2-22
「さて、行ってくる」
「またなー!」
俺、ジャラン、ジュークの3人はゴブリンの村を出る。
ジュークだけがあれこれヨグと話してるみたいだが。……大袈裟な奴だ。どうせすぐまた会えるってのに。
さて、とりあえず俺らの向かう先は、『俺にとっての初めての人間の街』
今の今まで街の名前すら知らなかった俺は、ジャランからベルカという名だと聞いた。
「ってかさ、ハンチョー、街の名前も知らねえのな!」
「うるっせえなあ。
知らねえもんは知らねえ。……だろ?」
「ふぉっふぉっ、ハンチョーよ。あの街の名はベルカじゃ。
……元、王国最南端の……な。
つっても、エルモアの反対の隣街までかなり空白地帯が広がってたんだけどな」
「南端とか言われても……どっちが南なんだよ?」
「え!……それも知らねえのっ!?……太陽ってわかる?」
「そりゃぁ、な」
「……太陽が一番高い時の方が大体南じゃよ」
「北半球ってことか」
「……北ハンキュウ?……え、なにそれ?」
「私に聞くな。……班長、ハンキュウ、とは?」
「あ?……いや、星って丸いだろ?で、丸の北半分の上に俺らはいるってこと」
「星ってあの星?……空の?」
「ここも星の上だろ」
「へ?……何言ってんの?
あんな丸いものの上なんか立てねえじゃん」
よし。諦めよう。
俺も聞き齧りの知識しかねえし。
そういうのは学者センセーに任せりゃいい。適材適所。
「……班長。地図ならギルドにあるかと。
あとで見せてもらいましょう。魔石の売掛金もまだ受け取ってないんですよね?」
ジュークの優しさが目に染みるぜっ!
◇
「青ヒゲハゲー!
いよっす!地図見せてくれー!」
「おお。
……久しぶりじゃねえか?
で、地図だな。……待ってろ」
「……班長。お金もですよ」
「あっ!そうだった!金も!」
「おう。準備してるぞ」
カウンターの奥で背を向けてガサゴソやる青ヒゲハゲを眺める。……後ろから見るとただのハゲだなー。
「ほれ、地図と……金だ」
「ありがとう!ハゲ!」
「……おい。この立派な青ヒゲのことを忘れんな。
……あと、ハゲじゃねえ。剃ってるだけだ」
「なんだ、偽ハゲか。
……青ヒゲ偽ハゲにする?」
「……なんだそりゃ。
いいから地図見ろよ。あと金の確認な」
呆れ顔の青ヒゲハゲは地図を開き、金の入った袋を置く。
「じゃあ見させてもらいますよっと……。ってなんじゃこりゃ?」
開いた地図には紙いっぱいに森、山、川、池、湖……と書き込まれちゃいるが、……やっぱり、というか海がない。
「これは、ベルカ周辺図ですね」
「あ、世界地図じゃないのね」
「ぶはっ!セカイ地図ってなに?世界全体の地図ってこと??
そんなもん作れるわけないじゃん!」
いや……前世にはちゃぁんとあったんだぞ?なんて言ったら……まあ、めんどくせえことになる気がするからやめとくか。
「で、この地図はどこからどこまで描いてあるんだ?」
「ええと、この中心がベルカの街です。……これがエルモア。……イスキは……ここですね」
ジュークは地図中央より左上に指をさしながら教えてくれる。
「この地図って上の方が北であってる?」
「はい」
……セフィアさんめ……。『イスキは北』って言っておいて、ほぼ北西じゃねえか。
「……この地図の範囲外ですが、北東方向に王都があります」
「ちなみに、俺らがいた門はベルカの南門な!」
南っつったら山とか森ばっかりだった。
というより、地図の半分から下はほとんど山とか森だ。
……ベルカに帰った時、ジャランの言う南門をくぐったこともあり、ゴブリン達の村もベルカより南のこの森の中だということがわかる。ベルカを若干左に見て進んできたから南西方向だな。……で、オーガの里も概ねこっから南ってことか。
「なるほどなぁ」なんて言いながら地図を見ていると、青ヒゲハゲが口を開く。
「……そういや、よ。
エルモアの廃鉱山が消えちまったらしいぞ?山ごと爆発とともに突然に消えちまったんだと。……眉唾なんだが、魔王の仕業って噂だぜ?」
「そ、……それは、空恐ろしい話ですね。
……それで魔王のその後の足取りは?」
開きかけるジャランの口を抑えながらジュークは青ヒゲハゲに聞き返す。俺はなんとなく口笛でも吹いてるか。ひゅーひゅー。
「どうもな、わからんらしい。帝国も魔王を討つって躍起にはなってるらしいが、足取りがわからんのならなぁ」
「……討伐隊の規模は?」
「大部隊ってわけじゃあねえらしい。……まあ、せいぜい数十人ってところじゃねえか?なんだ、お前らも討伐に加わるとか?」
「いえいえ、そんな、恐れ多い」
「ははっ、ちげえねえ。
相手は山を消しちまうバケモンだ。近づかねえが吉だろうさ。……ただ、エルモアはこっから近所だからな。こっちには来てほしくねえなってよ」
「もう、離せって!
青ヒゲハゲのおっちゃんよお!
……魔王って言っても、そんな悪い奴じゃねえかも知れねえだろっ!?」
ジュークを振り払ったジャランは大声で言う。あーあ。あいつ、怒られちまうぞー?
「何をそんな怒ってんだ?」
「す、少なくとも俺は、ちょっとスッキリしたぜ!?
帝国のバカどもをぶん殴ったんだからな!」
「……でけえ声じゃ言えねえが、その点は俺もわかる。
でもよ、それがこの街に向けられねえとは限らねえだろ?」
「……っ!でもよっ!」
さらに食いつこうとするジャランの肩を後ろから掴む。
「いいって。……ジャラン」
「ハンチョー……!」
「いいんだ」
「でも、……でもよ!
俺!ハンチョーが悪く言われるの、嫌なんだよっ!
……あ」
「あ……?」
ジュークが額を押さえる。
青ヒゲハゲは口を開けたまま止まる。
「……いや、そこでなんでお前の班長の話になるんだよ?お前の班長を悪く言ったつもりはないぞ?」
「そりゃあよ、」
「……俺がその魔王だからじゃね?」
「……」
「……」
「……」
「あ、でも、人間とか食わねえから。うまそうじゃないし」
「……」
「……」
「……」
「……あ、これ、秘密な?」




