2-19
「……ふう。
コレでひと段落、だな」
俺たちは、あの後すぐに赤鎧共を解放し、ゴブリン達を乗せた馬車と共に移動していた。
更地になってしまったエルモア。
その周囲にも爆風は届き、木が倒れるなどの爪痕を残していたが、少しずつ木も増え、次第に森の中の道に入る。木々を通る風が心地いいが、頭上を覆う木々のせいでやっと出た星あかりさえなく、見通しはかなり悪い。
「それにしても、……とんでもない威力でしたね」
「な。……あんな爆発しちまうなんて、ちょっと予想外だった……」
歩きながらジュークと話していると御者席からジャランも口を挟んでくる。
「……鉱山ごとなくなっちゃったもんな!」
「ただの更地になってしまいましたからね」
「ハンチョーさあ、あれ、魔法……?」
「いや、魔石を投げたんだ。
ちょうどあいつら、魔石しこたま集めてたから」
「やっぱり……魔石の話した時、悪い顔してましたもんね……」
「俺、ハンチョーって魔法使いだったんだーって思っちゃった」
「確かにな。
しかし、あれが魔法だとしても、あんなすごい爆発を起こすものなんて聞いたことないけどな」
「え、……魔法なんて使えるやついるの?」
「え」「え」
「ん?」
「ハンチョー、使えねえの?」
「……意外です」
「なにそれ、お前らも使えるとか?」
「……そりゃあ」「と、いっても生活魔法程度ですが」
「なにそれ、生活魔法……?」
「ええ?……ハンチョーそのレベルなの?」
「……この先、明かりがないと進めないな。
班長、この辺りで野営しましょう。彼等も消耗しています」
ジュークは馬車を見て言った。
ああ、ゴブリン達か。……そういや、痩せっぽちだらけだもんな。
「もう、フツーに火を起こしていいんだよな?じゃあ、俺は薪集めて乾かすよ」
「わかった。私は水を用意しよう」
「え、なにそれ?
薪を乾かす?
水を用意する?川?」
「……班長は、何か食べ物を用意してください」
「え、……見たいんだけど……」
「……小さいのでいいですからね?」
「わぁってるって!獲りすぎて腐らせるのは失礼だからな!
……ほら、早く魔法!」
「……早く行ってください」
「……超速で獲ってくる」
◇
森に入ってテキトーなツノウサギと木の実をちょちょっと獲って戻った俺は、ちょうどジャランが魔法を使うところに出くわした。
「おぉぉ……、風よ……、大地よ……、この薪を、乾かしておくれ!……ジャランブロー!」
拾った枝だろう木の束に伸ばしたジャランの両掌から暖かく乾いた風が!ブオッと出ている!
「す、すっげぇ!
今の何!……詠唱ってやつ!?すげぇ!」
ジャランは両手を突き出したまま仰け反る。
「はっはっは!ハンチョー!
どうだ!俺の魔法は!」
「すげぇ!見直した!今まで舐めててすんません!弟子にしてください!」
「はっはっは!よきにはからえ!」
大声で笑うジャラン。その向こうにはジューク。
ふと、ジュークと目が合う。
その指先を伸ばしたジューク。
……なんと!指先から水が出ている!
「うおい!なんだそれはジューク!……手品?」
「え、……魔法です」
「まさか……無詠唱ってやつか!?と、とんでもねえぜ……。」
俺は生唾をごくりと飲む。
ジャランとジュークを見比べる。
……あっちの方が優秀そうだ。
「ジャラン、やっぱり俺、あっちにする」
「え、ちょ、ちょっと待てよハンチョー!」
「いや、待たねえ」
「ジューク!俺を弟子にしてくれ!」
「え?……なんの話です?」
首を傾げるジュークの指からはまだ水が出ている。
「それだよ!無詠唱魔法!」
「……生活魔法に、詠唱なんて要りませんよ?」
「え……」
ゆっくり振り返る。
ヒューヒューと鳴らねえ口笛を吹いてるジャラン。
「……ジャラン?」
「な、なにかね?……弟子ハンチョー?」
「……俺が、寛大な男でよかったな?」
「……はい、……そう思います……」
◇
「メシだぞ。食えるか?」
馬車の幌を開け、中のゴブリン達に聞く。
返事もまばらなほど衰弱している。
何人かは自力で馬車から降りていくが、大半が座り込んだままだ。
「なんかよ、りんごみたいなやつ見つけたから茹でたんだ。食ってみろよ」
赤鎧から剥ぎ取った兜の鍋の中には茹でてくたくたになったりんご的な実。……ち、ちゃんと洗ったぞ!?
「オオ……オーガの若者……、イや、魔王様……あ、アりがとう」
「オ父さん……」
娘の方はわりかし元気そうだけど、父親の衰弱はひどかった。こんな状態……いや、あん時は生傷だらけだった。……つまり、今より酷い状態で、コイツは『収穫』に連れていかれた娘を気遣った。
「オ父さん、大丈夫、かナ……」
「大丈夫さ。
……お前の父ちゃん、すげえんだからよ」
「オ……、あ、りんゴ?……あマい……」
「お前も、ちゃんと食えよ?」
「ウん!ありがとう、おじちゃン!」
「それ、前から言おうと思ってたんだがよ、俺はオジちゃんじゃねえっ!まだ18だ!」
「え、おじチゃん、ウチと同いドし!」
うえっ!?ちんちくりんのくせに!
「班長……少なくとも30代くらいかと……」
ま、まあ……精神的に熟してるからな!
「え、ハンチョー……年下なの……?俺もジュークも21!これからもよろしく!」
頭に新しいタンコブ作ってるくせに……!まあ、よろしく!
心の中だけでそれぞれに反論?しておく。
ジャランの「よろしく!」に親指だけ立てながら。
でもな、これだけは言っておかねえと。
「俺は、おじちゃんじゃ、ねえっ!」
「あ、ソっか、……だんナ様!」
ころっと表情を明るくするゴブリン娘。
……いやしかし、それは困る!
「……おじちゃんでいいよ?」
「だんナ様!」
「オいオい……魔王様をあんまり困ラせるんじゃなイ」
「お父サん!これ!コレに決めた!ウチのだんナ!」
「魔王様をコレあツかいするんジャない……」
「あの、俺、嫁さんいるんで……」
「ジャあ、第二夫人!」
「オお……、魔王様の第二夫人トは……、いいポジションにツいたな……」
「いやいやいや……お前らは!
……まず、自分の生活を取り戻すべきだ」
「セいかつ……?」
「そ、そうだぞ?
……村とか、あるんだろ?」
「ムラ……」
「そう、……それに……
俺は、まだやらなくちゃなんねえことがある。
色恋を後回しにしなきゃなんねえほど、大事なことなんだ」
「……はウっ……」
くたと、父親ゴブリンにもたれかかるゴブリン娘。
「え、大丈夫……?
……と、とにかく、だ。
俺のこの道は、女子供を連れて成し遂げられるもんじゃぁねえってこった」
「……は、はうぅ……」
「ええ……?なにそれ?」
なんか、ほら、サービスエリアとかにあるじゃん?くねくね動くサボテン人形みてえなやつ。ゴブリン娘があの動きをしてため息をついてる……。どゆこと?
「はァ……、ワかった……ウチ……待ってる……」
「え、……なにを……?」
「ハンチョー!この、女殺し!」
突然背後からラリアット気味に抱きつくジャラン。
「てめっ、ジャラン!俺は女を殺したことはねぇ!」
「ふふ、……班長にも意外な一面があるんですね。ちょっとホッとしました」
「なんなんだよジュークまで!」
◇
なんだかんだ、ガヤついたが……。
ゴブリン達も少しは飯を食って顔の緑も濃くなった気がする。
今は全員馬車の幌の中で寝ている。
ジャランとジュークにも休めと言い、俺は1人で不寝番。
……今日は……色々あったな。
……こっち来て、……初めて人を殺した。
いや、それは正確じゃねえ。
……前世も含めて、だ。……初めて、殺した。
敵とはいえ、……人間を。
ズボンにつく血糊は乾いたが、はっきりと赤い。
必要な殺しだった、とか、そんなふうに思いたくねえ。
必要な殺しなんてどこにもねえし、必要に迫られて殺されなきゃいけねえやつなんてのもいねえ。
ただ……俺が殺した。
俺が選んで殺した。……3人も。
無力化に止めることもできたのに、だ。
でもよ、俺は神でもなんでもねえ。
やっちまったことを無かったことになんかできねえ。
生殺与奪の権なんてもんも持ってねえし、いらねえ。
ましてや、食うための殺しでもねえ。……ただの、殺し。
俺が、……いや、考えるな。
……ちがう!考えるべきだ。
この……先。
同じように、殺せるか?
……人間を
「クッソ……」
わっかんねえ。
……わっかんねえよ。
この……ただの殺しを。
誰かに肯定してもらいたいような。
してもらいたくないような。
ただ……。
そんな俺でも、誰かの役に1ミリでも立つってんなら……
……だったら、……俺は前に進むだけだ。
パチリと焚き火がはぜる。
誰かのイビキがうるせえ。
……ここに、生きてる命がある。
……今がある。今だけでいい。




