2-21
「ハンチョー……俺には、井戸掘りは難しいよう……」
「そうか!……じゃあジャランはジュークと草むしれ!
俺が井戸掘る!」
「モガッチ!ウチは何すル!?」
「ゴブ子は父ゴブと今朝獲ったツノウサギ捌いてくれ!指切るなよ!?
……あと、モガッチじゃねえ!」
「ワかったー!お父さーン!捌き方オしえてー!
……あと、ナムだよー!」
走るゴブ子を見て、井戸だった穴に飛び込み、そいっと掘る。……間違ってもモガトシドリルは使わない。地の底まで行っちまう予感がするからな!溶岩とか怖えし!
そいっと土やらをすくって、井戸登って、ぽい。
また降りて、そいっとして、登って、ぽい。
5回やったら水がジワリ。とどめにもう一回そいっ。
「おーい!ジャラン!
井戸終わったぞー!」
「ええっ!?もうなの!?」
「……班長のすることにいちいち驚いてたら身がもたないぞ?」
「草全然終わってねえじゃん。じゃあ俺もやる」
「うえーい、さすがハンチョー!
……ここの草さあ、結構茎太くて、根もしっかり張っててさ。むしりにくいんだよなー。腰痛くなりそう」
「どれどれっと」
腰を落として草を握る。ぶち、ぽい。ぶち、ぽい。
あれ?むずい。引っ張ると「そこじゃねえんですけどー?」ってところで千切れちまう。
「ちょ、ハンチョー?そこ、長すぎじゃね?
もっとむしらなきゃじゃね?」
「……うるせえ」
もう面倒だ。手刀で地表ごと剥いでやろうか。
「ほらほらー!これがお手本ですよっと!
草はこうやってむしるんじゃぞ?
ぶわっはっは!」
俺は無言で右手を立てる。
「班長。……ダメですよ?それは」
「ぐうぅ……。だって、ジャランが煽ってくる……!」
「我慢です。……適材適所と言うでしょう。
班長は、邪魔な木を抜くとかどうでしょう?」
「お、それなら俺にはできる!ジャランにはできない!」
「そうそう。適材適所です」
「うおお!行ってくるぜ!草は任せた!」
「ジュークお前……ハンチョー使い上手くなってね?」
「……適材適所、だ」
「……でも草、まだまだたくさんあるくね?」
「……お前が班長を煽るからだろ?」
「……うへえ……」
「手を動かせ」
「ほらほら!木、抜けたぞー!どうだ、見たかジャラン!」
◇
「フふ……」
「ドうした?ナム?」
「モガッチ、おもしロいね」
「……アあ。
……すごイお方だ」
「スっごい力持ち」
「アあ。
……内臓を傷ツけないように」
「ウん」
真剣な目でツノウサギを捌くナム。
そんなナムを見るヨグ。
こんなゆっくりとした時間が彼ら親子に流れるのは、いつぶりだろうか。もう、戻ることはないと諦めていた故郷の森で。
そんな親子に比較的体力の戻ったゴブリン達が近づく。
「……ヨグさん。オれ達も、なにかスること、ないか?」
「オまえ達……まだ休んだ方がイいんじゃないか?」
「イや……、あの方は、オれたちも『我々』ダと言った。
オれたちも、ナにかしたい」
「ソうか。……ムりはするなよ?
……ナム。聞いてキてくれるか?」
「ウん!イってくる!」
「……カらだは、ドうだ?」
「オれは、大丈夫。……アんたのおかげだ。ヨグさん」
「ソうだ。オれも、あの時、ヨグさんが飯を分けテくれなかったら今頃……」
「ソれは、俺だけじゃ、ナい。
俺だっテ、そうやって、生かされてきた。
……ソれに、お前タちだって」
「モガッチー!みんなモなにかしタいってー!」
「……おっし、火、起こせるか?
兜鍋も洗って、湯を沸かしてくれー!
……あと、モガッチじゃねぇー!」
聞こえてくる大声。
「ふふ」誰ともなしの笑い声。
「……サて、我らが魔王様は、我らに、生キろと仰せダ」
◇
井戸を掘り、草むしりして、木を抜いて。
ゴブリン達に聞きながら道を固め、家を建てる。
農耕地を決め、耕す。
その間も栄養のある飯を食う。
みるみる活気を取り戻すゴブリン達。
……あんなことがあったってのに、強え奴らだ。
ここに着いて一週間。
ちゃあんと寝ぐらのある村ができてきた。
俺はこいつらがすっかり気に入っちまった。
ちょっと、なんて表現できない過酷な10年間を過ごして、それでも前向いて、地を踏み締めている。
「もう、大丈夫だな」
「ナにからナにまで、タすかりまシた」
「……よせやい。
俺がしたくてしたことだ」
そう言うと、父ゴブは笑う。
この一週間何度も何度も繰り返したやり取り。
それも今日で終わりだ。
「モう、行くのでスね」
「ああ。
……他にも捕まっている奴がいるなら助けてえからな。
ゴブ子とか、他のみんなにもよろしくな」
「……娘は、ナムは……、ツいて行きたいト……。
我々、ゼんいん、心は同じでス」
「だから父ゴブとだけ話してるんじゃねえか。
……連れて行けねえよ」
「……」
「また……来るから、よ」
「オ、オそれながら、申しまス!
ワ、我々も!……魔王様の眷属かト!……思っテいるのでスが……チがうのでスか?」
「違えよっ!
……なんだよ眷属って。
普通に仲間だろうがよ、そこは」
「……ソ、ソこまで、仰ってクださるのナら!」
「……だからよ、お前らには、俺たちが休める場所になって欲しい。
これから救う仲間達のためにも、な」
「……ナ、なんト」
「な?……頼む。
……今のところ、お前らにしか頼めねえ」
「グぅ……、ソこまで言わレますと、このヨグ、了承する他アりますまい……!」
「おう。頼む。
みんなを守ってくれ。ヨグ」
「……ちょっと待ったぁー!」
「うおっ!ジャラン!うるせえ!」
突然乱入するジャラン。
ジャランの後ろからはやれやれ顔のジュークとゴブ子。
「ハンチョー、俺、言いてえことがある!」
「お、おお。……聞く」
「ナムちゃんはどうするんだよぉー!
紅一点だぞ!……付いてきたら、もしかしたら……、俺に惚れちゃうかもしれない枠なんだぞっ!」
「ウチ、ジャランには惚レないよ?モガッチいルし」
「いや、それは時が解決するはず!
おおーい、ハンチョー!頼むよう!」
「すみません班長。……止めたのですが」
「はは。……いいってことよ。
……ゴブ子はどうするんだ?」
「ウチ?……ウチは、行かなイっ!」
「ほらー!ナムちゃんもこう言ってるしいいだろぉー!?ハンチョー!
……ん?……って!ええっ!?」
「ウチは、行きたいケど、行かナい」
「……うウん、……行ケない」
「モガッチの考えてるコと、聞こエちゃったかラ。
……ウチは、ウチの、ヤれること、スる」
「ぶ、ブヒィイイイー!ナムが、りっパなことヲぉぉー!」
「うおっ!?突然泣くなよ!?」
「シかしぃー!これハ、耐えらレませんー!」
わんわん泣くゴブ父——ヨグはゴブ子——ナムに抱きつき頭をわしゃわしゃ撫でる。
……その様子を完全に期待を裏切られた顔で眺めるジャランがぽそりと呟く。
「……俺の、ナムちゃんが……」
ジュークは無言でジャランの後頭部をはたいた。




