2-18
馬が嘶く。
ゴトと音を立てて馬車は進む。
荷台には痩せ衰えて動けないゴブリン達。
「しっかし、『まだやることがある』って、何する気かね?うちのハンチョーは」
「……たぶん、……いや、流石にそれはない。
……我々も今は目の前のことに集中しよう」
「でもよお、この馬車の通れるとこなんて、あの閉じっぱなしの門しかないだろ?
……俺らだけでどうすんの?」
「……班長のことだ……。なにか、考えがある……と、いいな……」
「うはっ!お前が自信ないってすっげえ珍しいな!
槍でも降るんじゃね?」
「……縁起でもないこと言うな」
◇
俺は、ひとつ、またひとつ、魔石の袋を逆さまにしていく。
小石サイズでも「ボン」だからな。
坑道みてえな狭い空間で、それが連続して起きたらどうなるか。それが、小石どころじゃねえサイズだったらどうなるか。
理科のセンコーでもワックワクしちまうだろ。
センコーでもない俺がこんなにワックワクしてんだからな。
それに……ゴブリン達に、ここがはっきりとぶっ壊れるところを見せてやりてえ。……いや、見せなきゃあ、ダメだ。
……もちろん、帝国のクソどもにもよーくわかるようにしてやらねえと。
おあつらえ向きに、こっちにゃ捕虜がいるんだしよぉ……。
ションベン漏らすほどの恐怖を植え付けてやるぜぇ……。
◇
大きな鉄の門の前で馬車を止めたジュークとジャランは門を調べていた。
「かんぬきも見当たらねえんですけどー!」
「……開閉装置らしきものも見当たらない」
「もう、ハンチョーを待つしかないかぁ」
「そう情けない声を出すな」
ジュークはアゴで馬車と捕虜にした赤鎧の4名を示しながらジャランを見る。
「そっか、俺たちが不安そうにしてたら、心配になっちまうもんな!」
「……そう、なんだが……
声に出すなよ……」
「それに、赤鎧達も俺たちだけだからって舐めたことしちゃうかもだしな!」
4人まとめて縄で縛られ、猿轡を噛まされた赤鎧達は身震いをする。
すわ、拷問か。
「勝手な真似をするなよ、ジャラン」
「……まあ、そうだよなー」
「コイツらにもコイツらなりの使い方がある」
「ハンチョーのオヤツとか?」
「……お前、いくらなんでも……、
……いや、あり得るな。班長なら一飲みにしてしまうだろう」
「んんんん!うんー!うう!」
「……へへ、おい、ジューク、見ろよ、コイツら喜んでやがるゼェ」
「……班長に喰われるんだ。……本望だろうさ」
「んんー!う、うう……」
白目を剥く4人の捕虜。
「ありゃ、やべえ、脅しすぎたかも」
「……お前なあ、いくら班長に『できる限り脅しとけ』って言われたって言っても……やりすぎだぞ?」
「お前の方が悪役向きだよな!
……俺、途中で吹き出しそうになっちまったよ!」
「俺……、私はお前に乗っただけだ!
それよりも早く起こせ!あのセリフを言ってないだろ!?」
「あ、そうだった。
うおーい、起きろー!」
ペシペシ捕虜の頬を叩く。次第に覚醒していく捕虜達。
ジュークは一つ大きく息を吸うと、
「……いいか、
……今後、魔族に手を出したらどうなるか魔王様直々に教えてやると仰せだ。……その時を震えて待て!
……また気絶したら、そのまま喰われてしまうぞ?」
ジャランはいつの間にか馬車の影に移動して、肩を震わせていた。
◇
「いよう、……待った?」
「いえ、首尾よく」
「へっへ。今からとっておきを見せてやるぜ」
「……ものすごく、楽しみです」
「そこのクソ帝国ボケ捕虜もよーっく見とけよ?」
首だけ縦に振る捕虜。……赤鎧ヘドバン4兄弟。計画通りジュークとジャランに脅されたんだな。素直になっていいことだ。
——息を大きく吸うと、馬鹿でかい声を出す。
「この、魔王の力を!
……ゴブリン達も刮目して見よ!」
「……魔族の夜明けぞ!」
「行くぜ!
モォガトシー…………!」
気分は甲子園優勝のかかった一点リードの9回裏の守り。ツーアウトフルカウント満塁……最後のピッチング。……マウンドにはピッチャー、俺。
「ウゥゥルトォォラァァ…………!」
大きく振りかぶって、右手に持つなんたらホーンの魔石の残りを、坑道入り口にせっせっと積んだ魔石に——ぶん投げる!
「……ボム!」
放たれる魔石は、ハレー彗星よりも速く(当社比)、一直線に坑道へ——
着弾!…………ポォン!
坑道の入り口がオレンジ色の光を放った。
——あれ?
「……え?」
「ちょ、……失敗っすか?」
ズ
地面が跳ねる。
山、だったものが火を吹く。
エルモアを囲った壁が一斉に外向きに倒れる。
木も、草も放射状に薙ぎ倒される。
世界から、音が——消えた。
突然、真っ暗になる視界。やべえハンチョー、マジやべえ。マジで魔王!コレ俺、死んだっしょ!くわー、もう一回グレイトホーン食いたかったー!デスピッグも!ルースターオブアビスも!マジやべえ!もっとしたいことあったのに!幼馴染のあの子に、カイショーナシというわけわからんあだ名で呼ばれるほど仲良しなのにー!
「おい!」
そういえば向かいの部屋に住んでるあの子も俺のことカイショーナシって呼ぶよな!あの子も俺と仲良くしたいに違いない!うひょー俺の人生薔薇色!ウッヒヒヒ!
「おい!ジャラン!」
あの子もあの子もきっと俺のことが好きなんだ!ハンチョーだって結婚できたんだ!俺は嫁さん5人はできるハズ!ウッヒョー!
「おい!起きろ!」
「うひ……あ、ジューク」
「……っ!班長!ジャランは無事です」
「そっか。じゃあ全員無事だな」
ぽいっとハンチョーが投げ捨てたのは、でこぼこになっちまってるけど……エルモアの壁の門だったもの。
でかいハンチョーよりずっとでかい鉄製のクソ重そうな門扉。
ゴワンと大きな音を立てるそれを見ながら、さっきのアレより大きな音じゃね?と思う。
……ていうか、俺の耳、ンギイイーンってなってね?
俺も、アレだけど……赤鎧達はもっと悲惨だ。
なんせ予備知識がなかったんだから。
目の前の大男——ハンチョーが、そこらのドラゴンよりおっかねえってことなんて。
口をポカンと開けて固まる赤鎧にハンチョーはズカズカ近寄る。
「……な?……わかったか?」
首がもげるんじゃないかってくらいうなづきまくる赤鎧達。
……あいつら側じゃなくてよかったー。
◇
トんでもないものを、見てしまっタ。
人間達にムりやり連れてコられたこの牢獄で。
来る日モ、来る日モ、岩を削り、鈍器で殴らレ、魔石を与えらレ、岩を削り……アる日突然に『収穫』サれる。
命の終焉の地と、オもっていた、この地で。
魔王様ノ放った大魔法は、我らに降りかかっタ、この理不尽を完膚無きまデに叩き伏せタ。
我らの乗る馬車を揺らスほどの轟音は、牢獄を飲み込み、高く築かれた壁をも薙ぎ倒しタ。
もう、岩を削らなくても、いいのカ。
もう、殴られなくても、いいのカ。
もう、仲間が『収穫』されることは、ないのカ。
我らは、ようやく——。
「いよう、……埃かぶっちまったな。
こんなとこはよ、さっさとおさらばすっか!」
トんでもない大魔法を使っタ、
トんでもない魔王様は、
ナんとも軽く、笑顔でそう言ったのダ。




