2-17
途中、扉で潰した赤鎧の頭数を数えて、ジューク達に合流した。
「すげえ!ハンチョー、やべえ!」
「まだ終わってねえ。気を抜くな、ジャラン」
「うえーい」
「怪我してるゴブリン達にコイツを飲ませろ。
すぐ良くなるはずだ」
ジュークの手のひらに砕いたなんたらホーンの魔石を渡す。
「わかりました」
「途中赤鎧をいくらか処理したが、聞いた数には足んねえ。
会敵する可能性はゼロじゃねえ」
「……オ父さん!」
気絶したままのゴブリンの男に少女は駆け寄った。
「……大丈夫だ。死んじゃあいねえ。
お父さんに、魔石飲ませてやれ」
「……ウん!」
少女に魔石の粉を渡す。
「……無事、だったんですね」
「ん、……まあ。
……ちょっと間に合わなかった」
「しかし、……最悪は避けられた。
そうでしょう?」
「……ああ。
いや、違うぞ。
最悪を避け続ける、が始まったんだ」
「っ!……はい!
すぐ、動きます!
ジャラン、こっちにも魔石をくれ!」
◇
魔石を飲んだゴブリン達はみるみると体調を回復させた。だが、栄養状態が芳しくなく、皆一様に痩せ細っており、まともに歩けないものもいた。
「馬車だ。馬車をかっぱらおう」
「おお、ハンチョー!そのとおりだぜ!そうしよう!」
だが、交差点をまっすぐ行った道——馬車が向かったとされる方向は、俺たちにとっての未探索区域だった。
生き残りの赤鎧がいるとするなら、ここが一番怪しい。
まず、俺たちは、弱ったゴブリン達を背負ったり、肩を貸しながら最初の交差点近くまでやってきた。
右に曲がれば出口。左は馬車が進んだであろう未探索区域。まっすぐ行った先は、胸糞悪い方。
俺は、まず、1人でまっすぐ行った先をもう一度確認しに行くことにした。
「パッと行ってパッと戻ってくるからよ」
「はい。こっちはまかせてください」
「おう。頼む」
短くジュークと話し、さっさと向かう。
やっぱり、通路に転がってるのは8人。……これは、さっき確認した数と変わらない。あと、あのクソヒゲを合わせると9人は無力化完了と評価して良い。残りは6名。……6名も所在がわからない。開けなかった扉の先にいてくれればまだ良い。無力化して、外にほっぽり出す。……魔晶石のことを知っていたら……。それは、その時考える。
ほったらかした扉は4枚。うち2枚は開いている。
コイツらがいた部屋と見る。中は営内の居室のようになっている。4人部屋。ベッドが4つ。敵影なし。
残り2枚。バンと開ける。2部屋とも同じ間取り。敵影なし。
一番奥の部屋。……めっちゃ嫌だけど、『収穫部屋』と呼ぶ。
ゴブリンの少女が縛り付けられていた板……べっとりした新しい血、の他に、染みついたような古い血の跡。……何人もここで『収穫』をされている……。台には収穫に使う道具が乱雑に置かれており、どれも血に濡れている。……棚には書類。ガッと取り、袋に詰め込む。壁の穴から外を見る。……だだっ広いエルモアだった土地。その真っ平らな土の上にヒゲだったものが転がっている。その他に……なにもない。
交差点に戻った俺は、「右通路敵影なし」と短くジュークとジャランに共有した。
「残る6名は外に出たかも知れねえが、坑道の出口付近で待ってろ」
「ハンチョー。俺はやっぱり馬車の方に全員いると思う。だって、足跡ねえもん」
「だよな。でもよ、警戒は怠るな。
別の出口があるってこともなくはねえ」
「わかりました。……班長もお気をつけて」
「おう」
◇
俺は再び1人で通路を進む。
魔石が満載の馬車が通った道は相変わらず土がかけられており、くっきりと轍が残る。だが、足跡はない。つまり、この道を赤鎧達は使っていない。……ならば、どこへ行った?
へ、と笑いが出る。
どこに行ったって関係ねえや。
その可能性、行き先を特定してとっちめる。
それだけなんだからな。
考えてもしょうがねえこと考えてもしょうがねえ。
前世っから人生の教科書だったロックバンドの名言。
そうだよ。しょうがねえことはしょうがねえ。
やるだけやって、後は歴史のセンコーに全振りだ。
……で、どうすっかな。
辿り着いたのは、ロータリ状の降車場ってところ。
扉が一つに、馬車の駐機場。あと厩舎。
馬車は一つに馬一頭。
予想よりなんもねえんだもんな。
扉は……、倉庫だった。
袋に詰まった何かがうず高く積まれている。袋の一つを開くと魔石が入っている。
さて、状況から察するに、だ。
赤鎧とヒゲはさっきの交差点で下りた。馬車は、赤鎧を6人乗せてまた別の魔石を集めに他の場所に向かった。
残った目の前の馬車は、もしかしたら俺らが追ったやつかもな。馬車自体も変えたって考えるのが筋も通るかな。
まあ、馬の顔なんか見分けられねえし、わかんねえけど!
でもよ、車輪についた土ならわかるぜ。
……こびりついた土は嘘をつかねえ。コイツには外の土が付いている。ご丁寧に、草を踏んだ汁まで、な。
さあ、コイツが外から来たことはわかった。
ほんじゃ、かっぱらってこんなとこお暇するとするか。
最後にでけえ花火をあげて、よ。
赤鎧はまだどっかに隠れてるとしても知らね。
探して出てこねえならもう知らね。




