そちらから来ぬなら、次は儂から行かせてもらう!」
「よっしゃ!来い!……って、あれ?
ジジイ、どこ行った?」
脇腹にピリリと殺気を感じ——ドンッ!
鋭い衝撃。
下半身となき別れになったかと錯覚を覚えると同時に3メートルは飛ばされる俺。猫のように着地!
「いってえぇ!うわっ!ちょっと切れてるし!
……すっげえな爺さん!」
「バッハッハッハッハ!
魔王よ!貴様も素晴らしい!……アレで死なぬとは、な」
「いやあ!すっげえな!
こりゃ、俺も必殺技使わなくっちゃ、な」
「ほう?噂の大魔法か?……見せてみぃ?
その隙に首を落としてやる」
「へっへっへ、見て腰抜かすなよ?」
すうと大きく息を吸う。
「いくぜ!……死ぬなよ!ジジイ!」
「モー……、ガー……」
両腕を大きく回し、右腰へ
「トー……、シー……」
一気に両腕をジジイに向けて突き出す!
「波ァァァァァァー!!!」
両掌に握ったなんたらホーンの魔石を包み込むようにぶち当てる!
ズボッと絞った両手の指を砲身にして飛び出るオレンジ色の閃光がジジイを呑み込む!
「ブハァっ……!」
モガトシ波はジジイの後ろの山を丸く削り取った。
ジジイは——
「……ハッハッハッ……
お望みどおり、耐えてやったぞ……!」
「やるなぁ!ジジイっ!
大剣の腹で受けるとはな!」
「バッハッハッハッハ……!
魔装がなけりゃあおっ死んどった!」
「魔装……?何それカッケェ……
でもよ、鎧はボッロボロじゃねえか?」
「何……!?魔装も知らんのか?
魔力を身体に纏い強化する技よ!
貴様も使っとるだろうがっ!?それも、儂が断ち切れぬほど強固なものをっ!」
「へ、そうなの?……でもなあ、自覚がねえんだよ。自覚が」
「か、完全に無意識……、だと!?」
「なになに!?なんかコツとかあるなら教えてくれよっ!」
「……バッハッハッハッハ!なんと豪胆なことだ!
戦いの最中だというのに敵に教えを乞うとはなっ!
……こうじゃ、こう!
……こう、身体に魔力を集めて、フンっ!」
「え……魔力……?がまずわからんけど……
でも、とにかく、フンっ!」
ボッ!っと音を立てて弾け飛ぶ俺のシャツ。
「……とんでもない筋肉よな。
そして、そうじゃないっ!魔力をしっかり感じぬか!?」
「……そういったってよ……」
「魔力もわからんのかよっ!?
……よくそれで大魔法を行使するものだな。
これじゃコレ!なんか、空気の中に漂うちょっと気持ち悪いヤツ!これが魔力よっ!」
「あっ!コレ!?
コレが魔力なのかぁー!……で、コレを集めて、フンッ!」
「そう!……魔装、できたようだなっ!」
「え、ちょ……コレ、ちょっと気持ち悪い空気に漂ってたやつが身体にまとわりつくようになってさらに気持ち悪いんですけどっ!」
ぺらーん
うおっ!ひっさしぶりのレベルアップ!——レベル93だ!久々に聴いたけどやっぱり気の抜ける効果音だよなっ!
「ふおっ!?
貴様、腹の傷……もう癒えたのか!?」
「むっふっふ。
コレでジジイの勝ち目は無くなっちまったんじゃねえか?……敵に塩を送るとはこのことよぉっ!」
「バァッハッハッハッ!
よい!よいぞ魔王よっ!不足なしっ!
……もはや、剣など無粋っ!……足を止めて殴り合うとしようぞっ!」
「ヌァッハッハッ!おんもしれえジジイだっ!」
向かい合う、俺とジジイ。
腕を伸ばすだけで殴れる距離。
背丈で言やぁ、俺の方が頭一つ分デカいはずなのに、すっげえ巨大に見えるジジイ。
「さっきは先手もらったからな!次はジジイからでいいぞ!」
「バァッハッハッハッ!遠慮などせんぞっ!?」
言うが早いかのジジイの右拳は無遠慮に俺の顔面を撃つ。
左頬にめりこむジジイの拳。強制的に右を向かされる顔面。
くぅー!……っいってえ!
ゆっくりと引き戻されるジジイの拳。合わせて俺の首も正面を向くと、満面の笑顔のジジイ。
「バァッハッハッハッ!儂のゲンコツで脳漿ぶちまけなかった敵は初めてだぞいっ!」
「ヌァッハッハッ!まぁだまだお楽しみはこれからよぉっ!……あ、鼻血出た」
「さあ!来い魔王っ!」
「んじゃ、……殴るぞ、ジジイ。歯ァ食いしばりやがれぇぇ!」
とはいえ、不殺を誓った俺は5割程度の力を込めた右拳をジジイの左頬に叩き込む。
踏ん張った足で地面を削るジジイは、ガバァッと、仰け反った体を起こして鬼の形相。
「……きっさまぁ!……手を抜いたなっ!?
なんのつもりだっ!」
「……うわっ……マジかよ……」
「なににドン引いとるっ!?」
「俺、……本気出していいの……?」
「出せよっ!出し尽くせっ!」
「ヌァッハッハッ!すまんっ!
爺さんのこと俺、ちょっと舐めてたわ!……両鼻から鼻血出てるぞ!ジジイ!」
「バァッハッハッハッ!その意気よっ!
……さあて、次は儂の番じゃな……」
滑って下がった分、距離を詰める。
「魔装のもう一つの使い方……教えてやるわい」




