2-23
ギルドのカウンターに肘をつき、毛のない頭を抱えるのは青ヒゲハゲと勝手に呼ばれるこのギルド唯一の職員の男。
彼がこのようなポーズを取るのも無理はない。
目の前の魔王を名乗る大男は、彼との会話の中で帝国兵達の拠点に辿り着く方法を思いつき、実行し、山を消しとばしてきたという。
……これでは、協力者どころか、裏で糸を引いたヤツと睨まれてもしょうがない。
……青ヒゲハゲは顔を上げると、苦虫を噛み潰したような顔のまま、小さく口を開く。
「……それで魔石を追った……と」
「そうそう。青ヒゲハゲの一言で俺、ぴーんっときたってわけよ」
「……捕まっても絶対言うなよ?それ」
俺たち3人の顔を見ながら念を押してくる青ヒゲハゲ。
俺はジャランの顔をしっかり見ながら言う。
「そうだぞ?迷惑かかっちまうからな」
「うおいっ!今のところ一番口軽いのハンチョーだかんな!?一番反省してっ!」
「そうけんけん言うなよ。……な?ジューク」
「……班長。今回ばかりは……」
「……しかしなあ……。なんだってお前らはそんな旅を?」
「魔族に好き勝手するヤツを目いっぱいぶん殴って、魔族を解放する」
「……魔王みてえじゃねえかっ!?」
「おう。
俺が怖がられりゃ、魔族は安心できるだろ?」
「……は?」
「……班長……」「……ハンチョー……」
あ、いいこと言い過ぎたかも。ジュークとジャランが涙目。
「……ま、山が消し飛ぶとは思わなかったけどな!
ガッハッハ!」
「……でもよ、この、元門番のお前らは俺と同じただの人間だろ?こんな無茶苦茶に付いてって大丈夫なのか?」
「俺?……だってよ、ハンチョーはさ、アホだけどいいハンチョーなんだ」
「私は、……この人の人柄に惚れたんです。
いらないと言われても付いていく所存。……まあ、少々のアホ成分はご愛嬌かと」
「おい、今アホって言ったヤツ、後でケツバットな」
「あ、ジュークでーっす。ジュークが言いましたー」
「いえ、ジャランです。ジャランだけが言いました」
「……ダッハハハ!
いやぁ、いいねえお前ら!
お前ら見てると、人間とか人間じゃねえとかどうでも良くなっちまうな!」
「……いや、俺は人間だが?」
「……」
「人間初の魔王だが?」
「……」
「ま、まあいいさ、人間だろうが魔王だろうが、俺はあんたが気に入ってんだ!」
「俺も青偽ハゲのことまあまあ気に入ってるぞ!偽ハゲだけどな!」
「『ヒゲ』を取るんじゃねえっ!」
「なんなんだよ。突然大声出すなって。そんな重要でもないだろ?」
「重要だよっ!俺からこの青ヒゲ取っちまったら何が残るんだよっ」
「……ハゲ?」
「……そのとおりだよっ!ちくしょーめ!
今後忘れたらただじゃあおかねえからな!」
◇
「さてさて、地図も見たし。……次はっと」
「……ハンチョー」
「何だジャラン、どうした?」
「……忘れてるもんねえか?」
「え、……いや?何も忘れてない」
「……ウドゥーン」
「あ……」
「ウドゥーンだよっ!……もうっ!絶対忘れてると思っ——」
「はいはい、行きましょう」
さっとジャランに脇固めをキメるジューク。もがもが言うジャラン。
「さ、連れてってください」
……俺、道知らない……なんて、……言えるわけないじゃないっ!
「い、いよーぉし、ついて参れー!」
腕を元気に振って歩き出す俺。
ジュークの脇固めから自由になったジャランに
「え、そっちじゃなくね?」
と、すかさず突っ込まれ……
「う、うるせぇ!
俺は今肉の気分なのっ!」
「肉ウドゥーン食えばいいじゃん……」
「に、肉うどん……だと……」
「なんか、美味いって噂なのに……」
「……班長。僭越ながら、私が先頭を歩いても?」
「……き、許可する」
俺はこの時、内心では小躍りだった。
だってよ、ウドゥーンって、うどんだろ!?
そして、俺は前回そこに辿り着けなかった。カレーうどんが食いたかったのに、だ。……それも、道に迷ったことが原因という、コイツらに話すのも躊躇われるアホな理由で、だ。一時は墓まで持っていくと誓った俺の秘密。
……それを、ジュークが連れてってくれる!……多分コイツのことだ。俺のこのアホな理由の全てを察しているに違いない。なのに、だ。なのに、連れてってくれるという。なんという、なんという暁光!もうジュークに足向けて寝られない!
んもう!カレーうどんと肉うどん!どっち食おう!?……ど、どっちも、食っちまうか?
いや待て、ジャランに勘付かれる可能性があるな。
ジャランの野郎は俺が前回カレーうどんを食ったと思ってるだろうから、ここは肉うどんか……?いや、カレーうどんは捨てがたい。うむむ。
赤鎧が数人で歩いてる。すれ違う。談笑に夢中だな。
……いや、俺の頭の中もうどんでいっぱい。ほっとくに限る。うん、ほっとく。アイツらも俺に気付いてないだろ。
ジュークが止まる。すわ、うどん屋か!
「……班長……」
「うどんな!入ろう!食おう!」
「……あの」
「……残り……2食、と」
「ななな、なにぃぃぃ!」
……う、嘘……だろ。
やっとの思いで……お、俺のうどんが……し、しかし……コイツらだって楽しみに……、は、半分こにするか?そうだ!半分こだ!そうすれば3人で食える!て、天才かよ……。俺自身の頭脳にとんでもない可能性を感じたぜ……。
いや、……待てよ?
俺らはそれでうどんを食えるが、……店側は何て思う……?
迷惑なんじゃないか?……二度と来るなって言われちまうんじゃねえか?俺が店主だったら言うね!絶対!「俺は、お情けやら何やらでうどん打ってるわけじゃぁねえんだよっ!おとといきやがれっ!」……って。そうなったら……この一食のうどんのために一生分のうどんを犠牲にするかもしれない。……くそっ!よくできてやがるぜ……。それならば……食えるのは2人……。これは変わらねえ……。
でもよ……。コイツら、俺がこの前うどん食ったと思ってるんだよな……。……ここで、俺が食うなんて、言えるか?いや、言う。俺は断じてうどんを食う。……よし、……言うぞ……
「お……」
「お?」
「俺、は……」
「——俺のことはいいっ!……お前ら2人で食えぇぇ……俺の、……俺の屍を超えていけぇぇぇ!」
「えっ!ハンチョーガチ泣きなんだけどっ!?
……でもそっか!じゃあご遠慮なくー!」
「おい!ジャラン!」
「……なんだよ、ジューク?」
ジャランの肩に手を置き、首を振るジューク。
「お、おい……まさか……」
「……その、まさか、さ」
「お、お前、……なんてことを……!や、やめろっ!」
「……班長!
ウドゥーンは、今度3人で食べましょう!」
「っ!……ジュークっ!……お前ってやつはぁぁぁ!」
「ジュークっ!お、お前ってやつは!……もうっ!俺のウドゥーンがぁぁ!」
第二章完結です!
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第三章も引続きよろしくお願いします!




