3ー1
ムロガ帝国首都——イスキ。
元々はヘルガル王国の一都市であったこの街は30年前、初代帝王であり、魔晶石の発見者でもあるブロンの主導した反乱の中心地であり、現在のブロン帝の居城を擁する地でもある。
その居城にて、赤を基調とした服を纏い、同じく赤を基調とした玉座に座るブロン帝は、かつての本分である研究者らしからぬ眼光を宿した双眸を4人の赤鎧に向ける。
「……もう一度、言ってみよ」
「は、エルモアに魔王が出現いたしました!
魔王により、エルモア鉱山拠点は壊滅!
研究に協力していた魔族——ゴブリン達は、魔王に連れ攫われました!」
額を押さえて黙る帝王に代わり、口を開くのはムロガ帝国の重鎮であり、現在の帝国において魔晶石研究部門の長を務める、ヴォルフガルド大臣。若くして魔晶石利用兵器の開発で頭角を現した男だ。
「貴様らは、魔王に邂逅するもその蛮行を止めもせず、おめおめと逃げ帰ってきたと言うのか!?」
「……栄えある帝国軍人である貴様らならわかっていることだろうが……」
ヴォルフガルド大臣に続いて口を開くのは、口髭をたっぷりと蓄え、金の意匠が華美なまでに施された赤鎧に身を包む、軍事統括大臣のセルゲニコフ。
帝国の独立戦争時代から第一線にて剣を振るった武人らしく、頭髪が全て白くなった今も漂う気迫を前に4人の赤鎧は身震いする。
「……帝国武人に負けは許されん!
ヴォルフガルドの言う通り、逃げ帰ったのか!?」
セルゲニコフは腕を組んだ姿勢のまま、傅く4名の赤鎧を眼光鋭く見下ろす。
「いいえ!そのようなことは!
……ま、魔王には、致命傷には至らずとも、かなりの痛手を負わせ、魔族が住む森へと退いていきました!」
赤鎧の1人が慌てて反論する。
ニイ、と口を歪めるセルゲニコフは続ける。
「……ほう!
流石は我が帝国の優秀なる兵士!
……して、痛手とは?」
「か、か……片腕を落としてやりました!」
「私は……魔王の額を割りました!」
「……!私は、魔王の腹に風穴を!」
「わ、わた……!」
「ほう!
エルモアの拠点を壊滅させるほどの相手にそれほどの痛手を!
……陛下、今後の憂いを断つためにも、この者らを勇者に任命し、魔王を追撃させては?」
「……よい、セルゲニコフ。……任せる」
「はっ!
……ただちに任命式の段取りを詰めます!
おい、勇者ども!付いて来いっ!」
セルゲニコフはそう言うと、マントを翻し、赤鎧を連れて玉座の間を後にする。
玉座の間を去るセルゲニコフを目で見送ったブロン帝は一つ大きなため息を吐く。
「……ヴォルフガルド……、なぜだ……?
魔晶石は、魔族達にも納得してもらった上で提供を受けているというのに、魔王は……なぜ、このような真似を」
「さあて、なぜでしょうな?
他の拠点もそうですが……エルモアの拠点でもかなりの厚遇をしておったことは確か。
……しかし、魔王……。厄介なものが現れたものですな」
「……鉱山ごと全てが消滅するほどの大魔法……『モガトシウルトラボム』……か」
「なんともまあ、奇怪な詠唱ですな」
「超導兵器の全出力照射でもそこまでのことは……できぬだろう」
「だからこそ魔晶石の増産、超導兵器の改修及び増強が必要不可欠ですな」
「ヴォルフガルド!
……だからといって、魔族達の命を蔑ろにすることは許さんぞ!生前に同意を得た魔族が、老衰などでその生を終えた後に提供いただく……これだけは必ず守れ!」
「……もちろん、肝に銘じておりますとも。
ですが、王国は魔族からの搾取を続けていることは明白。対抗策を練らねばならないこともご一考くだされますよう」
「……ならん、……ならんぞ!
魔族の命とも言える魔晶石を欲のために使うことなど……!」
「……御意のままに……」
◇
やあ、俺、モガトシ!
訳あって魔王やってる18歳!
今、ベルカの宿でのんびり中!
……え?何してるのかって?魔族の解放はどうなったんだ!?って?
それがさあ、一応情報は集めてんだけど……
あ、そうそう、この前大騒ぎしたウドゥーン、な。
あれ、うどんじゃぁねえわ!
なんかよ、やっぱりあれはウドゥーンで、あれはあれで美味いんだけど、……カリーウドゥーンも全然カレーじゃない。……でも、美味かった!
あんな号泣したのももう1週間前かあ。
ほぼ毎日ウドゥーン食ってるけど、飽きてきたなあ。
でもな、この1週間もただ遊んでいた訳じゃねえ。
まずはジャランの借金を清算した。現金一括ニコニコ払いでな。……で、ジュークは毎日聞き込み。魔族の情報なんかを集めてる。
俺は……。いざという時のために体力温存!
でもなあ。なぁーんか、忘れてる気がしねえでもない。
「まぁだゴロゴロしてんのかい!布団干すからどきなっ!」
扉をバン!と開けて威勢よく入ってきたのは宿のおばちゃんのカレーナ。
ここ最近、顔を突き合わせるたびに文句ばっか言われる。
「そんなに暇なら教会の掃除でもしたらどうだい!?」
「あ!」
「うわっ!なんだい!?突然大声出して!」
「思い出した!俺、出てくるっ!」
教会には、訳知り女神のセフィアさんがいる!
魔族が捕まってる場所聞けば、教えてくれるかも!ガッハッハ!ジュークには盛大な遠回りをさせちまったな!……いやでも、若い時の苦労は買ってでもしろっていうもんな!
と、いうことで!
途中でぶらぶらしていたジャランを捕まえて、やってきました教会!バコンと扉を開いて……はい!俺、入場!
「おおーい、セフィアさーん?……いるかい?」
「えっ!?……誰!?現地妻とか!?
……くぅー!何でハンチョーばっかり……!」
「そんなんじゃねえって!」
額にズビシとチョップをお見舞いする。
「……あれ?
セフィアさん、いねえのかな?」
『……お、おります、……が……』
「おお!いたのか!
早くあの白いとこで話そうぜ!」
『あ、あの……モガトシ……?
その人……誰?』
「あ、コイツはジャラン!」
「ジャ……ラン……?」
「おう」「え、ハンチョー?誰と話してんの?」
キョロキョロするジャラン。あれ?コイツにはセフィアさんの声が聞こえないのか?まあ、そんな俺にも今のところ声しか聞こえないんだが。
『……わ……私、その名前、嫌い!』
「うわっ!……え?なんで?」「え、なんでって言われても……」
『なんかもう、弦楽器の音みたいで嫌いっ!』
「……ええー……」「……え……なんなの……?」
「お前の名前、嫌いだって」「……へ?突然の暴言……」
「確かにジャランって、ジャラーンって感じだもんな」「い、意味わかんないっす……」
『っ!もう嫌って言ってるでしょ!』
「おお、ガチギレ……」「え!?ハンチョーガチギレなの!?俺死ぬの!?今!?」
「もういいよ、あのさ……」「え!?『もういい』って何!?セルフ!?セルフで死ぬの!?」「うるせえな」「ひいっ!なに!?なんで俺怒られてんのっ!?」
『嫌っ!なんかもう、動く弦楽器みたいで嫌っ!生理的に無理っ!』
「わかったわかった!とりあえず落ち着いてくれ!
……あとお前はもう喋んな。
セフィアさんには聞きたいことがあって来たんだ!」
『え、ええ、……そうね。
他ならぬモガトシの頼みだもの。答えられることには答えるわ』
「あ、そう?
……じゃあ聞くけどよ、魔族ってどこに捕まってるんだ?」
『魔族達は……結構いろんなとこに捕まってるわ!近くだと、あっちね!』
姿は見えねえまんまだが……なんとなく、ズビシ!と指を差してる姿を連想させるような、そんなセリフだった。
……まあ、見えねえんだけども。
「……あ、あっちか!
って、それどっち!?距離は!?」
「えっと……大体北ね!
距離は……0.00023宇宙マイルくらい!」
「え?……宇宙マイル?
……それ、何キロくらいなの?」
『キロ?
……キロだと……0.00000023キロ宇宙マイルよ?』
「……」
『……あの、モガトシ?
その弦楽器が嫌すぎて……
もうお終い?それなら帰るわね?今度は1人で来てね?』
「え、ちょま……」
「……」
「セフィアさーん?」
ほんとに帰りやがった!
……なんだよ……大体北とか宇宙マイルって……?
とりあえず、しょげてるジャラン(ちょっと泣いてる)の肩をなるべく優しく叩いた俺は教会を後にした。
……ジュークだけが頼りだぜっ!




