3ー2
「ジュークっ!……集合っ!」
教会前の広場、昼前の雑踏の中で近くを通っていたおっさんがひっくり返るほどの声量でジュークを呼ぶ。
まあ、聞こえたらいいな、くらいのつもりだったんだけど、耳を抑えて蹲るおっさんにちゃんとごめんをして立たせてやる。
「……現在地!」
息を切らせてはいるが、ジュークはすぐに現れた。
教えてやった『現在地!』をすぐに使っている。えらい。
「……なぜ、ジャランは泣いているんですか?」
「……あんまり気にしてやるな。色々あるんだよ」
「せめて聞いてくれよう……」
「うるせえな。それどころじゃねえんだよ」
「うう……ひどい……」
「班長。ご用件は?」
「おお、首尾はどうだ?」
「あ、情報収集の件ですね。
……北北西に魔石が集まる施設があることを聞き及びましてござる。にんにん」
「おお。流石だなジューク。
教えてやった『ござる〜ニンニン』も使いこなすじゃねえか。もう上忍だな。上忍」
「は、恐悦至極」
「……ジュークばっかり褒めてずるい、でござる。にんにん」
「ジャラン……おふざけも大概にしろよ?」
「なんでだよっ!?」
「……で、ジューク。
その施設まではどれくらいあるんだ?」
「そう……ですね。
歩いて3日、というところですね」
「ふうん。近えな。
……敵は?」
「恐らく……エルモアと同程度かと。
しかし、帝国も警戒を強めていることでしょうからもっと多い可能性もありますし、……気になる情報もあります」
「ほう?……気になる情報?」
「……帝国に勇者が現れた、と」
「マジかよっ!」
「うわっ!でけえ声!」
「ま、マジか……。
勇者……」
「え、ハンチョーって魔王だから、やっぱ勇者って怖えの?やられる?封印とかされちゃう系?」
「……いいなぁ……」
「……え?」
「……俺が勇者やりてえ……いいなあ……。
あの頭の丸い宝石みたいなのが付いてるやつ、被りてえ……。
あと、勇者にしか使えない魔法とか撃ちてえ……」
やっぱり前世でRPGと名のつくものならなんでもやりこんだ俺としては勇者ってのは特別だ。どんなに酷い状況だろうが仲間達の道を切り開き、どんなに挫けそうなことがあっても最後には魔王をブッチめる。……圧倒的主人公感……!欲しい!俺も、それやりたい!
「その、宝石みたいなやつ?
……被ればよくね?」
「は?」
「あと、ハンチョーも、モガトシウルトラボム撃てるじゃん」
「……おお?」
「それならよ……ハンチョーも勇者みてえなもんってこと?」
「……お前!天才かよっ!」
「うわっ!でけえ声!」
「俺!勇者じゃん!」
「……いや、そこは魔王でしょ」
「よし!この路線だな!勇者魔王モガトシ!
ジャラン!お前、上忍!」
「え、マジで!やったー!」
そこで俺の目に入る、明らかに一瞬だけむすくれたジュークの顔。
「……やっぱなし!ジャランは遊び人!」
「うえー!そりゃぁないよー!」
「言い得て妙かと」
「うおおーい!ジューク!ほんとに固定されちゃうから!俺!遊び人で固定されちゃうー!」
「班長……。実はもう一つ、お耳に入れておきたい情報が」
「お?なんだなんだ、改まっちまってよ」
「……ここ3日ほどで、ジャランは——また借金を作りました」
「……は?」
ゆっくりとジャランの顔を覗く。目が合う。
「……えへっ」
舌を出すジャランにしっかりゲンコツを食らわせてやった。
◇
ジュークの情報をもとに、ベルカを発つ俺達3人は、とりあえずテクテクと街から伸びる道を歩く。道と言っても、もちろん舗装なんてされちゃあいねえ。ただの土肌が見えてるだけの道。
こんなゆっくり歩いてるのはまだまだ人の目もあるし、モガトシダッシュにこいつら2人が付いてこれねえからだ。
そんな往路をいい機会と捉えてジャランへの説教をする。
「もうギャンブルは辞めるよう」
「あったりめえだろっ!お前の借金清算すんの2回目だぞ!」
「だって、……だって……真面目に聞き込みしてたら誘われたんだよう」
「バカかお前!カモられてるだけだろ!」
「……最初は勝ってたんだよう」
「常套手段じゃねえか!」
「……だってえ……」
「……次、ギャンブルしたら、指全部引っこ抜くぞ」
「まったまたぁ。いくらなんでも指引っこ抜くってヤバいっしょ……。え……、ハンチョー、その目……。
ま、マジなの?」
「大マジだよ」
「……ち、誓います。二度とギャンブルしません」
「武士に二言は……」
「……ないっす。
……ブシって何……?」
「……武士ってなあ、……アレだ。首狩り族のエリートだ。
首の狩り方にまで作法を持っていったすげえ奴らのことだ。……責任の取り方は、自分の腹を切ること」
「首狩り族ってのがすでに怖えけど、しかもエリートなの……?うええ……怖えよブシ……」
「遊び人卒業したら、お前武士な」
「いやだよう。どっちも嫌だよう……。
遊び人のままってのはカッコ悪いし、ブシになったらすぐ腹切ることになりそうだよう……」
「うるせえ。もう決定。
いいじゃねえか。武士かっけえし。
武士は食わねど高楊枝ってな。
それと、腹切ることになったらちゃんと介錯してやっから。
……日本刀欲しいなあ。どっかに落ちてねえかな。……後、ちょんまげな」
「班長、……忍者もちょんまげですか?」
「んにゃ、忍者はそういうのねえんじゃねえの?……でも、手裏剣は欲しいよな。苦無とか」
「しゅりけんに……
くない……ですか?」
「そうそう。
苦無ってすげえ名前だよな。苦しみも無いんだぜ?」
「……班長の指弾のようなものですか?」
「おお!あれもまあまあ苦しみ無いかもな!
やっぱ、大事なのは敵に騒がせることなく、音もなくブッチめることだな。……ということは、指弾は忍術……?あれ、……俺、大忍者?半蔵?」
「ハンゾウ……ですか?」
「そうそう、伝説の大忍者っつったらよ、服部半蔵だよな!」
「……なるほど」
「魔王勇者服部半蔵モガトシかぁ……。長えな。
それによ……3人組で世直しっつったらよ、水戸の御老公なんだよな」
「ミトノゴロウコウ?」
「そうそう。でもな……そしたら、ジュークは助さんか格さんだな」
「はあ、スケサンカカクサン……」
「おう。紋どころ出したり、敵をブッチめたりする。しかもかなり優秀」
「え、俺は?俺にもなんかある!?」
「ジャランは八兵衛だよな。うっかり八兵衛」
「うぉーい!『うっかり』って付いてんじゃん!
絶対良い名前じゃないじゃん!」
「良いじゃねえか、うっかり八兵衛。たまになかなか良い仕事するんだぞ?」
「『たまに』!?基本はうっかりじゃん!」
「うるせえ弦楽器だな」
「なにそれ!『弦楽器』ってもう人の名前でもないじゃん!……もういいっ!ハンチョーにはもうパンあげないっ!」
「ガッハッハ!悪いって!
機嫌直せよジャラーン!」
「それ!弦楽器の音じゃん!」




