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ああ〜。よく寝た!
外は薄暗い。夕方なのか朝方か。
寝起きの感じからは朝方かな?たっぷり寝た、という気がすることだけが根拠だが。まあ、そのうちわかるからどうでもいいか!夕方ならもっと暗くなるし、朝方なら明るくなるだろ。
溜まった竹水を一口飲んで、節を取り出し孔を開けただけの水筒に注いでおく。焚き火の火が落ちてしまったのはちょっと残念だけど、干し肉と燻製肉が手に入ったことは素直に嬉しい。コイツらは大事に食わないとな。次はいつ肉が来るかわからないし。
それよりも、だ。
満腹になって眠ってしまう前に上がったレベル6の確認だ。……ウインドウは……あれ?レベル7になってる。確かに寝る直前まではレベル6と表示されていたんだから、寝てる間に何かしらで経験値が入ったと考えるのが自然、だな。……この、寝ている間に起きたこと、と言えば、燻製肉と干し肉が完成したこと。……あとは、マイナス評価でもおかしくないが、焚火が消えたこと。素直に考えれば、燻製肉と干し肉だろうが、確証はない。確証がないならこれ以上考える価値はない。後回し!……それよりも、身体の成長だ。実はなんとなく気づいてはいるんだが……と、俺は尻を触ってみる。ぴとりという感触。……やはり、な。とうとう、ODシャツの限界を超え、尻がこんにちわしてる。……立っていてこれだ。しゃがんだら丸出し状態だろうな。世が世なら公然猥褻……か。処分モンだぜ。……でもまあ気にしない。尊厳をかなぐり捨てるようなもんかも知れないが、ここに人の目はない。……怖いのはムカデとかにちんこを噛まれることだけだ。……早く乾いてくれ!大麻様!……もちろんこんな願いも大麻様の乾燥には1ミリも関係ない。……いっそ、炙るか……?干し肉みたいに遠火に当ててみるか……?大麻なんか加工したことねえからわかんねえ。まあ、トライアンドエラー、だな。
とりあえずは消えた焚火に火をつけねえと、と、あぐらをかくと、普通にちんこが地面に付く。……座布団か、椅子が欲しいな。玉の裏にひんやりとした土の感触を感じて俺はちょっとだけうなだれる。ちょっとだけ、なのは、若干気持ちよかったからだ。
手早く種火を作り、焚き火を育てながら俺は、レベルが上がった時について考える。
一度目は大麻の茎を折った時。
二度目は竹の節でコップを作った時。
三度目は焼いたシイタケを齧った時。
四度目が角ウサギにトドメを刺した時に一気に2レベルアップ。
五度目が寝ている間。
五度目の推察としては、干し肉と、燻製肉の完成、ってところか。
……何か作ったり、素材を採ったり、狩りをした時に経験が入っている、のか?……で、あるならば。ここで生活することが、すなわちレベル上げ、となりうる、か。
おいおい、俺を誰だと思っていやがる。「序章でカンストの俊郎」だぞ?こんなレベル上げに適した場所に放置したらよ、カンストするまで動かねぇぞ?
◇
「よいか、里長ラライの娘、ラグナよ」
「はい、長老様、なんなりと」
「知っての通り、この里の限界は近い。人口はとうとう50人を下回っておる。子供もおらず、若い働き手はおぬし1人のみ。それもこれも、人間による人足狩りのせいじゃ」
「存じております」
「そこで、じゃ。……こんなことをおぬしに押し付けるのは心苦しいのじゃが、なんとしても、自分の婿となる者を連れて参れ!20人は子を成せる屈強な婿を!これを果たすまで、戻ることは許さん!」
「謹んで!」
ラグナと呼ばれた年若いオーガの女は長老に傅き、すくと立ち上がると軽やかな足取りで集会所を後にする。
「……なあ、……あやつ、ちょっと嬉しそうじゃなかったかの?」
「あやつのほかジジババばかりじゃ。……そりゃあ嬉しくもなろうて」
「ああ……ワシがあと五十年若かったら娶るのにのう……」
「バカ言うんじゃないよ!萎びたジジイのくせに!」
ワハハと笑い声。
「――ワシらの孫同然のあの子に、どうか、幸せが訪れますよう……」
――
「母さん!」
勢いよく扉を開き、満面の笑みのラグナは家の中に飛び込んだ。
「……ああ、ラグナ。集会はどうだったの?」
部屋の奥、寝室のベットに横たわったままの母の声。今日はいつもより元気そうだ。と、嬉しくなって、ドタドタとベットの脇まで駆ける。
「私ねっ、お婿さん探しに行くことになったの!」
「……そう。
前々から決まってはいたことだけど、もう18年も経ったんだね。……でも、ほんとに大丈夫かい?」
心配する母に、フフンと鼻を鳴らすラグナ。
「何言ってるの!私はこの里の長ラライの、母さんの娘なのよ!バッチリに決まってるじゃない!」
そうだったね、とラライはラグナの頭を撫でる。
「……っ、母さん、こそ、私が帰るまで……ちゃんと待っててよね……」
途端に顔をくしゃくしゃにして泣き始めるラグナ。
ラライは片方しかない腕で、それでも精一杯強く抱きしめる。
「いつまで経っても、子供なんだから。
……大丈夫。……ちゃんと待っているよ」
「ぎょうは、があざんと、ね゙る゙ぅー!」
「ふふ、しょうがない子だねぇ」
◇
翌朝。
ゴリゴリ、ゴリゴリ。
「いつまでやってるんだい」
ゴリ、ゴリ
「だってぇ」
ゴリ、
頭と頭、角と角を擦り付け合う。オーガ族の愛情表現。
「もう、成人したんだろ」
ゴリ、……
名残惜しい母の角の感触。
「うん……」
寝たきりの母。
ゴリリ……
それでも。
「……っ、行って、来ます」
「ああ」
――
「頼んだよ」
◇
「だああ!ダメだぁー!」
編みかけの麻の布を投げ出し、土の上に大の字になる。
こう、ちまちました作業は性に合わねぇ。もう何年もこうしてトライしては投げ出してきた作業をまたしても投げ出す。ちなみに皮を利用しようとしたこともあったが、なめすってのがわからん。縫えねえし。
「もういい!俺は一生褌しか付けない!編み物なんて嫌いだー!」
大の字のまま手足をジタバタさせる。逞しく育った我が四肢は、自衛官として最盛期だった頃よりも遥かに大きく、強く成長し、ジタバタのたんびに土をへこませる。
だというのに。俺はパンツの一枚も編めない。
もちろん、ODシャツなんて、とうの昔に朽ち果て、残骸は集めて大麻様の膝下に弔った。……だから今の俺は文字通り褌一丁。といっても、ほとんど麻の縄をグルグルと巻いているだけだった。
「くそう!誰だパンツなんか発明しやがったやつは!今すぐやってきて俺にパンツを編めー!」
……はあ、と深く息を吐く。ストレス発散終了。あんまり暴れると今身につけている最後の褌まで千切れちまう。
今や俺のレベルは92。もう少しでカンストだ。初めて出会った時は苦戦した角ウサギなんか、今じゃ小石を指で弾くだけで狩れるまでになった。ちなみに、「指弾」という技名まで付けてる。
そろそろ行動範囲を広めてもいいかも知れない。だが、長年かけて増築した我が家(地上零階地下二階建て全階フローリング張り)にも愛着があるし、もう少しここにいてもいい。……それに、こんな文明のかけらもない格好じゃ、即通報されちまうだろうからな。いや、これでも身だしなみにはかなり気を遣っている。ほとんど自衛官時代の品位を保つ義務ってやつが抜けていないためだが、髪も定期的に切ってるし、爪だって毎日研いでる。髭は……面倒臭えからたまにしか切らないけど。でもよ、ミント的なハーブを集めて、雨水を溜めたハーブ風呂にも入るし、石鹸で体も洗う。だからまあ、小綺麗な山賊って感じだ。半裸……いや、ほぼ全裸だが。
鉄さえ見つけりゃ、もっといい暮らしができるんだけどな。あ、あと服か。




