2-20
とんでもないものを、見てしまった。
とんでもないものに、出くわしてしまった。
奴の気まぐれか、
全くわからないが、
なぜだか生かされた。
ものすごい大魔法に、エルモア鉱山拠点……
拠点どころか鉱山自体の消滅……
そして、あんな巨体なのに、目にも止まらないスピードとパワー……
……最初の1人が、突然首を飛ばされ絶命した次の瞬間、世界が回った。
気づけば、あの魔王に捕らわれ、縛り上げられていた。
目が覚めると目の前には、内臓を撒き散らして下半身と上半身に分けられた仲間の死体があった。……それに、魔王の足はおびただしい量の血に濡れていた。……つまり、踏まれただけでああなってしまう、ということ……か。
背筋に冷たいものが伝う。
つまり、あの魔王は、我々の命なんか、片手間に潰せるということ。
それも、魔族に手を出したから、というだけの理由で。
「なあ、……アレは、……一体なんなんだ?」
「わ、わからん……」
「……いま、わかるのは、
……なぜだかわからんが、生かされた、ということだけだ」
「……これ、報告したら……どうなるかな」
「……」
「その魔王を討伐せよ!……か、おめおめと逃げ帰りおって!……ってこだろうな……」
「……もう、あんなのに会いたくない……」
全くそのとおりだ。
絶対にそんなのはごめんだ。
「でもよ……。
他の拠点にも……いるだろ?……魔族」
「……ほっといても、あっちから来る、……な」
「もしかして……もう、帝都なんか消えてたりして……
いや!……忘れてくれ。……悪い冗談だった」
「いや……その覚悟だけはしておこう。
……帝都が、ただの更地になっているかも知れないって」
「……恐るべき魔王……
……恐るべき、大魔法モガトシウルトラボム……」
「あんな、簡単な詠唱であの威力だ……
フルに詠唱されたら……」
「……やめろ……
聞きたくない」
「……とにかく……
今は、帰ろう……」
「ああ……。
……まだ、残っているなら、な……」
4人は、それも言い過ぎではないと感じてはいたが、とにかく帰るしかない。
帝都イスキに。
超導兵器に守られた、我らの故郷。
無事に帰られたとしても、……報告をしなければしないで後できっと懲罰を受けることになる。軍規違反で最悪斬首。よくて10年単位の牢獄生活。……報告をしたらしたで、敵前逃亡で斬首。
魔王邂逅のショックか、この先の心配か。
足取りはひどく重い。
「なんでこんなことになったんだ……」
吹き飛ばされた木が多く残る道を4人はボロボロになった精神という足枷を嵌めたまま歩く。……イスキへ。
◇
エルモア鉱山が突然にこの世から姿を消して——7日後。
御者を務めるジャランは、「ここダ」と言う声を聞き、ゆっくりと馬車を止めた。
「あのさ……ここ?
ここに住んでたの?」
ジャランは馬車の荷台に顔を突っ込んでゴブリン達に聞いた。
……無理もないよなぁ。
もう、なんか、村ってよりさ……
「いやいや、それはないっしょ!
……綺麗な言葉で言ってもこれ、廃墟以下よ?」
「……ジャラン……。
もうちょっと、……こう、歯に絹的な……さ」
「はにきぬ?
はは!おいジューク!ハンチョーがまたわけわからないこと言うんですけど!」
「……ジャランには後で言っておきます」
「……頼む」
「しかし、
……ジャランの言い方も、わからないではないですね」
ジュークは俺に耳打ちをする。
その点については俺も同意なんだよ。……でもな。
「ここダ……間違いナい」
声を発したのは父ゴブ。
……俺は、声にはあえて反応せず、周囲を見渡す。
転がる、切断面の綺麗な……腐った木。
石を並べた……なにあれ。
多分、一生懸命集めたんだろう……ガラクタみたいな……なんだかわからないもの。
これらが好き放題に伸びた草や木の合間から顔を覗かせている。
なんかさ、……片付けが済んでない素人キャンプの跡地って感じ。
「えっと……。
……前にも聞いたかもしれんけど、どれくらい前に捕まったんだっけ?」
「10年ほど前、デす。
村民、全員が、イっせいに捕まっテしまっタ。
……ダいぶ、減ってシまいましタが」
「……10年……」
「ハい」
「……オ父さんと、まタ難しい話?」
「あ、ゴブ子」
「モガッチ……?ウチはゴブ子じゃないよ?ナムだよ?」
「……うん。
ゴブ子はさ、ここのこと覚えてるのか?
……あと俺はモガッチじゃねえ」
「うウん。
あんマりおぼエてない。……あと、ナムだヨ?」
「父ゴブはどうするつもりなんだ?」
「エ、……そうでスね。
……ミなで力をアわせて、こコに住もうかト。
……ワたしは、ヨグ、とイいます」
ヨグの声に、いつの間にか馬車を降り、周りで車座になって座り話を聞いていたゴブリン達がうなづく。
なんとなく目があったジュークは、「お好きにどうぞ」と目で言っている。
……ジャランは落ちているガラクタを拾って、眺めて……遊んでいる。
「よし、わかった
……なにからする?」
「……エ?」
「そ、ソうですね、
まずハ……井戸を直すか、作り直しマす」
「わかった。……ジャラン!お前は井戸!」
「うわっ!でっけえ声!
井戸!?……わかった!」
「……エエ?」
「……次は?なにする?」
「いやいや、魔王様はお忙しイでしょうから、我々で……」
「なんだよ。
……俺らはその我々に入ってねえのか?」
「しかシ……」
「とっくに俺は、『我々』だと思ってたんだけどな」
「ヨグさん。……班長は言い出したら聞きませんよ?」
「……あ、アりがとう……ゴざいまス……」
「礼を言われる筋合いもねぇ!
俺は俺のやりたいことをするだけだ!
……それがたまたま、『我々』の必要なことと重なるだけなんだからな!
……で?……次、何する……?言わなきゃ……勝手にやるぞ?」
「え、エえと……」
「おめえらもおめえらだ!座ってぽけっと俺らの話聞いてねえで意見を言うとか、やること探したらどうだ!?ホレ!動け!」
「あ、お前らまだ身体が万全じゃねえんだから俺がいいって言うまで力仕事はすんなよ!?」
「あ、それとな、俺……と、ジュークは……とりあえず草むしりとかするから!なんかこうしたいとか決まればちゃんと共有しろよ!?以上!」
俺はそれだけ言うと走り出した。
ジュークには「お前は向こうから草むしれ!」とだけ言って。
……身体がむず痒い。
……なんかもう、感謝とかするんじゃねえって。




